45歳、妊娠しました

第23話 安定の兆し

梅雨が明け、街に夏の光が降り注ぐ頃。

美香の体調は少しずつ落ち着き、つわりもほとんどなくなっていた。

「ようやくご飯の匂いで気持ち悪くならなくなったわ」

夕食の食卓でそう笑うと、健一と結衣も安堵の表情を見せた。



膨らみ始めたお腹に、無意識に手を添えることが増えた。

その仕草を見て、結衣が少し照れたように口を開いた。

「ねえ、もう性別とか分かるの?」

「次の健診でわかるかもしれないって先生が言ってたわ」

「ふーん……」

結衣は何気ない風を装いながらも、視線はお腹に吸い寄せられていた。



夜、寝室で健一が小さな声で言った。

「なあ、美香。最近、結衣が少し柔らかくなったと思わないか?」

「ええ。きっと戸惑ってた気持ちを、自分なりに整理しようとしてるんでしょうね」

「……俺も頑張らないとな」



その言葉に、美香は笑った。

「19年ぶりに“パパ業”復帰だものね」

健一は苦笑しながらも、

「今度は前よりちゃんとやる」

と真剣な目で答えた。



その夜、美香はベッドに横になりながら、小さな胎動を感じた。

トクトクと生きている鼓動が、確かに自分の中にある。

──この命を守るために、私はまだ歩き続けられる。



窓の外には夏の星が瞬いていた。

新しい家族の未来を、静かに照らしているようだった。

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