45歳、妊娠しました

第24話 受け入れる気持ち

夏休み前の午後、結衣は予備校の自習室で参考書を閉じ、大きく伸びをした。

結衣は友人の彩香と並んで帰り支度をしていた。



「ねえ、この前の話……」

彩香がためらいがちに切り出す。

「お母さんのこと、少しは落ち着いた?」



結衣は一瞬言葉を探した。

けれど以前のように強く否定はしなかった。

「……まだ完全に慣れたわけじゃないけど。ママ、本当に赤ちゃん産むんだなって実感してきてさ」



彩香は安心したように笑う。

「そうだよね。なんか結衣が“お姉ちゃん”になるって、ちょっと似合ってると思う」

「え、なにそれ」

そう言いながら、結衣の頬は少し赤くなった。



その日の夕方、帰宅すると、リビングに母の母子手帳が置かれていた。

表紙には可愛いイラストと「佐藤美香」と記された文字。

ページをめくると、健診の記録やエコー写真が貼られていた。

白黒の画面に映る小さな手足。



結衣は不思議な気持ちでその写真を見つめた。

──これが、私の弟か妹になるんだ。



「結衣、それ見てたの?」

背後から美香の声がした。

「うん……なんか、実感わいてきた」

結衣は正直に答えた。



美香は優しく微笑んだ。

「あなたが生まれたときも、こうして小さな影だったのよ。あの時の感動は、今も忘れてない」

「……そうなんだ」

結衣は少し照れくさそうに笑った。



その夜、日記に「少しずつ、受け入れられてきたかも」と書き残した。

まだ戸惑いはある。

でも新しい家族を迎える未来を、ほんの少し楽しみに思える自分がいた。

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