45歳、妊娠しました
第29話 それぞれの場所で
白いシーツに囲まれた病室。
窓の外には秋晴れの空が広がっていたが、美香の心はどんよりと曇っていた。
看護師が血圧を測りながら優しく言う。
「大丈夫ですよ。お腹の赤ちゃんも元気に動いています」
その言葉に少し安心しつつも、美香は胸の奥に重たい不安を抱えたままだった。
──結衣はちゃんとやれているかしら。
──健一は仕事を調整できているの?
手を伸ばしても、そこには誰もいない。
これまで忙しさに追われても、帰れば家族の気配があった。
だが今は、たった一人でベッドに横たわっている。
孤独がじわりと広がっていった。
一方その頃、家では健一がエプロン姿で夕食の支度をしていた。
フライパンから立ちのぼる音を聞きながら、結衣はテーブルに教科書を広げている。
「パパ、火強すぎじゃない?」
「え、そうか?」
「あーあ、また焦げてる……」
呆れたように言いながらも、結衣は立ち上がり、野菜を切り始めた。
包丁を持つ手はまだおぼつかないが、真剣そのものだ。
「ごめんな、結衣。受験勉強だって忙しいのに」
「……いいよ。だって、私しかいないじゃん」
その言葉に健一は胸が詰まった。
妻が病院で闘っている間、自分と娘でこの家を守るしかない。
そして、ただ支えられるだけだった娘が、少しずつ「一緒に支える側」になろうとしているのを、確かに感じた。
夜、病室で眠れずにいた美香のスマホが震えた。
画面には結衣からのメッセージ。
> 「パパの料理、焦げてた。でも私が助けてあげたよ」
「ママは心配しないで。私たち頑張ってるから」
文面を読み終えた瞬間、美香の目から涙がこぼれた。
枕に顔を埋め、嗚咽を押し殺しながら呟く。
「ありがとう……」
孤独に沈みかけていた心に、小さな灯がともった。
窓の外には秋晴れの空が広がっていたが、美香の心はどんよりと曇っていた。
看護師が血圧を測りながら優しく言う。
「大丈夫ですよ。お腹の赤ちゃんも元気に動いています」
その言葉に少し安心しつつも、美香は胸の奥に重たい不安を抱えたままだった。
──結衣はちゃんとやれているかしら。
──健一は仕事を調整できているの?
手を伸ばしても、そこには誰もいない。
これまで忙しさに追われても、帰れば家族の気配があった。
だが今は、たった一人でベッドに横たわっている。
孤独がじわりと広がっていった。
一方その頃、家では健一がエプロン姿で夕食の支度をしていた。
フライパンから立ちのぼる音を聞きながら、結衣はテーブルに教科書を広げている。
「パパ、火強すぎじゃない?」
「え、そうか?」
「あーあ、また焦げてる……」
呆れたように言いながらも、結衣は立ち上がり、野菜を切り始めた。
包丁を持つ手はまだおぼつかないが、真剣そのものだ。
「ごめんな、結衣。受験勉強だって忙しいのに」
「……いいよ。だって、私しかいないじゃん」
その言葉に健一は胸が詰まった。
妻が病院で闘っている間、自分と娘でこの家を守るしかない。
そして、ただ支えられるだけだった娘が、少しずつ「一緒に支える側」になろうとしているのを、確かに感じた。
夜、病室で眠れずにいた美香のスマホが震えた。
画面には結衣からのメッセージ。
> 「パパの料理、焦げてた。でも私が助けてあげたよ」
「ママは心配しないで。私たち頑張ってるから」
文面を読み終えた瞬間、美香の目から涙がこぼれた。
枕に顔を埋め、嗚咽を押し殺しながら呟く。
「ありがとう……」
孤独に沈みかけていた心に、小さな灯がともった。