45歳、妊娠しました

第38話 産声

手術室の空気は、張り詰めた緊張で満ちていた。

 医師と看護師たちの声が飛び交い、美香の胸は期待と不安で早鐘を打つ。



「はい、もうすぐです」

 医師の声に、心臓が一気に高鳴った。



 次の瞬間──。



 「おぎゃあ! おぎゃあ!」



 力強い産声が手術室に響き渡った。

 その声を耳にした瞬間、美香の目から自然に涙があふれ出した。

(……生まれた。私の赤ちゃん……)



 小さな命はすぐに看護師に抱き上げられ、処置が施される。

 「元気な男の子ですよ」と医師が告げたとき、美香の胸に込み上げるものは言葉にできなかった。



 その頃──。



 廊下で待つ健一と結衣の耳にも、かすかに産声が届いた。

 二人は同時に顔を上げ、思わず立ち上がる。



「今の……赤ちゃんの声?」

 結衣の声は震えていた。



 健一は涙をこらえきれず、娘の肩を強く抱き寄せた。

「ああ……生まれたんだ。母さんも、赤ん坊も……頑張ったんだ」



 結衣の目からも涙があふれた。

「弟……本当に生まれたんだね……」



 手術室の扉が開き、看護師が微笑みながら二人に告げた。

「無事に元気な男の子が生まれました。お母さんも安定しています」



 その言葉に、健一と結衣は同時に深く息を吐いた。

 長い緊張がほどけ、ただただ感謝の気持ちがこみ上げてくる。



 新しい命が、確かにこの世に誕生した。

 それは、家族にとって新しい未来の始まりでもあった。

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