45歳、妊娠しました

第46話 新しい日常の始まり

職場復帰から二週間。朝は相変わらず慌ただしいが、少しずつ新しい生活のリズムができてきた。

 美香はスーツ姿で出勤前に哺乳瓶を用意し、健一が車で蓮を保育園に送り届ける。夜は結衣が予備校帰りに洗濯物を取り込んでくれたり、夕食の準備を手伝ってくれたりする。



 「結衣、今日もありがとうね」

 台所に立つ娘に声をかけると、結衣は少し照れくさそうに笑った。

 「ううん。私だって受験生だけど、家のことはみんなでやらないとでしょ。…それに、蓮くんの笑顔見たら疲れ吹っ飛ぶし」



 そう言いながら、結衣は蓮のほっぺを指でつつく。小さな体で声をあげて笑う弟を見て、家族の心は自然とやわらいでいった。



 一方、美香は仕事でも課長としての責任が待っていた。復帰した途端に新しいプロジェクトを任され、部下の相談にも乗らなければならない。

 「大丈夫?」と健一に心配されるたび、美香は「大丈夫よ」と笑ってみせるけれど、実際は家と仕事の両立に精一杯だった。



 そんなある晩。夕食を終え、蓮を寝かしつけたあと、健一がぽつりと言った。

 「…家族みんなで支え合ってるんだな、俺たち」

 「そうね。ひとりじゃとても無理だったと思う」

 美香は夫の言葉に静かにうなずく。結衣がテーブルの向こうで参考書を開きながら、「家族チーム、って感じだよね」と笑った。



 忙しさの中でも、こうして寄り添える時間があることが、美香にとって何よりの力になっていた。

 ──蓮を育てながら働き続ける。決して簡単ではないけれど、家族となら進んでいける。そう実感できる夜だった。
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