45歳、妊娠しました

第50話 小さな成長、大きな一歩

春の風がやわらかく吹き始めたころ、蓮は保育園の生活にだいぶ慣れてきた。

 最初はママと離れるたびに大泣きしていたのに、最近は先生に抱っこされながら小さな手を振って「いってらっしゃい」ができるようになった。



 その姿を見送るたび、美香の胸は少し切なく、そして誇らしくもあった。

 「蓮も、少しずつ自分の世界を広げてるんだな」

 抱えている書類バッグが重くても、足取りは不思議と軽くなった。



 一方、結衣はいよいよ受験本番を迎えようとしていた。模試の結果に一喜一憂しながらも、夜遅くまで机に向かう日々。

 そんな結衣の前に、蓮がよちよちとハイハイで近づき、ノートの上に手を置いた。

 「……もう、蓮くん、そこはダメだってば」

 そう言いながらも、結衣の口元には自然と笑みが浮かぶ。



 リビングの隅でその様子を見ていた美香と健一は、そっと視線を交わした。

 「勉強の邪魔になってないかな」

 「いや、むしろ支えになってるみたいだな」



 結衣は蓮を抱き上げ、小さな額に軽くキスをした。

 「絶対、合格してみせるから。そしたら、お姉ちゃんもっといっぱい遊んであげるね」

 その言葉に応えるように、蓮は無邪気に笑った。



 蓮の小さな成長と、結衣の大きな挑戦。

 それぞれの歩みが、家族の未来を少しずつ形作っていくのを、美香は静かに感じていた。

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