治療不可能な恋をした
初めての、ふたり時間
理人と付き合い始めて、数週間。
関係はようやく始まったばかりだけれど、それは思っていたよりずっと、日常の隙間にしっくりと馴染んでいた。
仕事も以前のように、必要な場面ではスムーズに連携し、職場では互いに余計なことは口にしない。
それでも、ふとした瞬間に変化は確かに顔を覗かせる。
人目のない場所ですれ違う時、外来の帰り道、あるいは夜遅くなった静かな病棟の廊下。
そんな隙間を見つけては、理人は何かと梨乃に触れてこようとした。
肩に手を置く。髪に触れる。あるいは、耳元にそっと近づいて内緒話みたいに声を落とす。
あくまで自然に、けれど明らかに今までとは違う温度を帯びている。
まるで、今になってようやく触れられる幸せを少しずつ確かめているような距離の近さ。
そんな夜も、今日が初めてではなかった。