治療不可能な恋をした
同窓会、続く想い
夜の街を、わずかにひんやりとした風が通り抜ける。街灯の光がアスファルトに小さく反射して、淡い金色の帯を作っていた。
梨乃は仕事の疲れを抱えながらも、心臓が少し早く打つのを感じ、歩道を駆け足で進む。
(予定より遅くなっちゃった…!)
手にした鞄を軽く抱き直し、息を整えつつ視線は前へ。
目指すのは、落ち着いた雰囲気のレストラン。理人とのディナーは、今日の小さな楽しみだった。
角を曲がると、前方に店の灯りが見えた。温かいオレンジ色の光が、夏の夜の蒸し暑さをほんの少し和らげている。
遅れてしまったことに少し焦りながら扉を押すと、心地よい音楽と人々の声が流れ、店内の温かさにほっと息をつく。
奥のテーブル席でスマホを見ていた理人が、梨乃に気付き、にこりと笑みを向けながら軽く手を上げた。
「待たせてごめんね。帰りに医長に呼び止められちゃって……」
「全然いいよ。残業お疲れ」
理人は少し首を振るように微笑み、その柔らかい笑顔に、梨乃は自然と肩の力が抜け、少し安心した。
「お腹空いたでしょう?先食べてくれててよかったのに」
「いや、店も連れが来るまで待ってていいって言ってくれたし……なにより梨乃が来るって分かってたら、その時間すら待ち遠しかった」
「え……」
「いつ来てくれるだろうって、楽しみに待ってた」
その言葉に、梨乃の胸が小さく跳ねる。緊張と驚き、そして少しだけくすぐられるような幸福感が、ゆっくり膨らんでいった。