治療不可能な恋をした
恋心、隣で焦れて


とある週明けの昼すぎ、梨乃は当直明けの代休で家にいた。

窓から差し込む柔らかな光の下、静かなリビングでコーヒーを手にしていた。

スマートフォンに目を落とすと、理人からのメッセージが届いていた。画面に映る彼の名前を見るだけで、自然とふっと笑みがこぼれた。

「ただいまあ〜」

リビングに明るい声が響き、振り向くと愛梨がにこやかに立っていた。

「お姉ちゃん、おかえり」

「うん。あれ?梨乃だけ?」

「ううん。お母さん2階にいるよ。洗濯中」

「あ、なるほど〜」

愛梨は梨乃の向かいに座り、手土産のケーキを手渡す。

「お客さんから教えてもらったおすすめのケーキ屋さんで色々買ってきたよ。一緒に食べよ〜」

「ありがとう。じゃあ私、飲み物用意するね。お姉ちゃんも紅茶でいい?」

「うん。よろしく」

梨乃がキッチンに入ると、愛梨はテーブルに肘をつきながら、窓の外の風景を見ながら「あっつ〜、なかなか涼しくならないねえ」と手で扇ぎながら笑う。

「梨乃は今日代休だっけ。仕事どう?」

「なんとか山場は超えたって感じ。お姉ちゃんは?」

「私もかな〜。夏は着付けやヘアメの予約も大量に入るから、毎年大変だよ〜」

梨乃が紅茶の準備のため鍋に水を張り、お湯を沸かしながらカップを揃えていると、愛梨が楽しそうに話し始める。

「でも今週末には宙の陸上の大会もあるしね。まだゆっくりできそうにないや」

「そっか、もうそんな時期か。今週なら私も休みだから、応援行こうかな」

「あれ、梨乃はデートなんじゃないの?」

「へ?」
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