治療不可能な恋をした
治療不可能な、恋をした
あの日の約束から、ふたつの季節が巡った。
色づいていた木々は葉を落とし、寒さに耐える冬を越え、再び芽吹きの季節を迎えていた。その間も病院の日々は変わらず慌ただしく、梨乃は外来や回診に駆け回っていた。
そして今日も、白衣の裾を揺らしながら慌ただしく病棟の廊下を歩く。カルテを確認しながら足を速めていると、看護師が小走りで駆け寄ってきた。
「逢坂先生!」
その呼び名に、思わず胸が跳ねた。
「すみません、先生。先ほどの五歳の男の子ですが、熱は下がったんですけど食欲が戻らなくて……。お母さまがとても心配されていて」
梨乃はカルテをめくりながら、少し立ち止まる。
「そうですか…。水分は取れていますか?」
「少しだけ。でも、まだ十分とは言えなくて」
梨乃は小さく頷き、考えを巡らせながら答えた。
「わかりました。まずは補液を少し続けましょう。それと、食べやすいものを試してもらえるといいですね。あとで病室に伺って、私からお母さまに直接説明しますね」
看護師は安心した表情で微笑む。
「助かります、逢坂先生。保護者の方も、先生に話していただけると安心されると思います」
「いえ。では、診察の合間に伺いますね」
梨乃の言葉に看護師は軽く頷き、病室へと戻っていった。