治療不可能な恋をした
暴かれる、未練
週末の夜。
予約された居酒屋の個室は、靴を脱いで上がる掘りごたつ式の座敷になっていた。
人数にして30名ほど。送別と歓迎を兼ねた顔ぶれの多い飲み会は、開始早々からにぎやかだった。
奥の席では外科と内科の医師たちがすでに盛り上がっていて、看護師や検査技師たちの笑い声も途切れることなく響いている。
梨乃はといえば、小児科の同僚たちと壁際のテーブルを囲み、乾杯のあともグラスにはほとんど口をつけずにいた。
代わりに、目の前の枝豆や唐揚げ、小鉢に盛られたサラダなどを黙々と箸でつついていた。
(……賑やかだな)
そう思いながらも、視線は自然と斜め向こうの席に引き寄せられていた。
理人の周りには、いつのまにか人だかりができていた。左右には、華やかな装いの女性たちが座り、そのどれもが彼の方へ身体を傾けている。
白衣姿とは違うラフな私服姿のせいだろうか。
笑い声に包まれながらも、どこか浮ついたようなその空気が、なぜか胸に引っかかった。
梨乃のいるテーブルとの間には、たった数人分の距離しかなかった。けれどそれよりもずっと大きな、目に見えない隔たりがあった。