治療不可能な恋をした
まわり道、再燃の夜

グラスの液体が、また底をついた。

酔いがまわるほど飲んだつもりはなかった。
けれど、心に押し込めた感情とアルコールが交じり合って、全身がじわりと重くなる。

(……ちょっと、息苦しいかも)

そう思ってすぐ、梨乃はそっと会場を抜け出した。

シャンデリアの輝きが背中に遠のき、パーティのざわめきも次第に薄れていった。

重たい空気から逃れるように、人気の少ないホテルの廊下に出る。ひんやりとした静けさがやけに肌にしみた。梨乃はゆっくりと壁に肩を預け、目を閉じた。

(……やっぱり私じゃ、届かないのかな)

自然に人の輪の中に入っていける人たちとは違う。周囲に気を遣いながら、飲み交わす場にも馴染めない。

そして、誰かを好きになることさえ、まっすぐにできない。

胸が、痛かった。誰のせいでもないのに、自分だけが取り残されたような気がして。

「……っ」

歪む視界の中、だんだんと上下左右の感覚が覚束なくなって、咄嗟に口に手を添えた。

そのときだった。

「……仁科!」

突然かけられた声に、目を開ける。
視線の先には、理人の姿があった。

(なんで……?)

なぜ彼まで、会場の外にいるのだろう。回らない頭で、駆け寄ってくる理人を見つめる。

焦ったように近づいてきた理人が目の前に来て、自分の顔を見てふっと眉をひそめた。

「……顔が赤い。大丈夫か?」

「だい、じょうぶ……」

声は出たけれど、身体の奥がふわりと揺れる。足元に力が入らず、思わず前のめりになるようにバランスを崩した。

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