追放された薬師ですが、冷酷侯爵に溺愛されて辺境でスローライフ始めます
第10章 陰謀の影
夜。
王宮の奥深く、人目につかない廊下。
リディアは、薬草倉庫から戻る途中だった。
手には、薬草の入った袋を持っている。
廊下は、暗い。
蝋燭の灯りが、わずかに道を照らしているだけだ。
リディアは、静かに歩いていた。
その時。
前方から、声が聞こえた。
リディアは、足を止めた。
誰かが、話している。
リディアは、壁に身を寄せた。
声の方向を、確認する。
廊下の突き当たり、小さな扉がある。
密室だ。
普段は、使われていない部屋のはずだ。
だが、今、中から声が聞こえる。
リディアは、息を潜めた。
そして、そっと扉に近づいた。
扉には、わずかな隙間がある。
リディアは、その隙間から中を覗いた。
部屋の中には、数人の人影がある。
蝋燭の光が、彼らを照らしている。
リディアは、息を呑んだ。
セレナだ。
そして、その周りに、貴族たちが座っている。
皆、王太子派閥の者たちだ。
リディアは、耳を澄ませた。
セレナが、話している。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
セレナの声は、優雅だ。
だが、冷たい。
「国王陛下の病について、ご報告いたします」
貴族たちが、身を乗り出した。
「計画は、順調に進行しております」
セレナは、微笑んだ。
「陛下は、私の秘薬を毎日服用されています。そして、症状は着実に悪化しております」
貴族の一人が、問いかけた。
「あとどれくらいで、昏睡状態に?」
セレナは、冷静に答えた。
「あと数ヶ月でしょう」
貴族たちが、ざわめいた。
「数ヶ月……」
「それまでに、王太子殿下を擁立しなければ」
セレナは、頷いた。
「その通りです。陛下が昏睡状態になれば、王太子殿下が摂政となります」
セレナの目が、光った。
「そして、私が王太子妃となれば、実権は我々のものです」
貴族たちが、にやりと笑った。
だが、その時。
一人の貴族が、不安そうに言った。
「ですが、セレナ様。リディアが、余計な動きをしているようですが」
セレナの顔が、一瞬強張った。
「リディア……」
「ええ。彼女、最近妙に薬学に熱心で、何人かの病人を治したとか」
「王宮内で、評判が上がっているそうです」
別の貴族が、続けた。
「始末すべきではないでしょうか?」
セレナは、しばらく黙っていた。
そして、冷たく笑った。
「いいえ、まだ泳がせておきましょう」
「泳がせる……?」
「ええ。リディアは、所詮小娘です。何も知りません」
セレナは、優雅に扇を広げた。
「彼女が何をしようと、私たちの計画には影響ありません」
「ですが——」
「心配ありません」
セレナは、断言した。
「いずれ、彼女は追放します。その時が来るまで、放っておきましょう」
貴族たちは、渋々頷いた。
セレナは、続けた。
「それよりも、重要なのは国王陛下です。確実に、計画を進めましょう」
貴族たちが、同意した。
「わかりました、セレナ様」
「全ては、セレナ様のご指示通りに」
セレナは、満足そうに微笑んだ。
「では、今日はこれで終わりにしましょう」
貴族たちが、立ち上がり始めた。
リディアは、慌てて扉から離れた。
そして、廊下の暗闇に身を隠した。
心臓が、激しく打っている。
呼吸が、荒い。
リディアは、手で口を覆った。
音を立ててはいけない。
扉が、開いた。
貴族たちが、部屋から出てくる。
セレナも、優雅に歩いて出てきた。
彼らは、廊下を歩いて行った。
リディアとは、反対方向へ。
リディアは、暗闇の中で、じっと待った。
足音が、遠ざかる。
完全に聞こえなくなった。
リディアは、息を吐いた。
体が、震えている。
恐怖で。
セレナの計画。
国王を、毒殺する。
そして、王太子を擁立する。
全て、計画通りだと。
リディアは、眉間にしわを寄せた。
やはり、前回の人生と同じだ。
セレナは、国王を殺そうとしている。
リディアは、壁に背中を預けた。
どうすればいい。
証拠を、掴まなければ。
だが、どうやって。
リディアは、薬草の袋を握りしめた。
今は、まだ動けない。
まだ、準備ができていない。
リディアは、深呼吸をした。
落ち着け。
焦ってはいけない。
リディアは、廊下を静かに歩き出した。
自室へ、戻る。
心の中で、リディアは呟いた。
必ず、止める。
セレナの陰謀を、必ず止める。
リディアは、自室に戻った。
扉を閉め、鍵をかける。
リディアは、ベッドに座り込んだ。
手が、震えている。
心臓が、まだ早鐘のように打っている。
セレナの陰謀。
国王の毒殺。
リディアは、深呼吸をした。
落ち着け。
冷静に、考える。
リディアは、机に向かった。
引き出しを開け、革表紙のノートを取り出した。
前世ノート。
リディアは、ノートを開いた。
ページをめくる。
前世の記憶が、そこに書かれている。
製薬会社の、薬害事件。
リディアは、そのページを見つめた。
「利益優先——患者の命よりも、会社の利益」
「副作用隠蔽——データの改ざん、報告書の破棄」
「告発者の排除——内部告発者の左遷、脅迫」
リディアは、手が震えた。
これは——。
リディアは、新しいページを開いた。
そして、羽根ペンを手に取った。
書き始める。
「セレナの陰謀——」
「国王の毒殺——利益優先(王太子妃の座、実権掌握)」
「副作用隠蔽——秘薬の依存性を隠蔽、貴族たちを依存症に」
「告発者の排除——リディアを追放予定」
リディアは、ペンを止めた。
見つめる。
前世のページと、今のページ。
並べる。
完全に、一致している。
手口が、全て同じだ。
リディアは、息を呑んだ。
前世でも、今世でも、同じ構造だ。
利益のために、人の命を危険に晒す。
副作用を隠蔽し、真実を語る者を排除する。
リディアは、拳を握った。
前世では、リディアは負けた。
誰も信じてくれず、孤立し、左遷された。
患者たちは、苦しみ続けた。
真実は、闇に葬られた。
だが——。
今世では、違う。
リディアは、全てを知っている。
セレナの手口を。
陰謀の全貌を。
そして、前世の失敗を。
リディアは、ペンを握り直した。
書く。
「今度こそ、阻止する」
「前世の二の舞には、させない」
「患者たちを、救う」
「真実を、明らかにする」
リディアは、ノートを見つめた。
そして、新しいページを開いた。
大きく、書いた。
「セレナ打倒計画」
リディアは、その下に、箇条書きで書き始めた。
「1.証拠を掴む——セレナの秘薬のサンプルを入手し、成分を分析」
「2.被害者を記録する——国王の症状、貴族たちの依存症状を詳細に記録」
「3.味方を作る——下級薬師たち、治療した貴族たちの信頼を得る」
「4.カイルの力を借りる——辺境に逃れ、そこから反撃」
「5.真実を公表する——証拠を揃え、王宮で告発」
リディアは、リストを見つめた。
これが、リディアの戦略だ。
一つ一つ、確実に実行する。
リディアは、ノートを閉じた。
そして、窓の外を見た。
月が、浮かんでいる。
冷たい、白い光。
だが、リディアの心は、燃えていた。
前世では、負けた。
だが、今世では、勝つ。
リディアは、立ち上がった。
机の前に戻り、再びノートを開く。
セレナの秘薬について、詳細に書き始めた。
「赤い蔓草の根——依存性物質」
「月光花の花粉——神経刺激作用」
「魔晶石の粉末——魔力増幅、神経負荷」
「配合比——前世の依存性薬物と一致」
リディアは、書き続けた。
国王の症状。
「倦怠感——薬物中毒の初期症状」
「記憶障害——神経系の破壊」
「意識混濁——中毒の進行」
リディアは、全てを記録した。
証拠を、積み上げる。
データを、集める。
時間が、過ぎる。
蝋燭が、短くなる。
リディアは、新しい蝋燭を灯した。
そして、書き続けた。
夜が、更けていく。
だが、リディアは止まらなかった。
リディアの目には、決意の光が宿っていた。
今度こそ、阻止する。
セレナの陰謀を。
前世の失敗を、繰り返さない。
リディアは、ペンを握りしめた。
ノートに、書き続けた。
静かな部屋で、一人。
だが、リディアの心は、燃えていた。
翌日。
リディアは、王宮の廊下を歩いていた。
昨夜、ほとんど眠れなかった。
セレナの陰謀が、頭から離れない。
リディアは、何とかしなければと焦っていた。
その時。
前方から、アルヴィンが歩いてきた。
リディアは、足を止めた。
アルヴィン。
セレナに操られている、傀儡。
だが、もしかしたら——。
もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。
リディアは、意を決した。
「アルヴィン様」
リディアは、アルヴィンを呼び止めた。
アルヴィンは、面倒そうに立ち止まった。
「何だ、リディア」
リディアは、アルヴィンに近づいた。
周囲に、人がいないことを確認する。
そして、小声で言った。
「お話ししたいことが、あります」
アルヴィンは、眉をひそめた。
「手短に頼む。忙しい」
リディアは、深呼吸をした。
そして、言った。
「セレナ様は、危険です」
アルヴィンの顔が、強張った。
「何?」
「陛下の病は、セレナ様の薬が原因かもしれません」
アルヴィンの目が、鋭くなった。
「リディア、お前、何を言っている」
リディアは、続けた。
「セレナ様の秘薬には、依存性物質が含まれています。陛下は、その薬で中毒になっているのです」
アルヴィンの顔が、赤くなった。
「黙れ」
「アルヴィン様、お願いです。信じて——」
「黙れと言っている!」
アルヴィンは、怒鳴った。
リディアは、震えた。
アルヴィンは、リディアを睨みつけた。
「お前、これは婚約者の嫉妬か?」
「嫉妬……?」
「そうだろう。お前は、セレナ様が俺に近いことが気に入らないのだろう」
リディアは、首を振った。
「違います! これは事実です!」
「事実? 証拠はあるのか?」
リディアは、言葉に詰まった。
証拠。
まだ、確たる証拠がない。
アルヴィンは、冷たく笑った。
「ないのだろう。お前は、ただセレナ様を侮辱したいだけだ」
「違います!」
リディアは、必死に訴えた。
「私は、証拠を集めます。それまで、待ってください」
「待つ?」
アルヴィンは、鼻で笑った。
「お前の妄想に、付き合う時間はない」
「妄想ではありません!」
リディアの声が、大きくなった。
「セレナ様は、陛下を毒殺しようとしているのです!」
アルヴィンの顔が、さらに赤くなった。
そして、リディアの肩を掴んだ。
「リディア、もう一度言ってみろ」
アルヴィンの声が、低く、怒りに満ちている。
リディアは、アルヴィンの目を見た。
その目には、怒り、そして——セレナへの盲目的な信頼があった。
リディアは、悟った。
アルヴィンは、完全にセレナに取り込まれている。
もう、何を言っても無駄だ。
リディアは、唇を噛んだ。
「……すみませんでした」
アルヴィンは、リディアを離した。
そして、冷たく言った。
「お前との婚約は、失敗だった」
リディアは、息を呑んだ。
アルヴィンは、続けた。
「お前は、俺にとって何の価値もない」
「セレナ様を侮辱し、根拠のない妄想を語る」
「お前は、婚約者として失格だ」
アルヴィンは、リディアに背を向けた。
「二度と、俺の前でセレナ様の悪口を言うな」
アルヴィンは、そう言い残し、歩いて行った。
リディアは、その場に立ち尽くした。
廊下に、一人残された。
リディアは、拳を握った。
爪が、掌に食い込む。
痛い。
だが、心の痛みの方が大きい。
アルヴィンは、完全にセレナの側だ。
リディアの言葉を、一切信じない。
リディアは、顔を上げた。
廊下の向こう、アルヴィンの背中が見える。
リディアは、心の中で呟いた。
もう、彼には期待しない。
アルヴィンは、セレナの傀儡だ。
救う価値はない。
リディアは、自分で戦う。
一人で。
たとえ、誰も信じてくれなくても。
たとえ、孤独でも。
リディアは、セレナを止める。
国王を、救う。
真実を、明らかにする。
リディアは、拳を握りしめた。
そして、歩き出した。
アルヴィンとは、反対方向へ。
リディアの心は、決まっていた。
もう、迷わない。
もう、誰かに頼らない。
リディアは、自分の力で戦う。
王宮の奥深く、人目につかない廊下。
リディアは、薬草倉庫から戻る途中だった。
手には、薬草の入った袋を持っている。
廊下は、暗い。
蝋燭の灯りが、わずかに道を照らしているだけだ。
リディアは、静かに歩いていた。
その時。
前方から、声が聞こえた。
リディアは、足を止めた。
誰かが、話している。
リディアは、壁に身を寄せた。
声の方向を、確認する。
廊下の突き当たり、小さな扉がある。
密室だ。
普段は、使われていない部屋のはずだ。
だが、今、中から声が聞こえる。
リディアは、息を潜めた。
そして、そっと扉に近づいた。
扉には、わずかな隙間がある。
リディアは、その隙間から中を覗いた。
部屋の中には、数人の人影がある。
蝋燭の光が、彼らを照らしている。
リディアは、息を呑んだ。
セレナだ。
そして、その周りに、貴族たちが座っている。
皆、王太子派閥の者たちだ。
リディアは、耳を澄ませた。
セレナが、話している。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
セレナの声は、優雅だ。
だが、冷たい。
「国王陛下の病について、ご報告いたします」
貴族たちが、身を乗り出した。
「計画は、順調に進行しております」
セレナは、微笑んだ。
「陛下は、私の秘薬を毎日服用されています。そして、症状は着実に悪化しております」
貴族の一人が、問いかけた。
「あとどれくらいで、昏睡状態に?」
セレナは、冷静に答えた。
「あと数ヶ月でしょう」
貴族たちが、ざわめいた。
「数ヶ月……」
「それまでに、王太子殿下を擁立しなければ」
セレナは、頷いた。
「その通りです。陛下が昏睡状態になれば、王太子殿下が摂政となります」
セレナの目が、光った。
「そして、私が王太子妃となれば、実権は我々のものです」
貴族たちが、にやりと笑った。
だが、その時。
一人の貴族が、不安そうに言った。
「ですが、セレナ様。リディアが、余計な動きをしているようですが」
セレナの顔が、一瞬強張った。
「リディア……」
「ええ。彼女、最近妙に薬学に熱心で、何人かの病人を治したとか」
「王宮内で、評判が上がっているそうです」
別の貴族が、続けた。
「始末すべきではないでしょうか?」
セレナは、しばらく黙っていた。
そして、冷たく笑った。
「いいえ、まだ泳がせておきましょう」
「泳がせる……?」
「ええ。リディアは、所詮小娘です。何も知りません」
セレナは、優雅に扇を広げた。
「彼女が何をしようと、私たちの計画には影響ありません」
「ですが——」
「心配ありません」
セレナは、断言した。
「いずれ、彼女は追放します。その時が来るまで、放っておきましょう」
貴族たちは、渋々頷いた。
セレナは、続けた。
「それよりも、重要なのは国王陛下です。確実に、計画を進めましょう」
貴族たちが、同意した。
「わかりました、セレナ様」
「全ては、セレナ様のご指示通りに」
セレナは、満足そうに微笑んだ。
「では、今日はこれで終わりにしましょう」
貴族たちが、立ち上がり始めた。
リディアは、慌てて扉から離れた。
そして、廊下の暗闇に身を隠した。
心臓が、激しく打っている。
呼吸が、荒い。
リディアは、手で口を覆った。
音を立ててはいけない。
扉が、開いた。
貴族たちが、部屋から出てくる。
セレナも、優雅に歩いて出てきた。
彼らは、廊下を歩いて行った。
リディアとは、反対方向へ。
リディアは、暗闇の中で、じっと待った。
足音が、遠ざかる。
完全に聞こえなくなった。
リディアは、息を吐いた。
体が、震えている。
恐怖で。
セレナの計画。
国王を、毒殺する。
そして、王太子を擁立する。
全て、計画通りだと。
リディアは、眉間にしわを寄せた。
やはり、前回の人生と同じだ。
セレナは、国王を殺そうとしている。
リディアは、壁に背中を預けた。
どうすればいい。
証拠を、掴まなければ。
だが、どうやって。
リディアは、薬草の袋を握りしめた。
今は、まだ動けない。
まだ、準備ができていない。
リディアは、深呼吸をした。
落ち着け。
焦ってはいけない。
リディアは、廊下を静かに歩き出した。
自室へ、戻る。
心の中で、リディアは呟いた。
必ず、止める。
セレナの陰謀を、必ず止める。
リディアは、自室に戻った。
扉を閉め、鍵をかける。
リディアは、ベッドに座り込んだ。
手が、震えている。
心臓が、まだ早鐘のように打っている。
セレナの陰謀。
国王の毒殺。
リディアは、深呼吸をした。
落ち着け。
冷静に、考える。
リディアは、机に向かった。
引き出しを開け、革表紙のノートを取り出した。
前世ノート。
リディアは、ノートを開いた。
ページをめくる。
前世の記憶が、そこに書かれている。
製薬会社の、薬害事件。
リディアは、そのページを見つめた。
「利益優先——患者の命よりも、会社の利益」
「副作用隠蔽——データの改ざん、報告書の破棄」
「告発者の排除——内部告発者の左遷、脅迫」
リディアは、手が震えた。
これは——。
リディアは、新しいページを開いた。
そして、羽根ペンを手に取った。
書き始める。
「セレナの陰謀——」
「国王の毒殺——利益優先(王太子妃の座、実権掌握)」
「副作用隠蔽——秘薬の依存性を隠蔽、貴族たちを依存症に」
「告発者の排除——リディアを追放予定」
リディアは、ペンを止めた。
見つめる。
前世のページと、今のページ。
並べる。
完全に、一致している。
手口が、全て同じだ。
リディアは、息を呑んだ。
前世でも、今世でも、同じ構造だ。
利益のために、人の命を危険に晒す。
副作用を隠蔽し、真実を語る者を排除する。
リディアは、拳を握った。
前世では、リディアは負けた。
誰も信じてくれず、孤立し、左遷された。
患者たちは、苦しみ続けた。
真実は、闇に葬られた。
だが——。
今世では、違う。
リディアは、全てを知っている。
セレナの手口を。
陰謀の全貌を。
そして、前世の失敗を。
リディアは、ペンを握り直した。
書く。
「今度こそ、阻止する」
「前世の二の舞には、させない」
「患者たちを、救う」
「真実を、明らかにする」
リディアは、ノートを見つめた。
そして、新しいページを開いた。
大きく、書いた。
「セレナ打倒計画」
リディアは、その下に、箇条書きで書き始めた。
「1.証拠を掴む——セレナの秘薬のサンプルを入手し、成分を分析」
「2.被害者を記録する——国王の症状、貴族たちの依存症状を詳細に記録」
「3.味方を作る——下級薬師たち、治療した貴族たちの信頼を得る」
「4.カイルの力を借りる——辺境に逃れ、そこから反撃」
「5.真実を公表する——証拠を揃え、王宮で告発」
リディアは、リストを見つめた。
これが、リディアの戦略だ。
一つ一つ、確実に実行する。
リディアは、ノートを閉じた。
そして、窓の外を見た。
月が、浮かんでいる。
冷たい、白い光。
だが、リディアの心は、燃えていた。
前世では、負けた。
だが、今世では、勝つ。
リディアは、立ち上がった。
机の前に戻り、再びノートを開く。
セレナの秘薬について、詳細に書き始めた。
「赤い蔓草の根——依存性物質」
「月光花の花粉——神経刺激作用」
「魔晶石の粉末——魔力増幅、神経負荷」
「配合比——前世の依存性薬物と一致」
リディアは、書き続けた。
国王の症状。
「倦怠感——薬物中毒の初期症状」
「記憶障害——神経系の破壊」
「意識混濁——中毒の進行」
リディアは、全てを記録した。
証拠を、積み上げる。
データを、集める。
時間が、過ぎる。
蝋燭が、短くなる。
リディアは、新しい蝋燭を灯した。
そして、書き続けた。
夜が、更けていく。
だが、リディアは止まらなかった。
リディアの目には、決意の光が宿っていた。
今度こそ、阻止する。
セレナの陰謀を。
前世の失敗を、繰り返さない。
リディアは、ペンを握りしめた。
ノートに、書き続けた。
静かな部屋で、一人。
だが、リディアの心は、燃えていた。
翌日。
リディアは、王宮の廊下を歩いていた。
昨夜、ほとんど眠れなかった。
セレナの陰謀が、頭から離れない。
リディアは、何とかしなければと焦っていた。
その時。
前方から、アルヴィンが歩いてきた。
リディアは、足を止めた。
アルヴィン。
セレナに操られている、傀儡。
だが、もしかしたら——。
もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。
リディアは、意を決した。
「アルヴィン様」
リディアは、アルヴィンを呼び止めた。
アルヴィンは、面倒そうに立ち止まった。
「何だ、リディア」
リディアは、アルヴィンに近づいた。
周囲に、人がいないことを確認する。
そして、小声で言った。
「お話ししたいことが、あります」
アルヴィンは、眉をひそめた。
「手短に頼む。忙しい」
リディアは、深呼吸をした。
そして、言った。
「セレナ様は、危険です」
アルヴィンの顔が、強張った。
「何?」
「陛下の病は、セレナ様の薬が原因かもしれません」
アルヴィンの目が、鋭くなった。
「リディア、お前、何を言っている」
リディアは、続けた。
「セレナ様の秘薬には、依存性物質が含まれています。陛下は、その薬で中毒になっているのです」
アルヴィンの顔が、赤くなった。
「黙れ」
「アルヴィン様、お願いです。信じて——」
「黙れと言っている!」
アルヴィンは、怒鳴った。
リディアは、震えた。
アルヴィンは、リディアを睨みつけた。
「お前、これは婚約者の嫉妬か?」
「嫉妬……?」
「そうだろう。お前は、セレナ様が俺に近いことが気に入らないのだろう」
リディアは、首を振った。
「違います! これは事実です!」
「事実? 証拠はあるのか?」
リディアは、言葉に詰まった。
証拠。
まだ、確たる証拠がない。
アルヴィンは、冷たく笑った。
「ないのだろう。お前は、ただセレナ様を侮辱したいだけだ」
「違います!」
リディアは、必死に訴えた。
「私は、証拠を集めます。それまで、待ってください」
「待つ?」
アルヴィンは、鼻で笑った。
「お前の妄想に、付き合う時間はない」
「妄想ではありません!」
リディアの声が、大きくなった。
「セレナ様は、陛下を毒殺しようとしているのです!」
アルヴィンの顔が、さらに赤くなった。
そして、リディアの肩を掴んだ。
「リディア、もう一度言ってみろ」
アルヴィンの声が、低く、怒りに満ちている。
リディアは、アルヴィンの目を見た。
その目には、怒り、そして——セレナへの盲目的な信頼があった。
リディアは、悟った。
アルヴィンは、完全にセレナに取り込まれている。
もう、何を言っても無駄だ。
リディアは、唇を噛んだ。
「……すみませんでした」
アルヴィンは、リディアを離した。
そして、冷たく言った。
「お前との婚約は、失敗だった」
リディアは、息を呑んだ。
アルヴィンは、続けた。
「お前は、俺にとって何の価値もない」
「セレナ様を侮辱し、根拠のない妄想を語る」
「お前は、婚約者として失格だ」
アルヴィンは、リディアに背を向けた。
「二度と、俺の前でセレナ様の悪口を言うな」
アルヴィンは、そう言い残し、歩いて行った。
リディアは、その場に立ち尽くした。
廊下に、一人残された。
リディアは、拳を握った。
爪が、掌に食い込む。
痛い。
だが、心の痛みの方が大きい。
アルヴィンは、完全にセレナの側だ。
リディアの言葉を、一切信じない。
リディアは、顔を上げた。
廊下の向こう、アルヴィンの背中が見える。
リディアは、心の中で呟いた。
もう、彼には期待しない。
アルヴィンは、セレナの傀儡だ。
救う価値はない。
リディアは、自分で戦う。
一人で。
たとえ、誰も信じてくれなくても。
たとえ、孤独でも。
リディアは、セレナを止める。
国王を、救う。
真実を、明らかにする。
リディアは、拳を握りしめた。
そして、歩き出した。
アルヴィンとは、反対方向へ。
リディアの心は、決まっていた。
もう、迷わない。
もう、誰かに頼らない。
リディアは、自分の力で戦う。