追放された薬師ですが、冷酷侯爵に溺愛されて辺境でスローライフ始めます

第15章 決意の時

数週間後。
リディアは、研究棟で論文の最終確認をしていた。
セレナの秘薬についての、詳細な分析。
国王の症状との、照合。
全て、完璧だ。
リディアは、満足そうに頷いた。
その時。
扉をノックする音がした。
「どうぞ」
扉が開き、カイルが入ってきた。
カイルは、真剣な顔をしている。
「リディア、話がある」
リディアは、立ち上がった。
「はい」
カイルは、リディアの前に立った。
「年次王宮報告会がある」
リディアは、息を呑んだ。
王宮報告会。
辺境の領主たちが、王宮で一年の成果を報告する会だ。
カイルは、続けた。
「お前を、同行させる」
リディアは、驚いた。
「私を……?」
「ああ」
カイルは、頷いた。
「お前の成果を、発表しろ。辺境での医療改革を、王宮に報告する」
リディアは、動揺した。
王宮。
セレナがいる。
アルヴィンがいる。
リディアを追放した、あの場所。
リディアは、震えた。
「ですが……セレナとアルヴィンに会うのは……」
カイルは、冷徹に言った。
「だからこそだ」
リディアは、カイルを見た。
カイルの目が、鋭い。
「お前を侮辱した者たちに、お前の価値を見せつけろ」
カイルの声が、低い。
「それが、復讐だ」
リディアは、息を呑んだ。
復讐。
カイルは、リディアの復讐を、後押ししている。
カイルは、続けた。
「お前は、辺境で何百人もの患者を救った。お前の薬学は、この領地を変えた」
カイルは、リディアの目を見つめた。
「それを、あいつらに見せつけろ。お前が、どれほど価値のある人間か。あいつらが、どれほど愚かだったか」
リディアは、拳を握りしめた。
カイルは、正しい。
リディアは、もう王宮から追放された弱い令嬢ではない。
リディアは、辺境で実績を上げた薬師長だ。
だが——。
リディアは、不安だった。
セレナは、危険だ。
もし、リディアが王宮に行けば、セレナは何かを仕掛けてくるかもしれない。
リディアは、唇を噛んだ。
その時。
扉が開いた。
エリスが、駆け込んできた。
「パパ! リディア先生!」
エリスは、笑顔で二人を見た。
「何のお話?」
カイルは、エリスを見た。
「リディア先生と、王宮に行く話だ」
エリスは、目を輝かせた。
「わあ! 王宮!」
エリスは、リディアに近づいた。
「リディア先生、大丈夫だよ!」
エリスは、無邪気に言った。
「パパが、リディア先生を守ってくれるから!」
エリスは、カイルを見た。
「ねえ、パパ?」
カイルは、わずかに微笑んだ。
「ああ。俺が、守る」
エリスは、リディアの手を取った。
「だから、大丈夫だよ!」
リディアは、エリスの純粋な笑顔を見た。
そして、胸が温かくなった。
エリスは、信じてくれている。
カイルも、守ってくれると言っている。
リディアは、もう一人ではない。
リディアは、深呼吸をした。
そして、カイルを見た。
「わかりました」
リディアの声が、震えている。
「行きます」
カイルは、頷いた。
「よく言った」
リディアは、震える手を握りしめた。
爪が、掌に食い込む。
痛い。
だが、その痛みが、リディアを現実に引き戻す。
リディアは、覚悟を決めた。
王宮に、行く。
セレナと、対峙する。
アルヴィンに、自分の価値を見せつける。
そして、真実を明らかにする。
リディアは、拳を握った。
「準備をします」
カイルは、リディアの頭を撫でた。
「恐れるな」
カイルの声が、優しい。
「俺が、そばにいる」
リディアは、涙が込み上げた。
だが、こらえた。
もう、泣かない。
リディアは、戦う。
リディアは、頷いた。
「はい」
エリスは、嬉しそうに跳ねた。
「頑張って、リディア先生!」
リディアは、エリスを抱きしめた。
「ありがとう、エリスちゃん」
リディアは、決意した。
王宮への、準備を始める。
数日後。
リディアは、研究棟で報告資料を作成していた。
羊皮紙に、丁寧に文字を書き込む。
「ヴァレンティス侯爵領 医療改革報告」
リディアは、タイトルを書いた。
そして、内容を書き始めた。
「新薬の開発——魔力に依存しない化学合成型治療薬」
「治療実績——慢性疼痛患者300名、全員回復」
「領民の健康状態——改善率95%」
リディアは、データを丁寧にまとめた。
グラフも描いた。
患者数の推移。
回復率の統計。
全て、正確に記録した。
リディアは、資料を見直した。
完璧だ。
これなら、誰が見ても、リディアの実績がわかる。
リディアは、満足そうに頷いた。
その日の午後。
リディアは、自室にいた。
荷物をまとめている。
論文、報告資料、前世ノート。
全て、鞄に詰める。
その時。
扉をノックする音がした。
「どうぞ」
扉が開き、使用人が入ってきた。
手には、大きな箱を持っている。
「リディア様、カイル様からです」
使用人は、箱をベッドに置いた。
「これは……?」
「ドレスだそうです」
リディアは、驚いた。
使用人は、箱を開けた。
中には、美しいドレスが入っていた。
深い青色。
高級な布地。
繊細な刺繍。
リディアは、息を呑んだ。
「こんなに……立派な……」
使用人は、微笑んだ。
「カイル様が、特別に用意されました。お召しになってください」
使用人は、リディアを手伝った。
ドレスを着せ、髪を整える。
鏡の前に、リディアを立たせる。
リディアは、鏡を見た。
そして、驚いた。
鏡に映っているのは、自分だ。
だが、違う。
深い青色のドレスが、リディアの体を包んでいる。
髪は、丁寧に結い上げられている。
顔は、凛としている。
リディアは、もう地味な令嬢ではない。
凛とした、薬師に見える。
リディアは、自分の姿を見つめた。
涙が、込み上げた。
「私……変わった……」
使用人は、微笑んだ。
「とてもお似合いです、リディア様」
その時。
扉が開いた。
エリスが、駆け込んできた。
「リディア先生!」
エリスは、リディアを見て、目を輝かせた。
「わあ! きれい!」
エリスは、リディアの周りを跳ね回った。
「リディア先生、とってもきれい!」
リディアは、微笑んだ。
「ありがとう、エリスちゃん」
エリスは、扉の方を見た。
「ねえ、パパも見て!」
リディアは、扉の方を見た。
カイルが、そこに立っていた。
カイルは、無表情だ。
だが、リディアを見つめている。
リディアは、頬が熱くなった。
カイルは、ゆっくりとリディアに近づいた。
そして、リディアの前に立った。
カイルは、リディアを見つめた。
しばらく、沈黙が続いた。
そして、カイルは口を開いた。
「お前は、俺の領地の代表だ」
カイルの声が、低い。
「みすぼらしい格好は、許さん」
リディアは、頷いた。
「ありがとうございます……」
カイルは、穏やかな笑顔を見せた。
「お前は、美しい」
リディアは、驚いた。
カイルが、褒めている。
カイルは、続けた。
「自信を持て」
カイルの目が、優しい。
「お前は、誰よりも価値がある」
リディアは、涙が溢れた。
「カイル様……」
エリスが、笑った。
「パパ、嬉しそう!」
カイルは、微笑んだ。
「……そうかもしれない」
カイルは、リディアの肩に手を置いた。
「明日、出発する。準備をしておけ」
リディアは、頷いた。
「はい」
カイルは、部屋を出て行った。
エリスも、後を追った。
リディアは、一人残された。
リディアは、再び鏡を見た。
深い青色のドレス。
凛とした、自分の姿。
リディアは、微笑んだ。
もう、恐れない。
リディアは、王宮に行く。
堂々と。
自信を持って。
リディアは、拳を握った。
準備は、整った。
翌朝。
馬車が、カイル邸を出発した。
リディアは、馬車の中に座っていた。
深い青色のドレスを着ている。
鞄には、論文と報告資料が入っている。
向かい側には、カイルが座っている。
黒い礼服を着て、剣を腰に下げている。
馬車は、辺境の道を走っていた。
窓の外、緑の丘が広がっている。
リディアは、窓の外を見つめていた。
心臓が、早鐘のように打っている。
緊張だ。
王宮に、行く。
セレナと、対峙する。
リディアは、心を引き締めた。
カイルが、口を開いた。
「リディア」
リディアは、カイルを見た。
「はい」
カイルは、真剣な顔をしていた。
「お前を、危険に晒すことになる」
カイルの声が、低い。
「許せ」
リディアは、首を横に振った。
「いいえ」
リディアは、カイルの目を見た。
「これは、私の戦いです」
リディアの声が、真剣だ。
「私が、選んだ道です」
リディアは、微笑んだ。
「侯爵様には、感謝しかありません。私に、居場所をくださった。私を、信じてくださった」
リディアの目が、潤んだ。
「本当に、ありがとうございます」
カイルは、しばらくリディアを見つめていた。
そして、深く息を吐いた。
「俺は——」
カイルの声が、震えた。
「俺は、お前を失いたくない」
リディアは、息を呑んだ。
カイルが、感情を露わにしている。
カイルは、続けた。
「お前は、娘を救った。領民を救った。そして、俺を——」
カイルは、言葉を詰まらせた。
「俺を、変えた」
カイルは、リディアの手を取った。
「お前がいなければ、俺は今でも孤独だった。娘の笑顔も、見ることができなかった」
カイルの手が、温かい。
「お前は、俺にとって……大切な人だ」
リディアは、涙が溢れた。
「カイル様……」
カイルは、リディアの手を強く握った。
「だから、お前を失いたくない。もし、お前に何かあったら——」
カイルの声が、震えた。
「俺は、耐えられない」
リディアは、カイルの手を握り返した。
「大丈夫です」
リディアの声が、優しい。
「私も……ここに居たいです」
リディアは、頬を染めた。
「カイル様と、エリスちゃんと……一緒に」
カイルは、リディアを見つめた。
そして、わずかに微笑んだ。
「ならば、必ず守る」
カイルの声が、力強い。
「何があっても、お前を守る」
リディアは、頷いた。
「信じています」
二人は、しばらく手を握り合っていた。
馬車の中、静寂が満ちる。
だが、それは心地よい静寂だった。
馬車は、数日間走り続けた。
辺境を出て、平野を越え、森を抜けた。
そして——。
王都が、見えてきた。
リディアは、窓から外を見た。
遠くに、白い城壁が見える。
王都。
リディアが、追放された場所。
リディアは、拳を握った。
緊張が、全身を包む。
心臓が、激しく打っている。
カイルは、リディアを見た。
「恐れるな」
カイルの声が、優しい。
「俺が、そばにいる」
リディアは、頷いた。
「はい」
だが、リディアの手は、震えていた。
セレナ。
アルヴィン。
そして、王宮。
全て、リディアを拒絶した場所。
だが、今は違う。
リディアは、もう弱い令嬢ではない。
リディアは、辺境で実績を上げた薬師長だ。
リディアは、証拠を持っている。
セレナの陰謀を暴く、証拠を。
リディアは、深呼吸をした。
そして、決意した。
戦う。
真実を、明らかにする。
リディアは、窓の外を見つめた。
王都の城壁が、だんだん近づいてくる。
馬車は、門をくぐった。
王都の中に、入る。
街並みが、見える。
石畳の道。
豪華な建物。
そして、遠くに見える王宮。
リディアは、王宮を見つめた。
緊張と、決意が、交錯する。
リディアは、拳を握った。
行こう。
戦おう。
勝とう。
馬車は、王宮へと向かって、走り続けた。
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