追放された薬師ですが、冷酷侯爵に溺愛されて辺境でスローライフ始めます

第18章 溺愛の告白

辺境の屋敷に、朝日が差し込む。
リディアは、ベッドに横たわっていた。
王都から戻って、三日が経つ。
毒は、解毒薬で何とか抑えられた。
だが、体は弱っている。
起き上がることも、できない。
リディアは、天井を見つめた。
窓の外、鳥が鳴いている。
穏やかな、朝。
扉が、静かに開いた。
カイルが、入ってくる。
手に、水差しと布を持っている。
「目が覚めたか」
カイルの声が、低く響く。
リディアは、小さく頷いた。
カイルは、ベッドの傍らに椅子を引いた。
そして、座る。
水差しから水を含ませた布で、リディアの額を拭う。
冷たくて、気持ちいい。
「ありがとう……ございます」
リディアの声が、か細い。
カイルは、無言で頷いた。
そして、リディアの手を取った。
握る。
温かい手。
カイルは、ずっとそうしている。
朝も。
昼も。
夜も。
リディアが目を覚ますたびに、カイルはそこにいた。
手を、握っている。
使用人たちが、廊下で囁く声が聞こえる。
「侯爵様が、あんなに……」
「一度も、部屋を出ておられない……」
「本当に、お優しい方なのですね……」
リディアは、カイルを見た。
隻眼が、疲れている。
髭も、伸びている。
「カイル……休んでください……」
リディアの声が、心配に満ちている。
カイルは、首を横に振った。
「お前が、回復するまでは」
カイルの声が、静かだ。
リディアは、胸が温かくなった。
扉が、再び開いた。
エリスが、顔を覗かせる。
「リディア先生……」
エリスの声が、震えている。
リディアは、微笑んだ。
「エリス……おいで」
エリスは、ベッドに駆け寄った。
リディアの手を、両手で握る。
「起きて……お願い……」
エリスの目に、涙が浮かんでいる。
「先生が倒れたって聞いて……怖かった……」
エリスの涙が、リディアの手に落ちる。
リディアは、エリスの頭を撫でた。
「大丈夫よ」
リディアの声が、優しい。
「もう、良くなってきているわ」
エリスは、顔を上げた。
「本当?」
「ええ、本当よ」
リディアは、微笑んだ。
エリスは、安堵の笑顔を見せた。
そして、カイルを見た。
「パパ、良かったね」
カイルは、エリスの頭を撫でた。
「ああ」
カイルの声が、柔らかい。
エリスは、リディアに頬を寄せた。
「ずっと一緒にいてね」
リディアは、エリスを抱きしめた。
「ええ……約束するわ」
エリスは、しばらくリディアに甘えていた。
やがて、侍女に呼ばれて部屋を出た。
再び、二人きりになる。
カイルは、リディアの手を握ったままだ。
沈黙が、流れる。
穏やかな、沈黙。
リディアは、カイルを見た。
「カイル」
リディアの声が、小さい。
カイルは、リディアを見た。
「なぜ……そこまでしてくれるのですか?」
リディアの声が、震える。
「私は……ただの……」
カイルは、リディアの手を強く握った。
「ただの、ではない」
カイルの声が、低く響く。
リディアは、息を呑んだ。
カイルは、沈黙した。
長い、沈黙。
カイルの隻眼が、何かを決意したように光る。
「話さねばならないことがある」
カイルの声が、重い。
リディアは、カイルを見つめた。
心臓が、高鳴る。
カイルは、深く息を吐いた。
そして、口を開いた。
「お前に、隠していたことがある」
カイルの声が、静かに響く。
リディアは、黙って聞いている。
カイルは、窓の外を見た。
遠い目。
「エリスの母のことだ」
カイルの声が、痛みを帯びている。
リディアは、息を呑んだ。
二人の視線が、絡み合う。
窓の外、風が木々を揺らす音。
静かな、時間。
カイルは、窓の外を見つめた。
遠い記憶を、辿るように。
「エリスの母は」
カイルの声が、静かに始まる。
「美しい女だった」
カイルは、目を閉じた。
「気高く、誇り高い貴族の娘だった」
リディアは、黙って聞いている。
カイルは、続けた。
「だが、彼女は老いを恐れた」
カイルの声が、痛みを帯びる。
「美しさを、失うことを恐れた」
カイルは、拳を握りしめた。
「そして、セレナの秘薬に手を出した」
リディアは、息を呑んだ。
カイルは、リディアを見た。
隻眼が、暗い光を宿している。
「若返りの秘薬」
カイルの声が、低く沈む。
「美容の秘薬」
カイルは、吐き捨てるように言った。
「セレナは、甘い言葉で妻を誘った」
カイルの声が、怒りを帯びる。
「副作用はない、と」
「安全だ、と」
カイルは、立ち上がった。
窓辺に立ち、外を見る。
「最初は、効果があった」
カイルの声が、遠い。
「肌が、若返った」
「髪が、艶やかになった」
カイルは、拳を壁に押し付けた。
「だが、すぐに常用するようになった」
カイルの声が、震える。
「一日に何度も」
「秘薬なしでは、いられなくなった」
リディアは、ベッドの上で体を起こした。
「依存症……」
リディアの声が、震える。
カイルは、頷いた。
「そうだ」
カイルは、振り返った。
顔が、苦痛に歪んでいる。
「妻は、変わっていった」
カイルの声が、途切れ途切れになる。
「人格が、崩壊した」
「幻覚を見るようになった」
「俺のことも、エリスのことも、わからなくなった」
カイルは、目を閉じた。
「最後は……」
カイルの声が、止まった。
沈黙。
重い、沈黙。
カイルは、深く息を吐いた。
「自ら、命を絶った」
リディアは、涙が溢れた。
「カイル……」
カイルは、リディアを見た。
「俺は、妻を救えなかった」
カイルの声が、自責に満ちている。
「気づいた時には、もう遅かった」
カイルは、拳を握りしめた。
爪が、掌に食い込む。
「セレナに、騙されたと気づいた時には」
カイルの声が、怒りで震える。
「もう、手遅れだった」
カイルは、壁を拳で叩いた。
鈍い音。
「だから、セレナを憎んでいる」
カイルの声が、低く響く。
「あの女が、妻を殺した」
カイルは、リディアを見た。
隻眼が、炎のように燃えている。
「あの女が、エリスから母を奪った」
リディアは、涙を拭った。
「それで……」
リディアの声が、震える。
「私を……信じてくれたんですか?」
カイルは、リディアに近づいた。
ベッドの傍らに座る。
「ああ」
カイルの声が、静かになる。
「お前が、王宮図書館で薬学書を読んでいた時」
カイルは、リディアの目を見た。
「お前の目に、真実を見た」
カイルは、リディアの手を取った。
「お前は、嘘をつかない」
カイルの声が、確信に満ちている。
「お前は、人を救おうとしている」
カイルは、リディアの手を握りしめた。
「だから、賭けた」
カイルの声が、真剣だ。
「お前に、エリスを託した」
リディアは、涙が止まらなかった。
「そして、お前はエリスを救ってくれた」
カイルの声が、温かくなる。
「8年間、誰も治せなかった娘を」
カイルは、リディアの頬に触れた。
「お前は、救ってくれた」
カイルの隻眼が、優しく細められる。
「もう一度、信じる勇気をもらった」
カイルの声が、静かに響く。
「もう一度、人を信じていいのだと」
リディアは、カイルの手を握った。
「カイル……」
カイルは、リディアを抱きしめた。
優しく。
「お前を守ると誓ったのは」
カイルの声が、リディアの耳元で響く。
「娘のためだけではない」
カイルは、リディアを見つめた。
「お前自身のためだ」
カイルの声が、真剣だ。
「俺は、お前を失いたくない」
カイルの隻眼が、リディアを見つめている。
「二度目の過ちは、犯さない」
カイルの声が、誓いのように響く。
「今度こそ、守る」
リディアは、カイルの胸に顔を埋めた。
涙が、止まらない。
「ありがとう……ございます……」
リディアの声が、震える。
カイルは、リディアの髪を撫でた。
「泣くな」
カイルの声が、優しい。
「お前は、もう一人じゃない」
リディアは、カイルの腕の中で泣き続けた。
温かい。
こんなに温かい腕に、抱かれたことがあっただろうか。
前世でも。
今世でも。
リディアは、初めて思った。
ここが、居場所なのだと。
窓の外、雲が流れていく。
日差しが、部屋を照らす。
二人は、しばらく抱き合っていた。
静かな、時間。
カイルは、リディアから少し離れた。
そして、リディアの両手を取った。
じっと、見つめる。
隻眼が、真剣だ。
「お前自身のためだ」
カイルの声が、低く響く。
「俺は、お前を……」
カイルの声が、止まった。
言葉を、探している。
リディアは、カイルを見つめた。
心臓が、激しく打っている。
カイルの隻眼が、揺れている。
「俺は……」
カイルの声が、再び途切れる。
カイルは、歯を食いしばった。
言葉にできない。
だが、伝えたい。
リディアは、カイルの手を握り返した。
「私も……」
リディアの声が、震える。
「カイル様がいなければ」
リディアは、涙を浮かべた。
「ここまで、来れませんでした」
リディアの声が、感情に満ちている。
「あなたがいてくれたから」
リディアは、カイルの手を強く握った。
「私は、戦えました」
リディアの涙が、頬を伝う。
「あなたがいてくれたから」
リディアの声が、途切れる。
「私は、諦めずにいられました」
カイルは、リディアの涙を拭った。
そして、リディアを再び抱きしめた。
強く。
「お前を、二度と危険に晒さない」
カイルの声が、誓いのように響く。
「俺が、全てを使ってでも守る」
カイルは、リディアの髪に顔を埋めた。
「地位も」
「財産も」
「命も」
カイルの声が、震える。
「全て、お前のために使う」
リディアは、カイルの胸の中で泣いた。
「ありがとうございます……」
リディアの声が、涙に濡れている。
「でも……」
リディアは、カイルを見上げた。
「まだ、戦いは終わっていません」
リディアの瞳が、決意に満ちている。
「セレナは、まだ王宮にいます」
リディアの声が、強くなる。
「被害者たちは、まだ苦しんでいます」
リディアは、カイルの服を握りしめた。
「私は……戦いたいです」
リディアの声が、真剣だ。
「前世でできなかったことを」
リディアの瞳が、炎のように燃える。
「今度こそ、成し遂げたいです」
カイルは、リディアを見つめた。
隻眼が、優しく細められる。
「お前は、強いな」
カイルの声が、温かい。
カイルは、リディアの頬に手を添えた。
「ならば、俺も戦う」
カイルの声が、力強く響く。
「お前と、共に」
カイルの隻眼が、決意に満ちている。
「セレナを倒す」
カイルの声が、低く沈む。
「あの女の罪を、暴く」
カイルは、リディアの額に自分の額を寄せた。
「お前一人には、させない」
カイルの声が、静かに響く。
「俺が、お前の盾になる」
リディアは、涙を流した。
だが、今度は悲しみの涙ではない。
感謝の涙。
希望の涙。
「カイル……」
リディアの声が、温かい。
「一緒に、戦いましょう」
カイルは、頷いた。
そして、リディアを強く抱きしめた。
リディアも、カイルを抱きしめ返した。
二人は、しばらく抱き合っていた。
互いの温もりを、確かめるように。
窓の外。
風が、強くなってきた。
木々が、激しく揺れている。
空を見上げると。
暗雲が、広がっていた。
黒い雲が、空を覆い始めている。
嵐の、予兆。
不穏な、空気。
だが、部屋の中は温かい。
二人の温もりが、部屋を満たしている。
カイルは、窓の外を見た。
「嵐が、来る」
カイルの声が、低く響く。
リディアも、窓の外を見た。
暗雲が、迫ってくる。
「ええ」
リディアの声が、静かだ。
「でも、大丈夫です」
リディアは、カイルを見上げた。
「あなたがいてくれるから」
カイルは、リディアを見た。
そして、小さく微笑んだ。
珍しい、笑顔。
「ああ」
カイルの声が、優しい。
「俺が、いる」
二人は、再び抱き合った。
窓の外、雷が鳴り始めた。
遠くで、稲光が見える。
嵐が、近づいている。
だが、二人は恐れなかった。
共に戦う。
共に立ち向かう。
その決意が、二人を強くしていた。
暗雲が、空を覆い尽くした。
部屋が、暗くなる。
だが、二人の心は明るかった。
希望の光が、灯っていた。
< 18 / 24 >

この作品をシェア

pagetop