追放された薬師ですが、冷酷侯爵に溺愛されて辺境でスローライフ始めます
第19章 絶望の淵
数日後。
リディアは、薬草園にいた。
体は、回復してきている。
だが、心は回復していない。
リディアは、薬草園の隅に座り込んでいた。
膝を抱えて。
白い根草が、風に揺れている。
青い花弁が、陽光を浴びている。
美しい、景色。
だが、リディアの目には何も映らない。
証拠が、全て失われた。
何週間もかけて作った論文。
セレナの罪を証明する、唯一の資料。
全て、灰になった。
リディアは、膝に顔を埋めた。
「前世でも……」
リディアの声が、小さく震える。
「今世でも……」
リディアは、目を閉じた。
「私は、誰も救えない……」
リディアの声が、絶望に沈む。
「真実を、証明できない……」
涙が、頬を伝う。
前世の記憶が、蘇る。
製薬会社の会議室。
告発資料を握りしめた自分。
冷たい視線。
拒絶の言葉。
「君の研究は、会社の利益を損なう」
「証拠不十分だ」
「黙っていろ」
そして、左遷。
孤独。
絶望。
リディアは、震えた。
また、同じだ。
何も変わっていない。
足音が、近づいてくる。
リディアは、顔を上げた。
領民の老婆が、立っている。
「リディア様」
老婆の声が、優しい。
「お元気ですか?」
リディアは、笑顔を作った。
虚ろな、笑顔。
「ええ……大丈夫です」
老婆は、リディアの手を取った。
「あなたのおかげで、私の孫が元気になりました」
老婆の目が、感謝に満ちている。
「本当に、ありがとうございます」
リディアは、頷いた。
「良かったです……」
リディアの声が、か細い。
老婆は、去っていった。
リディアは、再び膝を抱えた。
感謝されるほど、苦しい。
私は、何も成し遂げていない。
セレナは、まだ王宮にいる。
被害者たちは、まだ苦しんでいる。
私は、何もできていない。
リディアは、自己嫌悪に苛まれた。
午後。
エリスが、薬草園にやってきた。
「リディア先生!」
エリスの声が、明るい。
リディアは、振り返った。
エリスが、笑顔で駆けてくる。
健康そうな、顔。
「一緒に、お花摘みしよ!」
エリスが、リディアの手を取る。
リディアは、笑顔を作った。
虚ろな、笑顔。
「ええ……」
エリスと一緒に、花を摘む。
エリスは、楽しそうに笑っている。
「リディア先生、大好き!」
エリスが、リディアに抱きつく。
リディアは、エリスを抱きしめた。
だが、心は痛い。
私には、この資格がない。
こんなに優しくされる資格が。
リディアは、涙をこらえた。
夕方。
カイルが、薬草園を訪れた。
「リディア」
カイルの声が、優しい。
リディアは、振り返った。
カイルが、立っている。
心配そうな、顔。
「大丈夫か?」
カイルが、リディアの肩に手を置く。
リディアは、頷いた。
「ええ……大丈夫です」
リディアの声が、作り笑いだ。
カイルは、リディアの目を見た。
「嘘をつくな」
カイルの声が、低い。
リディアは、目を逸らした。
「本当に……大丈夫です……」
カイルは、リディアを抱きしめた。
「無理をするな」
カイルの声が、温かい。
リディアは、カイルの胸に顔を埋めた。
温かい。
優しい。
でも、苦しい。
こんなに優しくされるほど、苦しい。
私には、その資格がない。
リディアは、涙をこらえた。
夜。
リディアは、一人薬草園に戻った。
月が、昇っている。
星が、輝いている。
美しい、夜空。
リディアは、薬草園の中央に座り込んだ。
そして、泣いた。
声を上げて。
「どうして……」
リディアの声が、夜に響く。
「どうして、私は……」
涙が、止まらない。
「何もできないの……」
リディアは、地面を叩いた。
「前世でも……今世でも……」
リディアの声が、絶望に満ちている。
「私は、何も変えられない……」
リディアは、空を見上げた。
星空が、無情に輝いている。
冷たく。
遠く。
美しく。
リディアは、涙で視界が霞んだ。
「誰か……」
リディアの声が、か細い。
「誰か……教えて……」
リディアは、膝を抱えた。
「私は、どうすればいいの……」
風が、吹いた。
薬草が、揺れる。
リディアの髪が、風に舞う。
だが、答えは返ってこない。
星空は、ただ静かに輝いているだけ。
リディアは、一人泣き続けた。
夜が、深まっていく。
翌日。
リディアは、研究棟に閉じこもっていた。
机の上に、薬草が散らばっている。
乳鉢。
薬瓶。
実験器具。
だが、リディアの手は動かない。
ただ、ぼんやりと机を見つめている。
調合を、しようとした。
薬草を、手に取った。
だが、手が震えた。
何のために、作るのか。
誰のために、作るのか。
わからなくなった。
リディアは、薬草を机に置いた。
そして、椅子に深く座り込んだ。
目を閉じる。
前世の記憶が、フラッシュバックする。
製薬会社の研究室。
告発資料を作る自分。
薬害事件の証拠を、集める自分。
だが。
誰も、信じてくれなかった。
上司は、冷たく言った。
「証拠不十分だ」
「会社の利益を考えろ」
「黙っていろ」
同僚たちも、目を逸らした。
「あいつは、問題児だ」
「出世を諦めたのか」
「関わらない方がいい」
孤独。
絶望。
そして。
左遷。
リディアは、目を開けた。
涙が、溢れる。
「また、同じだ……」
リディアの声が、震える。
「告発しても……」
リディアは、机に突っ伏した。
「誰も、信じない……」
リディアの涙が、机を濡らす。
「証拠がなければ……何も変わらない……」
リディアは、拳を握りしめた。
「前世と、同じ……」
リディアの声が、絶望に沈む。
時間が、過ぎていく。
リディアは、動けない。
何もできない。
ただ、机に突っ伏している。
扉を、ノックする音。
「リディア先生?」
エリスの声だ。
明るい、声。
リディアは、顔を上げた。
涙を、拭う。
「……何?」
リディアの声が、冷たい。
扉が、開く。
エリスが、顔を覗かせた。
「先生、一緒にお昼ご飯食べよ?」
エリスの笑顔。
無邪気な、笑顔。
リディアは、目を逸らした。
「今日は……一人にして」
リディアの声が、拒絶している。
エリスの笑顔が、消えた。
「……先生?」
エリスの声が、不安そうだ。
「一人に、して」
リディアの声が、強くなる。
エリスは、立ち尽くした。
そして、小さく頷いた。
「……わかった」
エリスの声が、悲しそうだ。
エリスは、扉を閉めた。
静かに。
足音が、遠ざかっていく。
リディアは、顔を覆った。
「ああ……」
リディアの声が、自己嫌悪に満ちている。
「何を、やっているの……」
リディアは、震えた。
「優しい子を……」
リディアの涙が、止まらない。
「傷つけてしまった……」
リディアは、机に突っ伏した。
「私は……最低だ……」
リディアは、泣き続けた。
自己嫌悪。
罪悪感。
無力感。
全てが、リディアを押し潰す。
時間が、過ぎていく。
部屋が、暗くなっていく。
夕方。
扉の外で、足音が止まった。
重い、足音。
カイルだ。
扉を、ノックする音。
リディアは、返事をしなかった。
沈黙。
やがて、カイルの声が聞こえた。
扉越しに。
「リディア」
カイルの声が、低く響く。
「無理に、笑わなくていい」
カイルの声が、優しい。
リディアは、顔を上げた。
扉を、見つめる。
「俺は、ここにいる」
カイルの声が、静かに響く。
「お前が、泣きたければ泣けばいい」
カイルの声が、温かい。
「お前が、休みたければ休めばいい」
カイルの声が、続く。
「俺は、ここにいる」
リディアは、涙が溢れた。
「カイル……」
リディアの声が、震える。
「俺は、どこにも行かない」
カイルの声が、誓いのように響く。
「お前が、立ち上がるまで」
カイルの声が、優しい。
「俺は、ここで待っている」
リディアは、扉に向かって歩いた。
よろめきながら。
扉に、手をつく。
「カイル……」
リディアの声が、か細い。
扉の向こうで、カイルが答えた。
「ああ」
カイルの声が、近い。
「俺は、ここにいる」
リディアは、扉に額をつけた。
涙が、流れる。
「ありがとう……」
リディアの声が、小さい。
扉の向こうで、カイルの気配がする。
温かい、気配。
リディアは、扉に寄りかかった。
カイルも、扉の向こうで同じようにしているのだろう。
二人は、扉を挟んで静かに寄り添っていた。
沈黙。
だが、孤独ではない。
リディアは、少しだけ心が軽くなった。
窓の外、夕日が沈んでいく。
部屋が、オレンジ色に染まる。
リディアは、扉に寄りかかったまま目を閉じた。
カイルの気配を、感じながら。
夜。
リディアは、研究棟から自室に戻った。
部屋は、静かだ。
机の上に、前世ノートが置いてある。
リディアは、ノートを見つめた。
何ヶ月も書き続けた、ノート。
前世の記憶。
化学知識。
セレナへの復讐計画。
全て、このノートに記されている。
リディアは、ノートを手に取った。
ページを、めくる。
自分の筆跡。
必死に書いた、証拠。
だが、今は何の意味もない。
リディアは、ノートを閉じた。
そして、机の引き出しにしまった。
「もう……」
リディアの声が、小さく震える。
「戦うのを、やめよう……」
リディアは、椅子に座った。
「ここで、静かに暮らせばいい」
リディアの声が、諦めに満ちている。
「カイルも、エリスもいる」
リディアは、窓の外を見た。
「領民たちも、私を必要としている」
リディアの声が、自分を納得させようとしている。
「それで、いいじゃないか……」
リディアは、目を閉じた。
「セレナのことは……」
リディアの声が、途切れる。
「忘れよう……」
リディアは、深く息を吐いた。
「王宮のことも……」
リディアの声が、弱々しい。
「全て、忘れよう……」
窓の外で、風が強くなってきた。
嵐だ。
リディアは、窓を開けた。
冷たい風が、部屋に吹き込む。
薬草園が、見える。
嵐の中で、花が揺れている。
激しく。
白い根草の花が、散っていく。
青い花弁が、風に舞う。
リディアが、大切に育てた花たち。
全て、嵐に散らされていく。
リディアは、その光景を見つめた。
花が、散る。
希望が、散る。
夢が、散る。
リディアの心も、同じだ。
荒廃している。
嵐に、晒されている。
リディアは、窓を閉めた。
そして、ベッドに向かった。
よろめきながら。
「私は……」
リディアの声が、震える。
「ただの、臆病者だ……」
リディアは、ベッドに倒れ込んだ。
枕に、顔を埋める。
「前世でも、逃げた……」
リディアの声が、自己嫌悪に満ちている。
「今世でも、逃げる……」
リディアは、拳を握りしめた。
「何も、変わっていない……」
涙が、溢れる。
「私は、何も変えられない……」
リディアの涙が、枕を濡らす。
「誰も、救えない……」
リディアの声が、絶望に沈む。
外では、嵐が激しくなっている。
雷が、鳴る。
稲光が、部屋を照らす。
雨が、窓を叩く。
激しい、雨。
リディアは、枕を抱きしめた。
「ごめんなさい……」
リディアの声が、か細い。
「ごめんなさい……エリス……」
リディアの涙が、止まらない。
「ごめんなさい……カイル……」
リディアは、震えた。
「ごめんなさい……前世の私……」
リディアの声が、途切れる。
「私は……弱い……」
リディアは、泣き続けた。
声を、殺して。
誰にも、聞こえないように。
嵐の音が、リディアの泣き声をかき消す。
雷。
雨。
風。
全てが、激しい。
リディアの心も、嵐の中にある。
希望が、見えない。
光が、見えない。
ただ、暗闇だけ。
リディアは、疲れ果てていた。
心も。
体も。
全てが、重い。
涙で、枕が濡れている。
リディアは、目を閉じた。
「もう……疲れた……」
リディアの声が、小さく呟く。
「休みたい……」
リディアの意識が、遠のいていく。
眠りが、訪れる。
だが、安らかな眠りではない。
絶望に満ちた、眠り。
リディアの頬を、涙が伝い続ける。
眠りながらも、泣いている。
外では、嵐が吹き荒れている。
薬草園の花が、全て散っていく。
リディアが育てた、希望の花たち。
全て、嵐に奪われていく。
部屋の中。
リディアは、枕を抱きしめたまま眠っている。
涙に濡れた、顔。
苦しそうな、表情。
時折、小さく呟く。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
窓の外、稲光が部屋を照らす。
一瞬、リディアの顔が浮かび上がる。
絶望に、満ちた顔。
そして、また闇に戻る。
嵐は、一晩中続いた。
リディアは、薬草園にいた。
体は、回復してきている。
だが、心は回復していない。
リディアは、薬草園の隅に座り込んでいた。
膝を抱えて。
白い根草が、風に揺れている。
青い花弁が、陽光を浴びている。
美しい、景色。
だが、リディアの目には何も映らない。
証拠が、全て失われた。
何週間もかけて作った論文。
セレナの罪を証明する、唯一の資料。
全て、灰になった。
リディアは、膝に顔を埋めた。
「前世でも……」
リディアの声が、小さく震える。
「今世でも……」
リディアは、目を閉じた。
「私は、誰も救えない……」
リディアの声が、絶望に沈む。
「真実を、証明できない……」
涙が、頬を伝う。
前世の記憶が、蘇る。
製薬会社の会議室。
告発資料を握りしめた自分。
冷たい視線。
拒絶の言葉。
「君の研究は、会社の利益を損なう」
「証拠不十分だ」
「黙っていろ」
そして、左遷。
孤独。
絶望。
リディアは、震えた。
また、同じだ。
何も変わっていない。
足音が、近づいてくる。
リディアは、顔を上げた。
領民の老婆が、立っている。
「リディア様」
老婆の声が、優しい。
「お元気ですか?」
リディアは、笑顔を作った。
虚ろな、笑顔。
「ええ……大丈夫です」
老婆は、リディアの手を取った。
「あなたのおかげで、私の孫が元気になりました」
老婆の目が、感謝に満ちている。
「本当に、ありがとうございます」
リディアは、頷いた。
「良かったです……」
リディアの声が、か細い。
老婆は、去っていった。
リディアは、再び膝を抱えた。
感謝されるほど、苦しい。
私は、何も成し遂げていない。
セレナは、まだ王宮にいる。
被害者たちは、まだ苦しんでいる。
私は、何もできていない。
リディアは、自己嫌悪に苛まれた。
午後。
エリスが、薬草園にやってきた。
「リディア先生!」
エリスの声が、明るい。
リディアは、振り返った。
エリスが、笑顔で駆けてくる。
健康そうな、顔。
「一緒に、お花摘みしよ!」
エリスが、リディアの手を取る。
リディアは、笑顔を作った。
虚ろな、笑顔。
「ええ……」
エリスと一緒に、花を摘む。
エリスは、楽しそうに笑っている。
「リディア先生、大好き!」
エリスが、リディアに抱きつく。
リディアは、エリスを抱きしめた。
だが、心は痛い。
私には、この資格がない。
こんなに優しくされる資格が。
リディアは、涙をこらえた。
夕方。
カイルが、薬草園を訪れた。
「リディア」
カイルの声が、優しい。
リディアは、振り返った。
カイルが、立っている。
心配そうな、顔。
「大丈夫か?」
カイルが、リディアの肩に手を置く。
リディアは、頷いた。
「ええ……大丈夫です」
リディアの声が、作り笑いだ。
カイルは、リディアの目を見た。
「嘘をつくな」
カイルの声が、低い。
リディアは、目を逸らした。
「本当に……大丈夫です……」
カイルは、リディアを抱きしめた。
「無理をするな」
カイルの声が、温かい。
リディアは、カイルの胸に顔を埋めた。
温かい。
優しい。
でも、苦しい。
こんなに優しくされるほど、苦しい。
私には、その資格がない。
リディアは、涙をこらえた。
夜。
リディアは、一人薬草園に戻った。
月が、昇っている。
星が、輝いている。
美しい、夜空。
リディアは、薬草園の中央に座り込んだ。
そして、泣いた。
声を上げて。
「どうして……」
リディアの声が、夜に響く。
「どうして、私は……」
涙が、止まらない。
「何もできないの……」
リディアは、地面を叩いた。
「前世でも……今世でも……」
リディアの声が、絶望に満ちている。
「私は、何も変えられない……」
リディアは、空を見上げた。
星空が、無情に輝いている。
冷たく。
遠く。
美しく。
リディアは、涙で視界が霞んだ。
「誰か……」
リディアの声が、か細い。
「誰か……教えて……」
リディアは、膝を抱えた。
「私は、どうすればいいの……」
風が、吹いた。
薬草が、揺れる。
リディアの髪が、風に舞う。
だが、答えは返ってこない。
星空は、ただ静かに輝いているだけ。
リディアは、一人泣き続けた。
夜が、深まっていく。
翌日。
リディアは、研究棟に閉じこもっていた。
机の上に、薬草が散らばっている。
乳鉢。
薬瓶。
実験器具。
だが、リディアの手は動かない。
ただ、ぼんやりと机を見つめている。
調合を、しようとした。
薬草を、手に取った。
だが、手が震えた。
何のために、作るのか。
誰のために、作るのか。
わからなくなった。
リディアは、薬草を机に置いた。
そして、椅子に深く座り込んだ。
目を閉じる。
前世の記憶が、フラッシュバックする。
製薬会社の研究室。
告発資料を作る自分。
薬害事件の証拠を、集める自分。
だが。
誰も、信じてくれなかった。
上司は、冷たく言った。
「証拠不十分だ」
「会社の利益を考えろ」
「黙っていろ」
同僚たちも、目を逸らした。
「あいつは、問題児だ」
「出世を諦めたのか」
「関わらない方がいい」
孤独。
絶望。
そして。
左遷。
リディアは、目を開けた。
涙が、溢れる。
「また、同じだ……」
リディアの声が、震える。
「告発しても……」
リディアは、机に突っ伏した。
「誰も、信じない……」
リディアの涙が、机を濡らす。
「証拠がなければ……何も変わらない……」
リディアは、拳を握りしめた。
「前世と、同じ……」
リディアの声が、絶望に沈む。
時間が、過ぎていく。
リディアは、動けない。
何もできない。
ただ、机に突っ伏している。
扉を、ノックする音。
「リディア先生?」
エリスの声だ。
明るい、声。
リディアは、顔を上げた。
涙を、拭う。
「……何?」
リディアの声が、冷たい。
扉が、開く。
エリスが、顔を覗かせた。
「先生、一緒にお昼ご飯食べよ?」
エリスの笑顔。
無邪気な、笑顔。
リディアは、目を逸らした。
「今日は……一人にして」
リディアの声が、拒絶している。
エリスの笑顔が、消えた。
「……先生?」
エリスの声が、不安そうだ。
「一人に、して」
リディアの声が、強くなる。
エリスは、立ち尽くした。
そして、小さく頷いた。
「……わかった」
エリスの声が、悲しそうだ。
エリスは、扉を閉めた。
静かに。
足音が、遠ざかっていく。
リディアは、顔を覆った。
「ああ……」
リディアの声が、自己嫌悪に満ちている。
「何を、やっているの……」
リディアは、震えた。
「優しい子を……」
リディアの涙が、止まらない。
「傷つけてしまった……」
リディアは、机に突っ伏した。
「私は……最低だ……」
リディアは、泣き続けた。
自己嫌悪。
罪悪感。
無力感。
全てが、リディアを押し潰す。
時間が、過ぎていく。
部屋が、暗くなっていく。
夕方。
扉の外で、足音が止まった。
重い、足音。
カイルだ。
扉を、ノックする音。
リディアは、返事をしなかった。
沈黙。
やがて、カイルの声が聞こえた。
扉越しに。
「リディア」
カイルの声が、低く響く。
「無理に、笑わなくていい」
カイルの声が、優しい。
リディアは、顔を上げた。
扉を、見つめる。
「俺は、ここにいる」
カイルの声が、静かに響く。
「お前が、泣きたければ泣けばいい」
カイルの声が、温かい。
「お前が、休みたければ休めばいい」
カイルの声が、続く。
「俺は、ここにいる」
リディアは、涙が溢れた。
「カイル……」
リディアの声が、震える。
「俺は、どこにも行かない」
カイルの声が、誓いのように響く。
「お前が、立ち上がるまで」
カイルの声が、優しい。
「俺は、ここで待っている」
リディアは、扉に向かって歩いた。
よろめきながら。
扉に、手をつく。
「カイル……」
リディアの声が、か細い。
扉の向こうで、カイルが答えた。
「ああ」
カイルの声が、近い。
「俺は、ここにいる」
リディアは、扉に額をつけた。
涙が、流れる。
「ありがとう……」
リディアの声が、小さい。
扉の向こうで、カイルの気配がする。
温かい、気配。
リディアは、扉に寄りかかった。
カイルも、扉の向こうで同じようにしているのだろう。
二人は、扉を挟んで静かに寄り添っていた。
沈黙。
だが、孤独ではない。
リディアは、少しだけ心が軽くなった。
窓の外、夕日が沈んでいく。
部屋が、オレンジ色に染まる。
リディアは、扉に寄りかかったまま目を閉じた。
カイルの気配を、感じながら。
夜。
リディアは、研究棟から自室に戻った。
部屋は、静かだ。
机の上に、前世ノートが置いてある。
リディアは、ノートを見つめた。
何ヶ月も書き続けた、ノート。
前世の記憶。
化学知識。
セレナへの復讐計画。
全て、このノートに記されている。
リディアは、ノートを手に取った。
ページを、めくる。
自分の筆跡。
必死に書いた、証拠。
だが、今は何の意味もない。
リディアは、ノートを閉じた。
そして、机の引き出しにしまった。
「もう……」
リディアの声が、小さく震える。
「戦うのを、やめよう……」
リディアは、椅子に座った。
「ここで、静かに暮らせばいい」
リディアの声が、諦めに満ちている。
「カイルも、エリスもいる」
リディアは、窓の外を見た。
「領民たちも、私を必要としている」
リディアの声が、自分を納得させようとしている。
「それで、いいじゃないか……」
リディアは、目を閉じた。
「セレナのことは……」
リディアの声が、途切れる。
「忘れよう……」
リディアは、深く息を吐いた。
「王宮のことも……」
リディアの声が、弱々しい。
「全て、忘れよう……」
窓の外で、風が強くなってきた。
嵐だ。
リディアは、窓を開けた。
冷たい風が、部屋に吹き込む。
薬草園が、見える。
嵐の中で、花が揺れている。
激しく。
白い根草の花が、散っていく。
青い花弁が、風に舞う。
リディアが、大切に育てた花たち。
全て、嵐に散らされていく。
リディアは、その光景を見つめた。
花が、散る。
希望が、散る。
夢が、散る。
リディアの心も、同じだ。
荒廃している。
嵐に、晒されている。
リディアは、窓を閉めた。
そして、ベッドに向かった。
よろめきながら。
「私は……」
リディアの声が、震える。
「ただの、臆病者だ……」
リディアは、ベッドに倒れ込んだ。
枕に、顔を埋める。
「前世でも、逃げた……」
リディアの声が、自己嫌悪に満ちている。
「今世でも、逃げる……」
リディアは、拳を握りしめた。
「何も、変わっていない……」
涙が、溢れる。
「私は、何も変えられない……」
リディアの涙が、枕を濡らす。
「誰も、救えない……」
リディアの声が、絶望に沈む。
外では、嵐が激しくなっている。
雷が、鳴る。
稲光が、部屋を照らす。
雨が、窓を叩く。
激しい、雨。
リディアは、枕を抱きしめた。
「ごめんなさい……」
リディアの声が、か細い。
「ごめんなさい……エリス……」
リディアの涙が、止まらない。
「ごめんなさい……カイル……」
リディアは、震えた。
「ごめんなさい……前世の私……」
リディアの声が、途切れる。
「私は……弱い……」
リディアは、泣き続けた。
声を、殺して。
誰にも、聞こえないように。
嵐の音が、リディアの泣き声をかき消す。
雷。
雨。
風。
全てが、激しい。
リディアの心も、嵐の中にある。
希望が、見えない。
光が、見えない。
ただ、暗闇だけ。
リディアは、疲れ果てていた。
心も。
体も。
全てが、重い。
涙で、枕が濡れている。
リディアは、目を閉じた。
「もう……疲れた……」
リディアの声が、小さく呟く。
「休みたい……」
リディアの意識が、遠のいていく。
眠りが、訪れる。
だが、安らかな眠りではない。
絶望に満ちた、眠り。
リディアの頬を、涙が伝い続ける。
眠りながらも、泣いている。
外では、嵐が吹き荒れている。
薬草園の花が、全て散っていく。
リディアが育てた、希望の花たち。
全て、嵐に奪われていく。
部屋の中。
リディアは、枕を抱きしめたまま眠っている。
涙に濡れた、顔。
苦しそうな、表情。
時折、小さく呟く。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
窓の外、稲光が部屋を照らす。
一瞬、リディアの顔が浮かび上がる。
絶望に、満ちた顔。
そして、また闇に戻る。
嵐は、一晩中続いた。