追放された薬師ですが、冷酷侯爵に溺愛されて辺境でスローライフ始めます

第24章 新しい人生

半年後。
辺境の薬草園は、大きく変わっていた。
研究棟が、増築されている。
大きな建物。
「ヴァレンティス薬学研究所」
看板が、掲げられている。
庭には、若い薬師見習いたちが学んでいる。
薬草を、観察している。
調合を、練習している。
真剣な、顔。
リディアは、研究所の窓から外を見ていた。
微笑みながら。
「みんな、頑張っているわね」
リディアの声が、優しい。
窓の外、春の陽光が降り注いでいる。
花が、咲いている。
美しい、景色。
リディアは、自分の手を見た。
左手の薬指。
そこに、銀の指輪が輝いている。
結婚指輪。
リディアの心に、あの日の記憶が蘇る。

三ヶ月前。
辺境の大聖堂。
白いドレスを着たリディア。
緊張しながら、歩いた。
バージンロードを。
その先に、カイルが立っていた。
黒い礼服。
銀髪が、陽光に輝いている。
隻眼が、リディアを見つめている。
優しく。
リディアは、カイルの前に立った。
神官が、祝福の言葉を述べた。
「誓いますか?」
神官の声が、響いた。
カイルは、リディアの手を取った。
「誓う」
カイルの声が、力強かった。
「この女を、生涯愛し、守ることを」
リディアも、答えた。
「誓います」
リディアの声が、震えていた。
「この人を、生涯愛し、支えることを」
指輪の交換。
カイルの手が、温かかった。
「誓いのキスを」
神官の言葉。
カイルは、リディアの頬に手を添えた。
そして、唇を重ねた。
優しく。
温かく。
周囲から、拍手が響いた。
エリスが、一番大きく拍手していた。
「おめでとう、パパ! リディア先生!」
エリスの笑顔。
幸せな、瞬間。

リディアは、微笑んだ。
あの日から、三ヶ月。
リディアは、正式に「カイル侯爵夫人」になった。
「ママ!」
元気な声が、研究室に響いた。
リディアは、振り返った。
エリスが、駆け込んできた。
息を切らして。
頬が、ピンク色に染まっている。
健康そうな、顔。
「ママ、見て!」
エリスは、手に花束を持っている。
「お庭で摘んだの!」
エリスの笑顔。
無邪気な、笑顔。
リディアは、しゃがんでエリスと目線を合わせた。
「きれいね」
リディアの声が、優しい。
エリスは、リディアに花束を渡した。
「ママにあげる!」
リディアは、花束を受け取った。
「ありがとう、エリス」
エリスは、リディアに抱きついた。
「ねえ、ママ」
エリスの声が、無邪気だ。
「今日のお薬は?」
リディアは、エリスの頭を撫でた。
「もう、お薬はいらないわ」
リディアの声が、温かい。
「あなたは、元気よ」
エリスは、笑顔で頷いた。
「うん! 私、すごく元気!」
エリスは、くるくると回った。
「走れるし、跳べるし、何でもできる!」
リディアは、エリスを抱きしめた。
「そうね、あなたは本当に元気になったわ」
リディアの目に、涙が滲んだ。
嬉しさの、涙。
エリスは、リディアの顔を見た。
「ママ、泣いてるの?」
リディアは、首を横に振った。
「ううん、嬉しいだけよ」
リディアは、エリスを強く抱きしめた。
「あなたが元気で、本当に嬉しいの」
エリスは、リディアに頬を寄せた。
「私も嬉しいよ。ママがいてくれて」
二人は、しばらく抱き合っていた。
温かい、時間。
やがて、エリスが言った。
「ママ、パパが呼んでるよ」
リディアは、顔を上げた。
「パパが?」
エリスは、頷いた。
「執務室にいるって」
リディアは、立ち上がった。
「わかったわ。行ってくるね」
エリスは、手を振った。
「いってらっしゃい!」
リディアは、執務室へ向かった。
廊下を歩く。
春の風が、窓から吹き込んでいる。
心地よい、風。
リディアは、執務室の扉をノックした。
「入れ」
カイルの声が、響く。
リディアは、扉を開けた。
カイルは、机に向かって書類を読んでいた。
リディアが入ると、顔を上げた。
「リディア」
カイルの声が、優しい。
リディアは、カイルに近づいた。
「呼んだ?」
カイルは、書類を置いた。
そして、リディアを見つめた。
隻眼が、温かい。
「ああ、ただ顔が見たくなった」
カイルの声が、穏やかだ。
リディアは、微笑んだ。
「それだけ?」
カイルは、立ち上がった。
そして、リディアの手を取った。
「お前がいてくれて」
カイルの声が、静かに響く。
「俺は、救われた」
カイルの隻眼が、リディアを見つめる。
「エリスも、元気になった」
カイルの声が、感情を帯びる。
「領民たちも、笑っている」
カイルは、リディアの手を握りしめた。
「全て、お前のおかげだ」
リディアは、首を横に振った。
「いいえ、あなたがいてくれたから」
リディアの声が、優しい。
「私は、ここまで来れました」
カイルは、リディアを抱き寄せた。
「共に、歩んでくれて感謝している」
カイルの声が、リディアの耳元で響く。
リディアは、カイルの胸に顔を埋めた。
「私こそ、感謝しています」
リディアの声が、温かい。
二人は、しばらく抱き合っていた。
窓の外、鳥が鳴いている。
春の、陽光。
穏やかな、時間。
幸せな、時間。
数週間後。
王都から、使者が訪れた。
「リディア・ヴァレンティス侯爵夫人」
使者の声が、響く。
「国王陛下より、召喚の命です」
リディアは、驚いた。
「召喚……ですか?」
使者は、頷いた。
「表彰式が、執り行われます」
使者は、続けた。
「夫人の功績を、讃えるために」
リディアは、カイルを見た。
カイルは、微笑んだ。
「行こう」
カイルの声が、優しい。
「お前の功績を、認めてもらう時だ」

数日後。
王宮の謁見の間。
リディアとカイルは、玉座の前に立っていた。
周囲には、多くの貴族たち。
そして、下級薬師たち。
マリも、そこにいた。
国王が、玉座に座っている。
「リディア・ヴァレンティス」
国王の声が、厳かに響く。
「前に出よ」
リディアは、一歩前に出た。
緊張で、心臓が高鳴る。
国王は、続けた。
「お前の功績は、計り知れない」
国王の声が、謁見の間に響く。
「お前の医療改革により」
国王は、リディアを見た。
「王国中の医療が、変わった」
国王は、手を広げた。
「お前の前世……いや、お前の知識により」
国王の声が、力強い。
「新しい薬が、生まれた」
国王は、続けた。
「魔力に依存しない薬」
国王の声が、感嘆を帯びる。
「誰もが使える、安全な薬」
貴族たちが、頷いている。
「その薬は、今や王国中で使われている」
国王の声が、響く。
「貧しい者も」
「病弱な者も」
「全ての民が、恩恵を受けている」
国王は、立ち上がった。
「よって、お前に功労賞を授与する」
侍従が、クッションに乗せた勲章を持ってきた。
金色に、輝いている。
国王は、勲章をリディアの胸に付けた。
「リディア・ヴァレンティス」
国王の声が、厳かだ。
「お前の功績を、讃える」
謁見の間に、拍手が響いた。
温かい、拍手。
リディアは、涙が溢れそうになった。
「ありがとうございます、陛下」
リディアの声が、震える。
国王は、微笑んだ。
「礼を言うのは、こちらの方だ」
国王の声が、優しい。
「お前が、この国を救った」
リディアは、頭を下げた。
表彰式が、終わった。
リディアが謁見の間を出ようとした時。
下級薬師たちが、駆け寄ってきた。
マリを先頭に。
「リディア様!」
マリの声が、明るい。
他の薬師たちも、口々に言う。
「おめでとうございます!」
「本当に、素晴らしいです!」
一人の老薬師が、前に出た。
「リディア様」
老薬師の声が、感慨深い。
「あなたのおかげで、薬学が変わりました」
老薬師は、深々と頭を下げた。
「私たちのような下級薬師も」
老薬師の声が、震える。
「今では、人を救えるようになりました」
別の若い薬師が、言った。
「魔力がなくても」
若い薬師の声が、希望に満ちている。
「あなたの知識があれば、薬が作れます」
また別の薬師が、涙を流していた。
「私の娘が、薬師を目指すと言いました」
薬師の声が、喜びに満ちている。
「あなたのような、薬師になりたいと」
リディアは、涙が止まらなくなった。
「いいえ」
リディアの声が、震える。
「私一人では、何もできませんでした」
リディアは、薬師たちを見回した。
「みんなの力です」
リディアの声が、優しい。
「あなたたちが、協力してくれたから」
リディアは、マリの手を取った。
「マリが、証拠を持ってきてくれたから」
リディアの涙が、頬を伝う。
「みんながいてくれたから」
「私は、ここにいます」
薬師たちも、涙を流した。
みんなで、抱き合った。
温かい、時間。
カイルは、少し離れたところで見守っていた。
微笑みながら。
その後、数日間。
リディアの元に、手紙が届き続けた。
毎日、何通も。
全て、セレナの被害者たちからだった。
リディアは、一通一通読んだ。

「リディア様、私の依存症が治りました。ありがとうございます」

「夫が、正気を取り戻しました。家族に、笑顔が戻りました」

「娘の人格崩壊が、回復に向かっています。希望が見えました」

一通一通が、感謝に満ちていた。
リディアは、手紙を読みながら涙を流した。
「やっと……」
リディアの声が、震える。
「やっと、救えた……」
カイルが、リディアの肩を抱いた。
「お前は、多くの人を救った」
カイルの声が、優しい。
「誇りに思え」
リディアは、カイルを見上げた。
「前世では、できなかったこと」
リディアの涙が、溢れる。
「今世で、やっと成し遂げられました」
リディアは、手紙を胸に抱いた。
「これで、前世の私にも」
リディアの声が、温かい。
「報告できます」
カイルは、リディアを抱きしめた。
「お前は、よくやった」
二人は、しばらく抱き合っていた。
窓の外、夕日が沈んでいく。
温かい、光。
希望の、光。
リディアの心は、満たされていた。
表彰式の翌日。
リディアは、王宮の庭園を歩いていた。
一人で。
春の花が、咲いている。
美しい、庭園。
リディアは、花を見つめた。
「ここも、変わらないわね」
リディアの声が、静かに呟く。
以前、婚約者として歩いた庭園。
あの頃は、孤独だった。
だが、今は違う。
リディアは、微笑んだ。
その時。
「リディア……」
声が、聞こえた。
リディアは、振り返った。
アルヴィンが、立っていた。
痩せこけた、姿。
頬が、こけている。
目の下に、隈ができている。
かつての華やかさは、ない。
リディアは、息を呑んだ。
「アルヴィン……殿下……」
アルヴィンは、首を横に振った。
「もう、殿下ではない」
アルヴィンの声が、か細い。
「王子の位を、剥奪された」
アルヴィンは、リディアに近づいた。
ゆっくりと。
「リディア……」
アルヴィンの声が、震える。
「俺は……間違っていた」
アルヴィンは、立ち止まった。
リディアの前で。
「お前を、見る目がなかった」
アルヴィンの目に、涙が滲んでいる。
「お前は……こんなに素晴らしい人だったのに」
アルヴィンの声が、後悔に満ちている。
「俺は……セレナに騙されて」
アルヴィンは、拳を握りしめた。
「お前を……傷つけた」
アルヴィンは、深々と頭を下げた。
「許してくれとは、言わない」
アルヴィンの声が、震える。
「だが……謝らせてくれ」
アルヴィンの涙が、地面に落ちる。
「本当に……済まなかった」
リディアは、しばらく黙っていた。
複雑な、気持ち。
怒りも。
悲しみも。
だが、それ以上に。
憐れみが、あった。
リディアは、静かに言った。
「顔を上げてください」
リディアの声が、優しい。
アルヴィンは、ゆっくりと顔を上げた。
涙で、顔が濡れている。
リディアは、アルヴィンを見た。
「過去は、変えられません」
リディアの声が、穏やかだ。
「あなたが私を傷つけたことも」
リディアは、続けた。
「私が苦しんだことも、全て、事実です」
アルヴィンは、唇を噛んだ。
リディアは、微笑んだ。
「でも」
リディアの声が、温かくなる。
「あなたも、前を向いてください」
リディアは、アルヴィンの目を見た。
「過去に囚われず」
リディアの声が、優しい。
「これから、どう生きるか。それが、大切です」
アルヴィンは、目を見開いた。
「リディア……」
リディアは、続けた。
「あなたは、まだ若い」
リディアの声が、励ますように響く。
「やり直せます。私を傷つけた過去を背負いながらも、前を向いて、歩いてください」
アルヴィンは、涙が止まらなくなった。
「お前は……優しいな……」
アルヴィンの声が、震える。
リディアは、小さく笑った。
「優しくなんて、ありません」
リディアの声が、静かだ。
「ただ、もう恨みを持ちたくないだけです」
リディアは、空を見上げた。
「私には、守りたい人たちがいます」
リディアの声が、温かい。
「その人たちとの時間を、過去の恨みで、汚したくないんです」
アルヴィンは、頷いた。
「そうか……」
アルヴィンは、リディアを見た。
「お前は……幸せそうだな」
アルヴィンの声が、寂しそうだ。
リディアは、微笑んだ。
「はい、幸せです」
リディアの声が、確信に満ちている。
アルヴィンは、小さく笑った。
「良かった……」
アルヴィンは、一歩後ずさった。
「俺は……行くよ」
アルヴィンの声が、静かだ。
「もう、お前を煩わせない」
リディアは、頷いた。
「お元気で」
アルヴィンは、振り返った。
そして、歩き出した。
ゆっくりと。
庭園の奥へ。
リディアは、その背中を見送った。
小さくなっていく、背中。
リディアは、呟いた。
「さようなら」

その日の夕方。
リディアは、辺境へ戻る馬車に乗っていた。
カイルが、隣に座っている。
エリスは、リディアの膝の上。
「ママ、早く帰ろう!」
エリスの声が、明るい。
「お庭の花、見せたいの!」
リディアは、エリスの頭を撫でた。
「楽しみね」
カイルは、リディアの手を握った。
「疲れたか?」
カイルの声が、優しい。
リディアは、首を横に振った。
「いいえ、大丈夫です」
リディアは、カイルを見た。
「あなたたちがいてくれるから」
カイルは、微笑んだ。
「俺たちも、お前がいてくれるから」
三人は、笑い合った。
温かい、笑い声。
馬車が、揺れる。
窓の外、夕日が沈んでいく。
オレンジ色の光が、空を染めている。
美しい、夕日。
リディアは、窓の外を見つめた。
「私の新しい人生は」
リディアの声が、静かに呟く。
「ここから、始まる」
リディアは、微笑んだ。
鞄の中に、前世ノートがある。
リディアは、ノートを取り出した。
そして、静かに閉じた。
もう、開くことはないだろう。
過去は、終わった。
リディアは、ノートを胸に抱いた。
「ありがとう」
リディアの声が、優しい。
「過去の私」
リディアの涙が、一筋流れた。
「あなたの無念を、晴らせました」
リディアは、ノートを鞄にしまった。
そして、カイルとエリスを見た。
二人とも、微笑んでいる。
温かい、笑顔。
リディアの心が、満たされた。
馬車は、辺境へ向かって走り続ける。
夕日が、馬車を照らしている。
希望の、光。
リディアは、カイルの肩に寄りかかった。
エリスは、リディアの膝で眠り始めた。
穏やかな、寝息。
カイルは、リディアの髪を撫でた。
馬車は、走り続ける。
夕日が、地平線に沈んでいく。
新しい夜が、始まろうとしている。
だが、リディアの心には。
朝日のような、希望があった。
新しい人生。
愛する人たちと共に。
リディアは、微笑んだ。
幸せな、微笑み。

物語は、ここで終わる。
だが、リディアの人生は、続いていく。
カイルと。
エリスと。
そして、多くの人々と共に。
希望に満ちた、未来へ。
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