13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。

①⑥

 ソファーに座るよう促され、蒼士が温かい紅茶を淹れてくれた。
「もう遅いし、泊まってくだろ?」
「そうしたいけど、明日からは仕事に行かなきゃだし。後でタクシー呼んでもらえる?」
「ダメ。帰さないって意味で言ってるから。仕事、辞めるって言えそう?」
「……直ぐには辞められないだろうけど、いずれは」
 蒼士は大袈裟なため息を吐いた。
「それじゃあ、来年の今頃も働いてそうだな」
「そうは思いたくないけど……」
 自信はない。
 課長がいない場所では意気込んでみたが、実際目の前にすると辞めたいと言える自分を想像もできなかった。

「……行きたくないなぁ……」
 天井を仰いで本音が溢れる。
 入院生活が快適すぎて、再びあの戦場に戻ると思うと拒否反応が出てしまう。
 これまでも出社するのは嫌だった。
 朝の足取りは重く、満員電車を避けて早い時間に行っていたせいで、余計に勤務時間が長かった。

「また入院したい」
 無意識で呟くと、蒼士が声を上げて笑った。
「そんなに居心地が良かったなら。医師として本望だけどな」
 幼馴染だと打ち明けてからの蒼士は途端に表情が豊かになった。昔でもこんなに笑う子ではなかったように記憶している。いつも美澪の隣で微笑む天使のような子供だった。
 まだ知らない蒼士がいると思うと、もっといろんな彼を見て見たいと思ってしまう。

 (あれ、私たちって……もう、恋人なのかな)
 怒涛の展開に、蒼士からもらった言葉に返事を返せていなかったような気がしてきた。
 でも今更聞くのも憚られるし……。
 もう一回言って欲しいなんて烏滸がましくて言えるわけもない。

 それでも生活感のなさすぎる子の部屋には、他の人の面影は一切残されていなかった。
 こんなことでホッとしてしまう。

 このまま時間が止まればいいのに……会社から逃げられればどこにいてもいいのかもしれないけれど、蒼士の温もりを知ってしまえば、ここ以上に居心地の良い場所なんてないと思ってしまう。
 夢なら覚めないで欲しい……。

 蒼士に凭れ、ぼんやりと部屋を眺めながらそんなことを考えていた。

 その時、一気に現実へと引き戻させる音がなる。
 スマホだ。こんな深夜にスマホが着信を知らせたのだ。
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