13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。

②①

 その後は意外と慌ただしい日々を送っていた。
 入院から会社を辞めるまでの間が十日もかかっていないなんて、振り返る度にとても濃厚な時間だったと思いに耽てしまう。

 しかし会社を辞めるのがゴールではない。
 美澪は住んでいたアパートから、蒼士のマンションへ引っ越した。
 丁度、更新時期だったのは都合は良かったが、次の入居者が決まったものだから退去を急かされてしまった。

「思い入れのあるものだけ持ってきて、あとは処分すれば良い」と言ってくれたので引っ越し自体は楽だったけれど、狭い部屋でも荷物は思いのほか沢山あるものだ。
 蒼士が手伝うと言ってくれたが頑なに断った。

 そこは乙女心というもので、やはり生活感の溢れる部屋は見られたくない。
 蒼士の手前、賢吾に助っ人を頼むわけにもいかず、全ての荷物を処分するのに一週間を要した。
 
 家財道具は何も必要なかったが、衣類は全て新調してくれた。節約のためもあったが、自分の買い物に出かける余裕もない日々を過ごしていた美澪の服はどれもくたびれていて、引っ越しを機に全て処分したのだ。
 パジャマの一枚も持って来なかったのに、蒼士は一日で美澪が困らないほどの衣類を揃えてくれた。

「こんなに沢山、悪いよ」クローゼットに美澪の服が並べられている。退院した時にサイズは靴に至るまで把握済みだった。
「いずれ家族になるんだから、遠慮はいらない。今シーズンの物しかないし、秋になれば今度は一緒にゆっくり買い物に出かけよう。互いの服を選び合うのもいい」
 蒼士は蒼士で青春とは縁遠い学生時代を過ごしたのもあり、今から二人で沢山デートをしたいと言った。

 なかなか休みの取れない彼ではあるが、映画を見に行ったり、コンサートやミュージカルを観に行ったり、離れていた時間にやりたかったことを片っ端からしていった。
 蒼士は美澪が日に日に笑顔が増えていくのを心底喜んでくれた。
 美澪自身も、愛想笑いしかできなくなっていた自分を捨てられたという自覚がある。
 
 蒼士となら、どこに行っても何をしても楽しくて仕方ない。
 弟みたいに思っていた男の子が、まさか運命の人だったなんて感慨深い。
 しかも昔は世話をしていたのに、今は世話をされる側になっている。

『美澪の作ったご飯が食べたい』言っていたのに、蒼士はあまり家事を要求しなかった。
「美澪もやりたかったことをして過ごせばいい」と、それを繰り返し言っている。
 そうは言われても、社畜生活が長かったのもあり、何をすればいいのか思い当たらない。
 折角なので、料理教室に通おうと申し込みだけはしておいた。

 そんな生活が一ヶ月ほど過ぎた頃、賢吾から『仕事、無事辞められた』と報告の連絡が入った。
 そして通っているジムでトレーナーとして働けると決まったことも同時に教えてくれた。
 自分のことのように嬉しくて、思わず電話をかけた。久しぶりに喋る賢吾は相変わらずとても元気で安心した。
 またそのうちご飯でも行こうと約束し、たまには近況報告を送り合おうと話し合う。
 
 それからまた一ヶ月ほど経った頃、正式にプロポーズを受けた。
 蒼士は今でも美澪の誕生日を覚えていて、指輪をプレゼントしてくれた。
「俺だけの美澪になって」
 普段は優しくて自信たっぷりに話す蒼士なのに、この時だけは少し照れていて、昔の彼を思い出した。
 場所は美澪が入院していた病室だった。
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