13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。

 病院に来てまでストレスを与えられるとは思いもよらない。しかし目の前から漂う食欲を唆る香りに、美澪は一先ず自分の空腹を優先することにした。
 久しぶりの食事らしい食事に、舌鼓を打つ。
 最近の病院食はこんなにもレベルが高いのかと感嘆してしまう。栄養バランスだけではなく、味も美味しい。皿に盛られているというだけで、こんなにも満たされ方も違うのかと痛感した。パックに詰められたコンビニ弁当では胃は膨れても心までは満たされない。ゆっくり食べる時間もなければ、そもそも食欲自体ほとんどなかった。
 
 癖で半分くらいまで猛スピードで口に捻じ込み、ふと、慌てなくても良いんだと気が付いた。
 一度テーブルに手を置く。
 食べかけのハンバーグに温かい味噌汁、ふっくらと柔らかめに炊かれた白米。
 美澪は本来、調理に携わる仕事がしたかったと思い出した。

「本当、何やってんだろ」
 呟いて、涙が溢れた。
 体を壊すまで必死で働いても目標なんてない。上司の顔色を伺いながら、罵倒に怯える毎日。
 有休どころか休日さえまともに取れない。
 それで挙げ句の果てには救急車の世話になるなんて……。

「ごはん……美味しい……」
 いいな……と思った。こんな美味しいご飯を作れる環境で働けるなんて羨ましい。
 自分が心底情けない人間に思えて仕方ない。

 さっきまで怒っていた美澪が今度はいきなり泣き出して、綾瀬は驚きのあまり声を上げた。
「お、乙部さん!?」
「あ、ごめんなさい。なんか、気が抜けちゃって。あの、私のカバンって……」
「ないですね。他の社員さんは帰ってしまった後だったみたいで、警備員さんはカバンまで気が回らなかったようです」
「そう……ですか……。スマホがあればせめて上司に連絡が取れると思ったんだけど」
「救急車で運ばれたのは知っているはずですから、仕方ないですよ。神様が休めって言ってると思って、仕事のことは忘れましょう」
「いいのかな……」
 綾瀬は笑顔で「大丈夫、大丈夫」と励ましてくれた。
 食事が終わるまで話相手になってくれ、退室する。

 窓のカーテンは閉められていて、外が暗いのが分かる。部屋に時計はないかと見渡してみたが、どこにもなかった。
 することもなく、美澪はゆったりとマットに背を預け、うつらうつらと心地よい眠りについた。
 翌日、「もう三日眠り続ける気か」と、海堂に声をかけられるまで……。
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