13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。

②②

 それから、また慌ただしい日々が始まった。
 蒼士は早速両親と会うスケジュールを組んだ。
「母が早く会いたいと聞かないんだ」
「蒼ちゃんのお母さんとも十三年ぶりかぁ。私も会いたい」
 蒼士の母も海堂院長と結婚してからすごく明るい人柄になっているそうだ。美澪の知っている母は大人しくて声が小さい、どこか憂いな空気を纏った人だ。
 あの人が明るくなったなんて想像もできない。

 けれど、実際会って見れば本当にその通りだった。
「美澪ちゃん、お久しぶりね。すっかり大人の女性になったわね」
 蒼士の母はあの頃を振り返り、美澪が無条件で蒼士の味方でいてくれたのが嬉しかったのだと話してくれた。
 仕事をしても元夫が遊びに使ってしまい、蒼士にはとても苦労をかけた。でも美澪のおかげで寂しくないと蒼士が母に話していたそうだ。
 それを本当に感謝していると頭を下げられ、美澪は慌ててやめてもらった。

「私の方が、蒼ちゃんには感謝してるんです。碌でもない私の過去を受け入れてくれた。会社に潰されそうになっていたのを救い出してくれた。また、自然に笑えるようになった。全部、全部蒼ちゃんのおかげなんです。私と結婚したいなんて言ってくれるのも、この世で蒼ちゃんだけです」
 冗談で言ったつもりだったが、蒼士も母も「他の人に美澪は渡さない」と口を揃えて言うものだから、反応に困ってしまった。

 母は本来はとても活発な性格だったのだと教えてくれた。
「あなたたちが子供の頃は、世間話もできなかったものね」
「蒼ちゃんのお母さん、仕事ずっと忙しそうだったから仕方ないですよ」
「あの人との結婚は自分の中の汚点だと思っているわ。でも、蒼士を産めたのだけは良かった」
 海堂医師は子供ができない体質なのだと教えてくれた。別段、本人も隠しているわけではないらしいが、母が入院してきて一目惚れをした海堂医師は、難しい手術を前に「この手術が成功させるから、結婚しよう」と言ったそうだ。
 しかも蒼士の目の前で。
 蒼士がその堂々たるプロポーズを目の当たりにし、そして本当に長時間に及ぶ手術を成功させた海堂医師に憧れないはずはなかった。

『貴方みたいな医師になりたいです』
 真っ直ぐな視線を向け、そう蒼士から海堂医師に伝えた時は、他人目も憚らず両目いっぱいに涙を浮かべたそうだ。
 海堂医師は蒼士にできる限りの支援をしてくれた。優しく温厚な性格だけれど、仕事に対して熱い心を持っている。蒼士はいつだって海堂医師が目標なのだそうだ。

「蒼士から話は聞いたわ。まさか美澪ちゃんがあんなにも辛い過去を背負っていたなんて。神様は意地悪よね」
「でも私も、娘を……沙莉を産めたのは良かったと思っています。もう会わせてもらえないけど、幸せになっててほしいと願っています」
「本当にそれでいいの?」
「仕方ないですもん。何もかも、望むままの人生なんてあるわけもないですし。でも、その分私も笑って過ごそうと決めました。娘のためにも、悲しい生き方はしちゃいけないって。そう思わせてくれたのも、蒼ちゃんでした」

 母は「子供の頃から、もっと美澪ちゃんとお話がしたかったわ」と顔を綻ばせた。
「また、夫とも会ってね。きっと、夫も美澪ちゃんを気にいるわ」
「そうだと良いです。仕事、忙しいんですね」
「蒼士が勤めるようになってからは、随分楽になったと言ってるけどね」
 目を伏せて笑う母からは、少しも憂いは感じなかった。

 後日、改めて顔を合わせた海堂医師も、すっかり美澪を気に入ってくれ、蒼士の思い出話に花が咲いた。海堂医師は引っ越してからの蒼士の様子を沢山教えてくれて、美澪は子供の頃の蒼士の話を沢山話した。
 本当の親子じゃなくても、海堂医師は心から蒼士を愛しているのだと伝わってくる。
 そして美澪のことも歓迎してくれている。
 大病院の院長と思って身構えていたのは杞憂に終わった。

「入籍はいつを予定しるんだ?」
「俺の誕生日が終わって直ぐくらいが良いかなと思っています。その間に、美澪のご両親にも挨拶に行かないといけませんし……」
「時間がないな。仕事はいくらでも調整するから、安心しなさい」
 蒼士の行動力もきっと海堂医師の影響なのだろうと思うほど、計画は会話の中でどんどん進んでいく。

 そして翌週、久しぶりに地元へと帰った。
< 52 / 58 >

この作品をシェア

pagetop