冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

第5話 新しい人生の始まり


翌日の、十二月十五日。私たちは区役所を訪れた。

クリスマスの十日前――この日を、私たちは入籍日に選んだ。

窓口で婚姻届を受け取ると、指先が僅かに震えた。

白い紙。そこに、二人の名前を刻む。

湊はすでにペンを取り、迷いなく『夫』の欄を埋めていく。

その横顔を見つめながら、私は深呼吸をした。

真剣な表情。百戦錬磨の彼が、たった一枚の紙を前に、わずかに慎重な手つきを見せた。

「ほら、お前も」

先にサインし終えた湊が、私の前に婚姻届を置く。

そうだ、書かなきゃ。

ペン先を、『妻』の欄に下ろす。

一画、また一画。自分の名前を書き進めるたびに、運命が塗り替えられていく気がした。

この瞬間から、私は高嶺紗良ではなくなる。

『桐生紗良』になるんだ。湊の……妻に。

ペンを置くと、湊が私の手にそっと触れた。

「大丈夫か?」

「はい」

二人で記入欄を確認する。

『夫 桐生湊』
『妻 高嶺紗良』

並んだ二つの名前を見た途端、契約だと分かっているのに鼓動が跳ねる。

白紙の上で寄り添う二人の名前に、運命が一つに結ばれたかのような震えが走った。

いや、たとえ期限付きであっても、法律上は確かに夫婦なんだ。

「さあ、提出しよう」

湊が、私の手を取る。

窓口に提出すると、職員の方が笑顔で受け取ってくれた。

「おめでとうございます」

その言葉に、なぜか目元が潤んでしまった。

「これで、俺たちは正式に夫婦だ。改めて、これからよろしくな、紗良」

「……はい」

湊の穏やかな声に、私は頷いた。

この人と私は、これから半年間、夫婦。

そう思うと、胸の奥に温かいものが広がっていくのを感じた。
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