冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
第9話 揺れる心
あの雨の夜、湊が口にした『秘密』。
壊れるかもしれない未来への不安は、今も胸の奥に澱のように沈んでいる。
けれど、それ以上に、私の体は湊の与えてくれる温もりを欲していた。
あの時、湊が『いつか必ず話す』と約束してくれたから。今はその言葉を信じて、彼と過ごす時間を大切にしたいと思った。
◇
契約から、三ヶ月。約束の期間は、折り返し地点を過ぎていた。
二月に入り、私たちの関係には確かな変化が訪れている。
あの雨の夜を境に、湊の眼差しはより一層、深い熱を帯びるようになった。
朝。自室で目を覚ますと、軽いノックの音。
扉を開けると、パジャマ姿の湊が立っていた。
「おはよう、紗良」
少し寝癖のついた髪に、無防備な表情。そんな姿を見せてくれることが、最近は嬉しい。
「おはようございます」
「こっちに来て」
言われるまま近づくと、湊が私の額にそっと口づけを落とした。
「もう、恥ずかしいです」
火照る顔を隠すように、視線を逸らす。
私たち、本物の夫婦じゃないのに。それに、まだお互い言えないことを抱えたままなのに。
彼に触れられると、そんな理屈はどうでもよくなってしまう。
湊は楽しげに喉を鳴らし、私の髪を慈しむように撫でた。
「お前の寝起きの顔を見るだけで、心が満たされるんだ」
「……そんなこと、言わないでください」
甘い言葉に耐えきれずさらに俯くと、湊が楽しそうに笑う。
「朝食を作ろうか。紗良、今日は何が食べたい?」
宝石のように輝く穏やかな朝が、当たり前のように繰り返されていた。