氷の法医学者と、秘密の共犯になりました

第5話

《沢渡隼人side》

監察医務院に戻ったとき、雨はまだやんでいなかった。

玄関の自動扉が開くと同時に、湿った外気が背中から追いかけてくる。俺は足を止めず、いつもの手順でカードキーをかざし、廊下へ入った。

濡れたコートの肩から、雨粒が床に落ちる。
廊下の白い床に小さな点を作るそれを見て、俺は反射的に足を止めた。

水だ。

血ではない。

そんな確認をしている時点で、今日は調子が悪い。

俺は無言でコートを脱ぎ、壁際のハンガーに掛けた。袖口が思ったより濡れている。今井刑事が傘の下でメモを取るとき、俺は少し傘を彼女の方へ傾けていた。だから、自分の左肩だけが余計に濡れた。

合理的ではある。

情報を記録する紙が濡れれば、捜査情報の精度が下がる。記録者を濡らさない方が効率的だ。

問題はない。

俺はそう結論づけ、白衣に袖を通した。

机の上には、午前中に届いた鑑定途中の資料が積まれている。三件の変死。白峰メディカルケア。薬剤管理システムの更新履歴。夏目莉子の妹から得られた新情報。

今すべきことは明確だ。

資料を読み直す。矛盾点を抽出する。必要な検査項目を再確認する。警察側に提示すべき事項を整理する。

それだけだ。

俺は椅子に座り、端末を立ち上げた。

画面に認証コードを入力する。メールを開く。検査部からの連絡を確認する。

その流れの途中で、スマートフォンを見た。

通知はない。

俺はすぐに画面を伏せた。

俺はメモを取るため、ペンを引き出しから取りながら考えていた。

情報の遅延は捜査の遅延につながる。

夏目由香への聞き取りの詳細は、今井刑事から共有される予定だ。彼女は真鍋刑事と同行しているはずであり、単独行動ではない。したがって、俺が端末を確認するのは、捜査上必要な情報が届いているかどうかを見るためである。

今井刑事を心配しているわけではない。

そこで、またスマートフォンを見た。

通知はない。

「……」

俺は画面を伏せ直した。
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