氷の法医学者と、秘密の共犯になりました

第8話

監察医務院の玄関を出ると、夜気が頬を刺した。

雨は止んでいたけれど、路面にはまだ水の膜が残っていて、街灯の光を細く引き伸ばしている。濡れたアスファルトの匂いが、息を吸うたび胸の奥まで入り込んできた。

沢渡先生は、私の半歩前を歩いていた。

黒いコートの裾が、夜風にわずかに揺れる。背筋はいつも通りまっすぐで、足取りに迷いはない。けれど私は、その横顔の奥に、さっき見たものを重ねてしまう。

昔、臨床の現場にいたこと。
生きている人間が失われそうになる瞬間に、過去へ引き戻されること。
それでも、死者の声を拾うことで、生きている人を少しでも救いたいと思っていること。

氷の法医学者。

そう呼ばれる人が、私にだけ少し開けてくれた扉。
その向こうにあったのは、冷たさではなく、長い間閉じ込められてきた痛みだった。
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