仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

クラルテへ戻るまで、他愛のない会話をした。

街路樹の種類がなんだとか、オリゾンヒルズ内に新しくできたカフェが評判だとか、毒にも薬にもならない世間話。

統悟さんはいつものリビングでの会話のようにからかうことも意地悪を言ってくることもなく、私の紡ぐとりとめのない話に、短く、けれどやさしい声で相づちを打ってくれていた。

ただひたすらおだやかな時間の中、私の鼓動だけが激しく鳴り響いている。
心臓を直接、彼に握られているみたいに。



「――まだ起きてのか」

深夜二時。お風呂場から出てきた彼は、私を見ると目を丸くして言った。

「どうした? 眠れない?」

「……いいえ、違うんです」

一度言葉を区切り、呼吸を整える。

「きょ、今日のぶんの訓練がまだだったので……少しでも、と」

 なんとかそう言い切ると、統悟さんはさらに驚いた顔をした。


「どういう風の吹き回しだ?」

「いえ、ただ……これ以上統悟さんの時間を無駄にするわけにもいかないので、できる限りのことをしようと思ったまでです」

「……気持ちは嬉しいが、今日はもう遅いし、明日でいいよ。おやすみ」

「……いえ、……待ってください」


背を向けて自室へ戻ろうとする彼を、震える声で呼び止める。

「あの、その……恋人っぽいことに慣れていないだけで、いつも……全然、嫌なわけじゃないんです。だから、その……少しずつ、段階を踏んでいけば、きっと大丈夫なので」
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