【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
4冊目、愛されない当て馬妻とデートのお作法。
 今、王都の女の子達に一番人気のカフェ『星屑シュガー壱番館』
 前世でいうところのSNS映えしそうな、女の子が大好きな可愛いとキラキラがぎゅぎゅっと詰まった砂糖菓子のようなそのカフェで、どう見ても場違いな男がいた。
 この世界(原作)の男主人公クラヴィル・ヘイリス公爵、つまりステイシー(当て馬妻)の旦那さまである。
 本日は街中に馴染めるようにと騎士服(仕事着)でも貴族らしい装いでもないが、さすが生きる彫刻とまで言われる美貌の持ち主。目立つことこの上ない。
 戦場では鬼神と呼ばれて数多の人間に恐れられ、数々の功績を以て最年少で王立騎士団団長の座まで駆け上がったクラヴィルが、身を小さくしながら非常に居心地悪そうに星屑ビターラッシュ(推定:ブラックコーヒー)をちびちび飲んでいる。
 居た堪れない。そんな言葉が全身から滲み出ているクラヴィルを眺めながら、ステイシーはトキメキ⭐︎ミルキーウェイを涼しい顔で飲む。ちなみに味は至って普通のカフェオレだった。

「旦那さま」

 店名通り流れ星がガンガン落ちてくるんじゃないかレベルで他のお客様の視線が飛んでくる店内で、

「お店の選定を誤ったようです」

 流石に私もキツいです、とステイシーはクラヴィルにしか聞こえない声量でつぶやき微笑む。

「…………ステイシー。もう少し早く気づいて欲しかった」

 クラヴィルがそう返したところで。

「お待たせしましたー♡恋結びスウィートティータイムセットです!」

 先程頼んだ他の商品が届いた。
 旬の苺をふんだんに使ったピンク色の可愛らしさ満点のスイーツと星型のキッシュやサンドイッチがテーブルに並ぶ。

「わぁー結構量ありますね」

「なぁ、ステイシー」

「なる早で出られるように頑張って消費してください」

 外に出たい、というクラヴィルの訴えを秒で封じたステイシーは、

「さて、いただきましょう」

 食欲がすっかり失せているクラヴィルにそう宣告し、にこやかな笑顔をキープしたまま優雅な所作で食べ始めた。

 何故、こんなことになったのか?
 それは数日前に遡る。

「……と、いうわけで。商会の方は順調です」

 ヴァルメロ商会は一時公爵家預かり、ただし商会と公爵家を繋ぐ窓口はガーランド伯爵家長女イリーナとすることで決着して数週間。
 クラヴィルが持ち帰ったウィッグをいたく気に入った魔術師団長ナチ・アメジオスが魔法省の魔術師達に働きかけた事でトントン拍子に話は進んでいった。
 ステイシーが見込んだ通り、イリーナは非常に優秀で。

「いいですねぇ。野心家なお嬢様の本気の恋。萌える要素しかないです」

 にやにやします、と業務報告書に添えられた手紙を緩んだ顔で眺めるステイシー。そこには彼女の好きな"恋物語"とやらが綴られているのだろう。

「身分差がある以上、簡単にはいかないだろうけどな」

 イリーナは伯爵令嬢で。
 ロウディスはヴァルメロ商会の後継とはいえ身分は平民。
 現状、この2人が結ばれるにはイリーナが貴族の身分を捨てるかロウディスが貴族籍を得るしかない。
 それぞれ背負うモノがある以上、自分達の感情だけを優先することはできない。お互いしがらみを捨てられないのなら、現実的に考えてその先には"別れ"しかないのでは? と白んだ顔をするクラヴィルに。

「だから、憧れるんじゃないですか」

 分かってないですねぇ、とステイシーはダメ出しをする。
 ステイシーの前世では、遥か昔から前世の自分が生きた時代までシンデレラストーリーは廃れることなく支持されている。
 つまりそれは古今東西そのジャンルの物語が世の女子達を夢中にさせて来た、というなによりの証明。そしてそれはステイシーが現在生きているこの国でも変わらない。

「政略結婚が当たり前の世界で、意中の人と結ばれる。確かにそれは茨の道でしょう。一筋縄ではいかない"願望"。それを叶えるために己の人生を賭けて奮闘する。だから、応援したくなるのです」

 お任せください、とステイシーがクラヴィルに内緒で増やした蔵書をドサドサッと机に広げ、シンデレラストーリーの良さについて布教しようとしたところで。

「ステイシー。デート、しないか?」

 突然なんの脈絡もなくクラヴィルがそう言った。

「デー……ト?」

 その言葉の意味が分からない、とでも言うかのように、きょとんと首を傾げ目を瞬かせるステイシー。

「誰と誰がデートするのですか?」

 確認のように出てきたセリフに、

「俺とステイシーが」

 クラヴィルは逃げずに少しだけ踏み込んでみる。
 いつも歯切れの良い返事しかしないステイシーにしては珍しく沈黙する。
 長い長い時間を経て出てきた言葉は、

「失礼ながら、何のために?」

 本気で分からない、という彼女の心情を反映したものだった。
 何のために、と改めて問われてクラヴィルは躊躇う。
 なんだかんだでステイシーは付き合いがいい。夜会でもそれ以外の仕事でも、彼女から同伴を断られたことはないし、商会絡みで最近は一緒に行動することも多い。
 だけど。

「デートということは、お仕事ではないのですよね?」

 ステイシーは終始徹底して"クラヴィルの妻"という仕事を果たしているに過ぎなかった。
 訝しむ栗色の瞳にじっと見つめられ、たじろいだクラヴィルの口から出てきたのは、

「実地! そう、これは実地訓練だ」

 耳慣れた言葉だった。
 何だよ実地訓練って、と色気のカケラもない言い訳にクラヴィルは頭を抱えたくなったのだが。

「なるほど! 旦那さまは座学ではなく、実技をお望みというわけですね!」

 合点がいったとばかりに手をポンと打ち、ステイシーはぱぁーっと表情を明るくする。

「うんうん、模擬デート! 大変良きと思います」

 それどころか、なぜか喰い気味で話に乗ってきた。

「いいのか? 貴重な休日を潰すことになるが」

「推し事はむしろご褒美です!」

 ぐっと拳を握りしめ、ぜひと力強く宣言したステイシーは、

「失礼ながら旦那さまは恋愛方面に関しましては初等部以下。女心というモノがまるで分かっておりません! クズい旦那さまを受け止め優しく包み込んで癒してくれるような運命の相手を見つけたとしても、このままでは逃げられてしまうこと必至。相手をときめかせるには、スマートにエスコートできるに越したことはありませんわ! 旦那さまがついにやる気を出してくださって、当て馬妻としては喜ばしい限りです!」

 全力で支援させていただきます! と熱く語り、

「ちなみに、旦那さまはどんなデートをお望みで?」

 ワクワクと読者モード全開でそう尋ねてきた。

「……ステイシーの行きたい所に」

「へ?」

「良き隣人、から始めるなら相手を尊重することからはじめてみようかと」

 ステイシーのやりたい事も行きたい場所も今のクラヴィルには思いつかないが。

「だから君が"デート"というものを俺に教えてくれないか?」

 知りたい、と素直な気持ちに従って、これを機に自分の妻になったステイシーという人物を掘り下げてみようと思う。
 そんなクラヴィルの密かな決意に気づかないステイシーは、

「旦那さまにしては珍しく真っ当……失礼、まともな回答ですね」

 いつも通りにやにやと揶揄ってくる始末。

「なぁ、それわざわざ言い直す必要あったか!?」

 何一つ変わってねぇよ! と突っ込むクラヴィルに、

「旦那さまの練習相手に選んで頂けるなんて光栄なもので! つい」

 ふふっ、と上機嫌に笑うステイシー。
 彼女の楽しげな様子にとりあえず嫌がられていないとほっと胸を撫で下ろしたクラヴィルは、

「じゃあ、決行は今度の休日ということで」

 なんとか初デートの約束を取り付けたのだった。
< 22 / 73 >

この作品をシェア

pagetop