【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
7冊目、愛されない当て馬妻とそれぞれの願い。
 水色のふわふわな髪と赤みがかったピンクの目を持つ、神聖力を宿した女の子。
 それがこの物語のヒロインで、男主人公(クラヴィル)の運命の相手。つまり、ステイシーが探し続けていた人物だった。
 ティアリスとイリーナを引き合わせた日、イリーナから得た情報。
 ルシオンの妻はピンク色の瞳をしている可能性が高い。それだけでヒロインだと断定するのは早計かもしれないけれど。

「そんな人物が男主人公の親友(ルシオン様)の妻なんて、こんなに都合のいい"偶然"ないでしょう」

 と独り言をつぶやいて、ステイシーはため息を漏らす。

「その可能性は無意識に排除してたわね」

 "その可能性"。
 つまり、ヒロインがステイシーと同じ転生者である、ということ。
 公爵家の人脈を駆使してもヒロインが見つからなかったのは、はじめから探すべき場所が違ったから。
 もしかしたら、この世界では虐げられた可哀想なヒロインなんてそもそも存在していなかったのかもしれない。
 だというのなら。

「一体、どうすれば……?」

 と、ステイシーはクラヴィルからもらった髪飾りに視線を落とす。
 真っ白な花とサファイアの散りばめられた綺麗な髪飾り。

「約束、したのに」

 クラヴィルを幸せにしてあげる、と。

「ヒロインがいなかったら、この世界のクラヴィル様は誰が救えばいい?」

 この世界での自分の役割を思い出した時、無数の選択肢がある中でステイシーは自ら当て馬になることを決めた。
 大恩あるエルネア伯爵家を救いたい、というのが一番の理由ではあったけれど、推しの物語を読者として堪能したかったというのもこの結婚を選んだ理由の一つで。
 今はただ、たくさん傷ついてきただろうクラヴィルの心が癒されることを願っている。
 だからこそ、ヒロインと結ばれて欲しかったのに。
 どうすれば、と思考が堂々巡りしかけたところで、一通の手紙が目に入った。

「……コレ、は?」

 見覚えのある筆跡と押された印章。
 ステイシーの実家であるエルネア伯爵家から届いたものだった。
 クラヴィルから不在の屋敷やら領地の仕事やらを代行するのに忙しく封を切るのを忘れていた。
 ペーパーナイフを取り出し丁寧に手紙を開封すれば、懐かしい葡萄の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。

「ふふっ、みんな元気そう」

 手紙にはエルネア伯爵家や領地の日常が綴られていた。
 ヘイリス公爵家の支援のおかげで、領地は滞りなく復興が進んでいること。
 今年は順調に葡萄が育っていること。
 葡萄を他にも活かせないかと母が糸を染めてみたところ、とても綺麗な色合いに仕上がったこと。
 父と弟が新しいワインの開発に挑戦中であること。そのために弟が他国へ留学したこと。
 妹が執筆活動を再開したこと、などなど。
 家族がそれぞれ自分の近況を手紙に綴ってくれていて、優しい笑顔と共に楽しそうな光景が目に浮かぶ。
 そして、その手紙の最後に綴られていたのは。

「"今、幸せですか?"」

 どれもステイシーを案じる言葉だった。
 ごはんは美味しく食べられていますか?
 困っていることはありませんか?
 一人で抱え込んでいませんか?
 今、笑えていますか?
 手紙の中には、ステイシーを気遣うたくさんの言葉で溢れていて。

「大丈夫、ですよ」

 誰かに思われる幸せを噛み締めるようにステイシーはその手紙を大切に抱きしめる。
 今ステイシーにとって何より大事な家族やエルネア伯爵領が無事なのは、全てヘイリス公爵家からの援助、つまりクラヴィルが契約結婚の義務を果たしてくれているおかげだ。

「うん、元気出た」

 だというのなら。

「私も約束を果たさなくちゃね!」

『付き合いますよ、最後まで』

 クラヴィルを幸せにするのだ、と。
 長期戦の恋物語を堪能するのだ、と。
 そうクラヴィルに約束したのはステイシー自身。
 ならば、ステイシーのやることは変わらない。

「まずは、ヒロインに会いに行ってみますか!」

 この物語がどんな結末を迎えることになっても、読者として最後まで見届ける。
 私は完読派なんだから、とつぶやいてステイシーは今後の方針を決めた。
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