【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
9冊目、愛されない当て馬妻と終着点。
「はぅわぁぁぁあーーっ。なんてことでしょう!」

 想像以上の出来ですわ!! と両頬を押さえたステイシーは歓喜の声を上げ、アイリーに熱のこもった視線を送る。
 身バレ防止、という大義名分を得たステイシーは水を得た魚という言葉がぴったり当てはまるくらいイキイキと、そしてやりたい放題アイリーを飾り立てた。
 その結果。淡い水色のふわりと揺れる髪は、ウィッグを使用し、レッドイエローのミディアムショートに変わり。
 ジト目で睨みつけていた赤みがかったピンク色の目は、化粧とテーピングで大きくぱっちりとした二重に。
 白を基調とした医療系術師の制服をベースに機能性と防御力を残したまま可愛らしい仕様に改造した衣装を纏ったアイリーは、ステイシーの夢と煩悩を詰め込んだ魔法美少女へと変貌を遂げた。

「すごいわ、ステイシー! 全然誰だか分からないんだけど」

 目の大きさから違うんだけど! とステイシーの本気具合に賞賛の言葉を述べたティアリスに、

「ええ! イリーナに無理を言ってルシオン様カラーのウィッグを仕上げてもらったかいがありました」

 どやぁーと胸を張るステイシー。

「初めてお会いしたときから絶対似合うと思って準備しておりましたの!」

 まさかこんなに早く機会が訪れるなんて、とハートを飛ばしまくるステイシーに、もう勝手にしてとばかりにぐったりしているアイリー。

「なんで王女様は男装なのに、私はこんな格好なのよ」

 年齢考えて! というアイリーの訴えは、

「十代なら許されますよ。むしろ二十代でも着て欲しい」

 自信を持って! とステイシーに一蹴される。

「本当はフリルたっぷりのミニスカートが良かったんですけど、今から行くの森なので自重しました」

 どこから取り出したのかわからないミニスカートを残念そうに見せるステイシー。
 ショーパン+ロングブーツもミニスカートと露出度的にはあまり変わらないが、フリルがない分恥ずかしさ度合いで言えば許容範囲。
 それに、ステイシーの用意した衣装の趣味は正直悪くないし、ルシオンの瞳の色に近いウィッグは綺麗だ。
 だけど、と悩ましげな表情を浮かべるアイリーに、

「お気に召しませんか?」

 とステイシーは声をかける。

「可愛い、けど。こんな格好、目立つでしょ。それじゃ私の目が……」

 神聖力を帯びた赤い目。人目に触れるのは避けたいのに、これではどうしても目立ってしまう。
 神聖力を持っていることがバレないように隠れていた意味がなくなってしまうと憂うアイリーに、

「お気に召して頂けてよかったです。では、仕上げといたしましょう」

 ステイシーはパチンと手を叩きにこやかに宣言する。

「こちらを向いて目を開けていてください」

 ステイシーが詠唱し手の平をアイリーにかざす。魔法が発動する時の淡い光が見えたあと、アイリーの視界が一瞬歪む。

「そのままゆっくり瞬きしてみてください」

 ステイシーに言われた通り瞬きをすれば、まるで水の中に落ちた時のような違和感は次の瞬間には跡形もなく消えていた。

「よし、いい感じですね」

「一体、何を?」

 というアイリーの疑問は渡された鏡を覗いた瞬間消える。そこには空色の瞳をした赤髪の少女の姿が写っていた。

「カラコン?」

 思わずこぼれた前世の単語に、

「ですね! コスプレ必需品」

 ステイシーは大きく頷く。コレは前世を思い出した時から考えていた魔術式だった。

「これなら、堂々と表を歩けますよ」

 ステイシーの言葉にアイリーはまじまじと自身の瞳を覗く。
 赤色がかったピンクの瞳。それはこの物語のヒロインにとってとても重要なもので、今のアイリーからすればただの足枷だった。
 神聖力がある人間は貴重で、教会によって保護される。もし、物語通りクラヴィルと出会って結ばれていたなら、公爵家の力で自由を勝ち取りきっと堂々と表を歩けただろう。
 だけど、アイリーが愛したのはクラヴィルではなくて。ニシシ、と子どもみたいに大きな口を開けて笑い、大きな手で頭を撫でてくれる太陽みたいな人で。

「……私だって、分かるかな」

「ルシオン様なら一発で気づくと思いますよ。たとえ、アイリー様がどんな姿をしていたとしたも」

 ステイシーの言葉にアイリーは静かに頷く。
 髪を切ろうが、メガネをかけようが、ルシオンはきっと見つけてくれるだろう。

「いつもお家デートだったの。カラコンがあるなら、自前のカフェ以外でもデートできたのにな」

「これから先、いくらでも行けますよ」

「そうね。早くルシオンを見つけなくちゃ」

 会いたい、とアイリーは鏡を抱きしめる。

「そうですね」

 そんなアイリーを見ながら、早くと焦りそうになる気持ちを落ち着けたステイシーは手を何度も手を開いたり閉じたりしながら魔力の流れを感じ取る。
 魔法を使うこと自体は久しぶりだが、鍛錬自体は続けていたから感覚は鈍っていないようだ。
 よし、と満足げに指先を見たステイシーに、

「ねぇ、ステイシー。カラコンって何?」

 これどうやってるの? と驚いた表情を浮かべたティアリスが尋ねる。

「えーと、カラー……コントロールかな? まぁ、簡単に言えば水魔法と風魔法で微調整して色素を挟んだ膜を瞳の上に載せてるのよ。ほぼ水でできてて体内吸収されちゃうからもって12時間くらいだけど」

 さすがに前世の知識ですと素直にカラコンの説明をするわけにはいかなかったので、ステイシーはありのままタネを明かした。

「すっごーい。水と風の複合魔法ってこんなこともできるのね」

「……姫さん、理論上可能かどうかと実現できるか否かは別の話だよ」

 すごいとはしゃぐティアリスに呆れたような声をでそう言ったナチは、無言でぐしゃぐしゃとステイシーの髪を雑に撫でた。

「さて、準備も整ったことだし。そろそろ行こうか」

 あまり時間もないから、そう言ったナチが手をかざし詠唱する。
 頭上に大きな魔法陣が浮かび目が眩むほどの光が部屋を包んだ。
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