御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
09 契約妻の終わりとそれから
 彼と夜の関係を結んでからも、私たちは変わらずに契約結婚を続けていた。
 契約を破っていることは明らかなはずなのに、彼は何も言わない。元々私が言い出した約束事だから気にしていないのか、それとも彼の気まぐれなのか、不思議なことに結婚生活はうまく回っていた。

「おはよう、千尋」
「……おはようございます。蓮さん……」

 リビングで彼と鉢合い、私はふわっとあくびをひとつしてキッチンへ向かう。
 私はすぐに朝食を用意すると、彼の前に焼いたパンとスクランブルエッグ、電子レンジを使って簡単にできるスープを置いた。

「千尋は食べないのか?」
「はい……。なんだか、あまり食欲がなくて……」

 それどころか、最近は吐き気がする。
 元々、貧血気味なところはあったけれど、ここまで体が怠くなることは稀だ。
 コーヒーだけを飲もうとしてマグカップを手にしたけれど、彼がそっとカップを手で覆った。

「コーヒーはやめたほうがいい。食欲がないなら、特に」
「それもそうですね……」

 空腹の状態でカフェインを飲んだら胃が荒れてしまう。少量であれば問題ないとも思うけれど、彼は私からカップを回収した。

「食欲がないのなら、温めた牛乳はどう?」
「……そうします」
「千尋は座っていい。俺が温めるから」
「でも……」
「あまり顔色もよくないし、無理はしないように」

 そう言って彼がカップに牛乳を注ぎ、レンジで温めた牛乳を持ってきてくれる。
 これなら少し飲めそうだと口をつけた。

「仕事も無理はしないように」
「はい」
「体調が悪くなったらすぐに連絡して。迎えにいくから」
「お袈裟ですよ。ただの貧血だと思います……」

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