毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される

第12章 契約を超えて

治療を始めて3ヶ月が過ぎた。
エリアナは、カイザーの最終検査を行っていた。
野営地のテントで、カイザーが座っている。
エリアナは、カイザーの体を丁寧に診察する。
額に手を当てる。熱はない。
脈を測る。規則正しく、力強い。
リンパ節を触診する。腫れは完全に消えている。
呼吸音を聞く。正常。
エリアナは、前世の知識を総動員して分析する。
細菌感染の痕跡、なし。
炎症反応、なし。
全ての症状が、消えている。
「完治しました」
エリアナは、微笑んだ。
カイザーが、エリアナを見る。
「本当か」
「はい。黒死病は、完全に消失しています」
エリアナの声が、震える。
「もう、大丈夫です」
テントの外で待っていた侍従たちが、その言葉を聞いた。
「本当ですか!」
侍従たちが、テントに入ってくる。
「陛下が、完治された!」
侍従たちの目から、涙が溢れる。
「信じられない……」
「奇跡だ……」
侍従たちが、次々と跪く。
「領主様、ありがとうございます」
「陛下を救っていただき、心より感謝申し上げます」
エリアナは、首を横に振った。
「いいえ、私は当然のことをしただけです」
カイザーが、立ち上がった。
そして、エリアナに近づく。
エリアナを、抱きしめた。
エリアナの体が、固まる。
カイザーの腕が、エリアナを包む。
温かい。強い。
「お前が、俺を生き返らせた」
カイザーの声が、耳元で響く。
「お前がいなければ、俺は死んでいた」
エリアナの心臓が、早鐘を打つ。
カイザーの体温。鼓動。全てが、近い。
「陛下……」
「ありがとう、エリアナ」
カイザーが、エリアナを離した。
エリアナは、顔が熱くなっているのを感じた。
「契約、守ります」
エリアナは、そう言った。
カイザーが、微笑んだ。
「契約以上のものになるかもしれんぞ」
カイザーが、耳元で囁く。
エリアナの心臓が、さらに速く打つ。
侍従たちが、歓声を上げた。
「祝宴を開きましょう!」
「陛下の回復を祝って!」
夜、野営地で祝宴が開かれた。
焚き火が大きく燃え、料理が並べられている。
侍従たちが、笑顔で酒を酌み交わす。
カイザーは、上座に座っている。
エリアナは、その隣に。
村人たちも、招かれていた。
老村長、若い男たち、子供たち。
皆、笑顔で祝福している。
「領主様、おめでとうございます!」
「陛下、お元気になられて!」
エリアナは、温かい気持ちに包まれていた。
祝宴が盛り上がる中、エリアナは少し離れた場所に移動した。
持ってきた薬草を整理するために。
籠の中の薬草を、一つ一つ確認する。
治療で使ったもの。まだ残っているもの。
エリアナが薬草を取り出そうとした時、袖が引っかかった。
袖が、捲れ上がる。
腕が、露わになった。
そこには、古い傷跡。
細く、白く、いくつも刻まれている。
継母に殴られた時の傷。
鞭で打たれた時の傷。
熱い鍋を押し付けられた時の傷。
エリアナは、慌てて袖を下ろそうとした。
「それは、何だ」
低い声が、背後から聞こえた。
エリアナが振り返ると、カイザーが立っていた。
その目は、エリアナの腕を見つめている。
「何でもありません」
エリアナは、袖で腕を隠した。
だが、カイザーが近づいてくる。
「見せろ」
カイザーの声が、低く響く。
「陛下……」
「見せろ、エリアナ」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
エリアナは、ゆっくりと袖を上げた。
腕の傷跡が、月明かりに照らされる。
カイザーが、それを見つめた。
沈黙。
長い沈黙。
「誰が、これを」
カイザーの声が、雷のように低い。
怒り。
激しい怒り。
「誰が、お前にこれをした」
エリアナは、俯いた。
「継母に……」
カイザーの拳が、握りしめられた。
「継母だと」
カイザーの声が、震えている。
「他には」
エリアナは、小さく答えた。
「殴られました。鞭で打たれました。食事を抜かれました。罵倒されました」
エリアナの声が、震える。
「毎日、毎日……」
カイザーが、エリアナの肩を掴んだ。
力強く。
エリアナが、顔を上げる。
カイザーの目には、激情が宿っていた。
怒り。悲しみ。そして、決意。
「もう二度と」
カイザーの声が、低く響く。
「二度と、誰にもお前を傷つけさせない」
カイザーが、エリアナを引き寄せる。
「俺が、絶対に守る」
カイザーの腕が、エリアナを包む。
強く。温かく。
「お前を傷つけた者は、全員許さない」
カイザーの声が、エリアナの耳元で響く。
「俺が、必ず裁く」
エリアナの目から、涙が溢れた。
守られている。
初めて、本当に守られている。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
涙が、止まらない。
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「泣くな。もう、大丈夫だ」
カイザーの声が、優しい。
「俺がいる。お前は、もう一人じゃない」
エリアナは、頷いた。
カイザーの温もりに、包まれながら。
しばらくして、エリアナは顔を上げた。
カイザーが、エリアナの涙を拭った。
「エリアナ」
カイザーが、真剣な目でエリアナを見つめる。
「契約結婚など、もう終わりだ」
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「終わり……?」
「ああ」
カイザーが、頷く。
「俺は、お前を本気で娶る」
エリアナの息が、止まった。
「本気とは……」
「お前だけが、俺の世界だ」
カイザーの声が、低く響く。
「お前の笑顔だけを、守る」
カイザーが、エリアナの額にキスをした。
優しく。温かく。
エリアナの胸が、熱くなる。
これは、何。
この感情は、何。
エリアナは、初めて自覚した。
恋。
恋愛感情。
カイザーを、愛している。
「私も……」
エリアナの声が、震える。
「私も、陛下を……」
カイザーが、微笑んだ。
「カイザーと呼べ」
「カイザー……」
エリアナが、囁く。
「私も、貴方を愛しています」
カイザーの目が、見開かれた。
そして、口角が上がる。
「やっと、言ったな」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
強く。
エリアナも、カイザーを抱きしめた。
二人は、抱擁したまま、しばらく動かなかった。
月明かりが、二人を照らしている。
焚き火の音が、遠くで聞こえる。
幸福。
これが、幸福。
エリアナは、そう感じた。

翌朝、カイザーは村の広場に立っていた。
村人たちが、全員集まっている。
侍従たちも、整列している。
エリアナは、カイザーの隣に立っていた。
カイザーが、口を開いた。
「本日、ここに宣言する」
カイザーの声が、広場に響く。
「エリアナを、俺の皇妃とする」
村人たちが、息を呑んだ。
「これは、契約ではない。俺の意思だ」
カイザーが、エリアナの手を取る。
「エリアナは、俺の伴侶だ。誰もこれを否定することは許さない」
村人たちが、歓声を上げた。
「おめでとうございます!」
「領主様、皇妃様に!」
子供たちが、花を投げる。
老村長が、涙を流している。
侍従たちが、跪く。
「陛下、おめでとうございます」
「皇妃陛下、おめでとうございます」
エリアナは、涙が溢れそうになった。
だが、堪えた。
笑顔で、村人たちに手を振る。
銀狼が、遠吠えをした。
祝福の遠吠え。
空に、響き渡る。
カイザーが、エリアナを見た。
「やっと、お前の居場所ができたな」
エリアナは、頷いた。
「はい」
涙が、頬を伝う。
「やっと……私の居場所が」
カイザーが、エリアナの手を握る。
「これからは、俺たちの未来だ」
カイザーの声が、温かい。
「お前と俺で、新しい未来を築く」
エリアナは、カイザーを見つめた。
「はい。一緒に」
二人は、手を繋いだまま、村人たちに手を振った。
歓声が、広場に響く。
花が、舞う。
祝福の言葉が、次々と飛び交う。
エリアナの心は、幸福に満たされていた。
もう、孤独ではない。
もう、虐げられることもない。
カイザーがいる。
村人たちがいる。
居場所がある。
エリアナは、深く息を吸った。
新しい人生。
本当の人生。
これから、始まる。
そして、エリアナには使命がある。
継母を裁く。
父の死の真相を暴く。
正義を示す。
カイザーが、それを助けてくれる。
エリアナは、拳を握りしめた。
内心で、誓う。
必ず、真実を暴く。
必ず、継母を裁く。
そして、自分の人生を、完全に取り戻す。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「どうした」
「何でもありません」
エリアナは、微笑んだ。
「ただ、幸せだと思って」
カイザーが、微笑む。
「これからも、ずっと幸せにしてやる」
エリアナは、カイザーに寄り添った。
温もり。
安心。
愛。
全てが、ここにある。
祝宴は、夜まで続いた。
村人たちが、歌い、踊り、笑う。
エリアナとカイザーは、その中心にいた。
手を繋ぎ、微笑み合い、幸福を分かち合う。
星が、空に輝いている。
月が、二人を照らしている。
新しい未来が、始まろうとしていた。
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