毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される
第14章 再会と憎悪
舞踏会が、佳境に入った頃。
エリアナは、カイザーの隣でワインを飲んでいた。
その時、背後から声が聞こえた。
「まあ、エリアナ?」
甲高い声。
エリアナの体が、固まった。
この声は。
エリアナが振り返ると、そこには継母マルグリットとイザベラが立っていた。
継母は、豪華な紫のドレスを纏っている。宝石を身につけ、化粧は完璧。
イザベラは、ピンクのドレス。金色の巻き毛を優雅に結い上げている。
二人とも、冷たい笑みを浮かべていた。
「辺境の野良犬が、随分と着飾っているわね」
継母の声が、嘲笑に満ちている。
「まさか、皇妃になるとは。世も末ね」
イザベラが、クスクスと笑う。
「皇帝陛下も、物好きなのね」
エリアナの拳が、握りしめられた。
だが、表情は変えない。
冷静に。
エリアナは、優雅に微笑んだ。
「お母様、お元気そうで何よりです」
エリアナの声は、穏やかだった。
「イザベラも、王太子妃として順調かしら」
継母の笑みが、一瞬凍りついた。
イザベラの顔が、歪む。
「貴女に心配される筋合いはないわ」
イザベラが、鋭く言う。
「私は、王太子殿下に愛されているもの」
エリアナは、微笑みを保った。
「それは良かったですわ」
その時、背後から冷たい声が響いた。
「我が婚約者を侮辱する者は、許さん」
カイザーだった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
その目は、氷のように冷たい。
継母とイザベラが、顔色を失った。
「陛下……」
継母が、慌てて頭を下げる。
「失礼いたしました。冗談のつもりで」
「冗談?」
カイザーの声が、低く響く。
「俺には、侮辱にしか聞こえなかったが」
カイザーの周囲に、冷気が漂う。
周りの貴族たちが、息を呑む。
継母が、震えている。
イザベラは、青ざめている。
「もう一度、エリアナを侮辱してみろ」
カイザーが、一歩前に出る。
「その時は、お前たちの家を潰す」
継母が、顔を上げた。
その目には、恐怖。
「申し訳ございません、陛下」
継母が、深く頭を下げる。
イザベラも、慌てて頭を下げた。
カイザーは、冷たく見下ろした。
「消えろ」
継母とイザベラは、慌てて去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「大丈夫か」
エリアナは、頷いた。
「はい。ありがとうございます」
カイザーが、エリアナの額にキスをした。
「お前を傷つける者は、誰であろうと許さない」
エリアナの胸が、温かくなった。
だが、同時に決意も固まった。
継母を、必ず裁く。
翌日、エリアナは密かに動き始めた。
旧侯爵家の使用人に、接触する。
父が生きていた頃、仕えていた人々。
エリアナは、王都の下町を歩いた。
質素な服を着て、フードで顔を隠している。
古い建物の前で、エリアナは立ち止まった。
扉を叩く。
しばらくして、扉が開いた。
老メイド、マリア。
エリアナが幼い頃から仕えてくれた、唯一親切だった使用人。
マリアは、エリアナを見て目を見開いた。
「お嬢様……!」
「マリア、久しぶりです」
エリアナは、微笑んだ。
マリアは、慌ててエリアナを中に招いた。
小さな部屋。質素な家具。
二人は、テーブルを挟んで座った。
「お嬢様、本当に皇妃様になられたのですね」
マリアの目から、涙が溢れる。
「嬉しいです。本当に」
エリアナは、マリアの手を握った。
「マリア、お願いがあります」
マリアが、真剣な顔になった。
「何でしょうか」
「父の死について、何か知っていることがあれば教えてください」
マリアの顔が、曇った。
「やはり……お嬢様も気づいておられたのですね」
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「何か、知っているのですか」
マリアは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「お嬢様、実は……」
マリアの声が、震える。
「侯爵様が亡くなる数日前、夫人が医師と密談しているのを見ました」
エリアナは、息を呑んだ。
「医師と?」
「はい。夫人が、医師に大金を渡していました。そして、『診断書を偽造しろ』と」
エリアナの拳が、握りしめられた。
「診断書を……」
「侯爵様の死因を、心不全としろと。本当の原因を隠せと」
マリアの目から、涙が流れる。
「私は、怖くて何も言えませんでした。ごめんなさい、お嬢様」
エリアナは、マリアの手を握りしめた。
「いいえ、マリア。貴女は悪くありません」
エリアナは、深く息を吸った。
「他に、何か知っていることはありますか」
マリアは、頷いた。
「夫人が、怪しげな男と何度も会っていました。黒いローブを着た男です」
エリアナは、記憶を辿った。
あの夜、見た密談。
黒いローブの男。
「その男は、誰ですか」
「わかりません。ですが、薬を売る商人だと聞きました」
毒を売る商人。
エリアナは、全てが繋がっていくのを感じた。
「マリア、この話を証言してくれますか」
マリアは、真剣な目でエリアナを見つめた。
「はい。お嬢様のためなら」
エリアナは、マリアを抱きしめた。
「ありがとうございます」
エリアナは、マリアの家を後にした。
フードを深く被り、王宮へ戻る。
自室で、エリアナはノートに全てを記録した。
継母の医師買収。
偽の診断書。
黒いローブの男。
全ての証拠を、集める。
「必ず、正義を」
エリアナは、呟いた。
「お父様、必ず」
数日後、再び舞踏会が開かれた。
エリアナは、カイザーと共に出席していた。
音楽が流れ、貴族たちが踊っている。
エリアナが、テラスで休んでいると、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
低い声。
エリアナが振り返ると、王太子アレクが立っていた。
金色の髪、端正な顔立ち。だが、その目には疲れが見える。
「アレク様」
エリアナは、冷静に答えた。
アレクが、一歩近づく。
「君と、話がしたい」
「何でしょうか」
エリアナの声は、冷たかった。
アレクは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「君を手放したのは、間違いだった」
エリアナの目が、見開かれた。
「今更、そんなことを」
「わかっている。今更だ」
アレクの声が、苦しげだった。
「だが、後悔している。君は、誰よりも素晴らしい女性だった」
エリアナは、首を横に振った。
「もう遅いです」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「私には、陛下がいます」
アレクの顔が、苦痛に歪んだ。
「そうか……」
アレクは、肩を落とした。
「君が幸せなら、それでいい」
アレクは、そう言い残して去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
同情は、ない。
あの時、エリアナを捨てたのはアレクだ。
今更、後悔されても。
「あの男に、未練はあるか」
背後から、カイザーの声。
エリアナが振り返ると、カイザーが立っていた。
その目には、嫉妬の色。
エリアナは、微笑んだ。
「ありません」
エリアナは、カイザーに抱きついた。
「貴方だけです」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「そうか」
カイザーの声が、安堵に満ちている。
「お前は、俺のものだ」
エリアナは、頷いた。
「はい。貴方のものです」
二人は、抱き合ったまま、しばらく動かなかった。
数週間後、エリアナはカイザーに提案した。
「薬を、販売したいのです」
カイザーが、エリアナを見る。
「薬を?」
「はい。貴族向けに、美容と健康の薬を」
エリアナは、ノートを見せた。
「若返りの効果がある薬草を調合しました。これを販売すれば、多くの人が喜ぶと思います」
カイザーは、ノートを見た。
そして、笑った。
「商売をするのか」
「はい。おかしいですか」
「いや」
カイザーが、首を横に振る。
「面白い。やってみろ」
カイザーが、エリアナの頭を撫でる。
「お前が望むなら、何でも支援する」
エリアナは、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
エリアナは、薬草園で薬を調合し始めた。
若返りの薬。
肌を美しくする薬。
髪を艶やかにする薬。
全て、前世の知識に基づいて。
数週間後、エリアナは貴族向けに薬の販売を始めた。
宮殿の一室を使い、貴族婦人たちを招く。
部屋には、美しく装飾された瓶が並んでいる。
貴族婦人たちが、次々と訪れた。
「これが、噂の薬ですか」
一人の婦人が、瓶を手に取る。
「はい。肌を美しくする効果があります」
エリアナが、優雅に説明する。
婦人が、試してみる。
数日後、婦人が再び訪れた。
「素晴らしいわ! 肌が、本当に綺麗になったわ!」
婦人の興奮した声。
噂は、すぐに広まった。
貴族婦人たちが、次々とエリアナの薬を求めてくる。
ある日、エリアナの部屋に数人の令嬢が訪れた。
以前、舞踏会でエリアナを嘲笑していた令嬢たち。
「元は追放された令嬢」と囁いていた者たち。
令嬢たちは、深く頭を下げた。
「皇妃陛下、お願いします」
一人の令嬢が、懇願する声。
「その薬を、私たちにも分けていただけませんか」
エリアナは、内心で微笑んだ。
ざまぁ。
以前は嘲笑していたのに、今は頭を下げている。
だが、エリアナは表情には出さない。
優雅に、微笑む。
「もちろんです。皆様に、お分けいたします」
令嬢たちが、安堵の表情。
「ありがとうございます、皇妃陛下」
「本当に、お優しい方ですわ」
令嬢たちは、薬を受け取り、満足そうに去っていった。
エリアナは、一人部屋に残された。
窓の外を見る。
王都の街並み。
エリアナは、小さく笑った。
人は、権力に群がる。
以前は見下していた者に、今は頭を下げる。
それが、現実。
だが、エリアナはそれを利用する。
薬の販売で得た人脈。
それを、継母を裁くために使う。
全ては、計画通り。
エリアナは、ノートを開いた。
証拠のリスト。
マリアの証言。
医師の買収の記録。
黒いローブの男の情報。
まだ、足りない。
もっと証拠が必要。
だが、少しずつ集まっている。
「もう少し」
エリアナは、呟いた。
「もう少しで、全てが揃う」
カイザーが、部屋に入ってきた。
「エリアナ、何をしている」
エリアナは、ノートを閉じた。
「薬の記録を、つけていました」
カイザーが、エリアナの隣に座る。
「薬の販売は、順調か」
「はい。貴族婦人たちに、大好評です」
カイザーが、微笑む。
「さすがだな」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前は、何でもできる」
エリアナは、カイザーに寄り添った。
「貴方のおかげです」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「俺は、ただお前を支えているだけだ」
エリアナは、カイザーを見上げた。
「それが、何よりも嬉しいのです」
カイザーが、エリアナにキスをした。
優しく。深く。
エリアナは、目を閉じた。
幸福。
だが、同時に決意も固い。
継母を裁く。
父の無念を晴らす。
そして、自分の人生を、完全に取り戻す。
カイザーが、そばにいてくれる。
それがあれば、何でもできる。
エリアナは、そう信じていた。
夜が、深くなっていく。
二人は、抱き合ったまま、静かな時を過ごした。
窓の外には、星が輝いている。
新しい未来が、そこにある。
エリアナは、前だけを見つめた。
エリアナは、カイザーの隣でワインを飲んでいた。
その時、背後から声が聞こえた。
「まあ、エリアナ?」
甲高い声。
エリアナの体が、固まった。
この声は。
エリアナが振り返ると、そこには継母マルグリットとイザベラが立っていた。
継母は、豪華な紫のドレスを纏っている。宝石を身につけ、化粧は完璧。
イザベラは、ピンクのドレス。金色の巻き毛を優雅に結い上げている。
二人とも、冷たい笑みを浮かべていた。
「辺境の野良犬が、随分と着飾っているわね」
継母の声が、嘲笑に満ちている。
「まさか、皇妃になるとは。世も末ね」
イザベラが、クスクスと笑う。
「皇帝陛下も、物好きなのね」
エリアナの拳が、握りしめられた。
だが、表情は変えない。
冷静に。
エリアナは、優雅に微笑んだ。
「お母様、お元気そうで何よりです」
エリアナの声は、穏やかだった。
「イザベラも、王太子妃として順調かしら」
継母の笑みが、一瞬凍りついた。
イザベラの顔が、歪む。
「貴女に心配される筋合いはないわ」
イザベラが、鋭く言う。
「私は、王太子殿下に愛されているもの」
エリアナは、微笑みを保った。
「それは良かったですわ」
その時、背後から冷たい声が響いた。
「我が婚約者を侮辱する者は、許さん」
カイザーだった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
その目は、氷のように冷たい。
継母とイザベラが、顔色を失った。
「陛下……」
継母が、慌てて頭を下げる。
「失礼いたしました。冗談のつもりで」
「冗談?」
カイザーの声が、低く響く。
「俺には、侮辱にしか聞こえなかったが」
カイザーの周囲に、冷気が漂う。
周りの貴族たちが、息を呑む。
継母が、震えている。
イザベラは、青ざめている。
「もう一度、エリアナを侮辱してみろ」
カイザーが、一歩前に出る。
「その時は、お前たちの家を潰す」
継母が、顔を上げた。
その目には、恐怖。
「申し訳ございません、陛下」
継母が、深く頭を下げる。
イザベラも、慌てて頭を下げた。
カイザーは、冷たく見下ろした。
「消えろ」
継母とイザベラは、慌てて去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「大丈夫か」
エリアナは、頷いた。
「はい。ありがとうございます」
カイザーが、エリアナの額にキスをした。
「お前を傷つける者は、誰であろうと許さない」
エリアナの胸が、温かくなった。
だが、同時に決意も固まった。
継母を、必ず裁く。
翌日、エリアナは密かに動き始めた。
旧侯爵家の使用人に、接触する。
父が生きていた頃、仕えていた人々。
エリアナは、王都の下町を歩いた。
質素な服を着て、フードで顔を隠している。
古い建物の前で、エリアナは立ち止まった。
扉を叩く。
しばらくして、扉が開いた。
老メイド、マリア。
エリアナが幼い頃から仕えてくれた、唯一親切だった使用人。
マリアは、エリアナを見て目を見開いた。
「お嬢様……!」
「マリア、久しぶりです」
エリアナは、微笑んだ。
マリアは、慌ててエリアナを中に招いた。
小さな部屋。質素な家具。
二人は、テーブルを挟んで座った。
「お嬢様、本当に皇妃様になられたのですね」
マリアの目から、涙が溢れる。
「嬉しいです。本当に」
エリアナは、マリアの手を握った。
「マリア、お願いがあります」
マリアが、真剣な顔になった。
「何でしょうか」
「父の死について、何か知っていることがあれば教えてください」
マリアの顔が、曇った。
「やはり……お嬢様も気づいておられたのですね」
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「何か、知っているのですか」
マリアは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「お嬢様、実は……」
マリアの声が、震える。
「侯爵様が亡くなる数日前、夫人が医師と密談しているのを見ました」
エリアナは、息を呑んだ。
「医師と?」
「はい。夫人が、医師に大金を渡していました。そして、『診断書を偽造しろ』と」
エリアナの拳が、握りしめられた。
「診断書を……」
「侯爵様の死因を、心不全としろと。本当の原因を隠せと」
マリアの目から、涙が流れる。
「私は、怖くて何も言えませんでした。ごめんなさい、お嬢様」
エリアナは、マリアの手を握りしめた。
「いいえ、マリア。貴女は悪くありません」
エリアナは、深く息を吸った。
「他に、何か知っていることはありますか」
マリアは、頷いた。
「夫人が、怪しげな男と何度も会っていました。黒いローブを着た男です」
エリアナは、記憶を辿った。
あの夜、見た密談。
黒いローブの男。
「その男は、誰ですか」
「わかりません。ですが、薬を売る商人だと聞きました」
毒を売る商人。
エリアナは、全てが繋がっていくのを感じた。
「マリア、この話を証言してくれますか」
マリアは、真剣な目でエリアナを見つめた。
「はい。お嬢様のためなら」
エリアナは、マリアを抱きしめた。
「ありがとうございます」
エリアナは、マリアの家を後にした。
フードを深く被り、王宮へ戻る。
自室で、エリアナはノートに全てを記録した。
継母の医師買収。
偽の診断書。
黒いローブの男。
全ての証拠を、集める。
「必ず、正義を」
エリアナは、呟いた。
「お父様、必ず」
数日後、再び舞踏会が開かれた。
エリアナは、カイザーと共に出席していた。
音楽が流れ、貴族たちが踊っている。
エリアナが、テラスで休んでいると、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
低い声。
エリアナが振り返ると、王太子アレクが立っていた。
金色の髪、端正な顔立ち。だが、その目には疲れが見える。
「アレク様」
エリアナは、冷静に答えた。
アレクが、一歩近づく。
「君と、話がしたい」
「何でしょうか」
エリアナの声は、冷たかった。
アレクは、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「君を手放したのは、間違いだった」
エリアナの目が、見開かれた。
「今更、そんなことを」
「わかっている。今更だ」
アレクの声が、苦しげだった。
「だが、後悔している。君は、誰よりも素晴らしい女性だった」
エリアナは、首を横に振った。
「もう遅いです」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「私には、陛下がいます」
アレクの顔が、苦痛に歪んだ。
「そうか……」
アレクは、肩を落とした。
「君が幸せなら、それでいい」
アレクは、そう言い残して去っていった。
エリアナは、その背中を見送った。
同情は、ない。
あの時、エリアナを捨てたのはアレクだ。
今更、後悔されても。
「あの男に、未練はあるか」
背後から、カイザーの声。
エリアナが振り返ると、カイザーが立っていた。
その目には、嫉妬の色。
エリアナは、微笑んだ。
「ありません」
エリアナは、カイザーに抱きついた。
「貴方だけです」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「そうか」
カイザーの声が、安堵に満ちている。
「お前は、俺のものだ」
エリアナは、頷いた。
「はい。貴方のものです」
二人は、抱き合ったまま、しばらく動かなかった。
数週間後、エリアナはカイザーに提案した。
「薬を、販売したいのです」
カイザーが、エリアナを見る。
「薬を?」
「はい。貴族向けに、美容と健康の薬を」
エリアナは、ノートを見せた。
「若返りの効果がある薬草を調合しました。これを販売すれば、多くの人が喜ぶと思います」
カイザーは、ノートを見た。
そして、笑った。
「商売をするのか」
「はい。おかしいですか」
「いや」
カイザーが、首を横に振る。
「面白い。やってみろ」
カイザーが、エリアナの頭を撫でる。
「お前が望むなら、何でも支援する」
エリアナは、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
エリアナは、薬草園で薬を調合し始めた。
若返りの薬。
肌を美しくする薬。
髪を艶やかにする薬。
全て、前世の知識に基づいて。
数週間後、エリアナは貴族向けに薬の販売を始めた。
宮殿の一室を使い、貴族婦人たちを招く。
部屋には、美しく装飾された瓶が並んでいる。
貴族婦人たちが、次々と訪れた。
「これが、噂の薬ですか」
一人の婦人が、瓶を手に取る。
「はい。肌を美しくする効果があります」
エリアナが、優雅に説明する。
婦人が、試してみる。
数日後、婦人が再び訪れた。
「素晴らしいわ! 肌が、本当に綺麗になったわ!」
婦人の興奮した声。
噂は、すぐに広まった。
貴族婦人たちが、次々とエリアナの薬を求めてくる。
ある日、エリアナの部屋に数人の令嬢が訪れた。
以前、舞踏会でエリアナを嘲笑していた令嬢たち。
「元は追放された令嬢」と囁いていた者たち。
令嬢たちは、深く頭を下げた。
「皇妃陛下、お願いします」
一人の令嬢が、懇願する声。
「その薬を、私たちにも分けていただけませんか」
エリアナは、内心で微笑んだ。
ざまぁ。
以前は嘲笑していたのに、今は頭を下げている。
だが、エリアナは表情には出さない。
優雅に、微笑む。
「もちろんです。皆様に、お分けいたします」
令嬢たちが、安堵の表情。
「ありがとうございます、皇妃陛下」
「本当に、お優しい方ですわ」
令嬢たちは、薬を受け取り、満足そうに去っていった。
エリアナは、一人部屋に残された。
窓の外を見る。
王都の街並み。
エリアナは、小さく笑った。
人は、権力に群がる。
以前は見下していた者に、今は頭を下げる。
それが、現実。
だが、エリアナはそれを利用する。
薬の販売で得た人脈。
それを、継母を裁くために使う。
全ては、計画通り。
エリアナは、ノートを開いた。
証拠のリスト。
マリアの証言。
医師の買収の記録。
黒いローブの男の情報。
まだ、足りない。
もっと証拠が必要。
だが、少しずつ集まっている。
「もう少し」
エリアナは、呟いた。
「もう少しで、全てが揃う」
カイザーが、部屋に入ってきた。
「エリアナ、何をしている」
エリアナは、ノートを閉じた。
「薬の記録を、つけていました」
カイザーが、エリアナの隣に座る。
「薬の販売は、順調か」
「はい。貴族婦人たちに、大好評です」
カイザーが、微笑む。
「さすがだな」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前は、何でもできる」
エリアナは、カイザーに寄り添った。
「貴方のおかげです」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「俺は、ただお前を支えているだけだ」
エリアナは、カイザーを見上げた。
「それが、何よりも嬉しいのです」
カイザーが、エリアナにキスをした。
優しく。深く。
エリアナは、目を閉じた。
幸福。
だが、同時に決意も固い。
継母を裁く。
父の無念を晴らす。
そして、自分の人生を、完全に取り戻す。
カイザーが、そばにいてくれる。
それがあれば、何でもできる。
エリアナは、そう信じていた。
夜が、深くなっていく。
二人は、抱き合ったまま、静かな時を過ごした。
窓の外には、星が輝いている。
新しい未来が、そこにある。
エリアナは、前だけを見つめた。