毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される

第18章 父からの贈り物

数日後、再び議会が招集された。
エリアナとカイザーは、議会の大広間に立っていた。
議員たちが、円形に配置された席に座っている。
議長が、立ち上がった。
「本日、調査結果を発表する」
議長の声が、広間に響く。
「しかし、調査は難航している。エリアナ皇妃に関する疑惑は、晴れていない」
エリアナの心臓が、早鐘を打った。
議長が、書類を読み上げる。
「よって、議会は決定する」
議長の声が、冷たい。
「調査が完了するまで、エリアナ皇妃を一時的に地下牢に幽閉する」
広間が、静まり返った。
カイザーが、立ち上がった。
「ふざけるな!」
カイザーの声が、雷のように響いた。
「エリアナは、何もしていない!」
議長が、カイザーを見た。
「陛下、これは議会の決定です」
「議会など、知るか!」
カイザーが、剣を抜こうとする。
だが、エリアナがカイザーの腕を握った。
「カイザー、大丈夫です」
エリアナの声が、静かに響く。
カイザーが、エリアナを見た。
その目には、怒りと無念。
「エリアナ……」
「真実は、必ず明らかになります」
エリアナが、微笑んだ。
「私を、信じてください」
カイザーは、歯を食いしばった。
議長が、護衛に命じた。
「エリアナ皇妃を、地下牢へ」
護衛たちが、エリアナに近づく。
エリアナは、抵抗しなかった。
静かに、護衛に従う。
カイザーが、エリアナの手を握った。
「必ず、助け出す」
カイザーの声が、震えている。
「待っていろ」
エリアナは、頷いた。
「はい」
護衛たちが、エリアナを連れて行く。
カイザーは、その背中を見送った。
拳を、強く握りしめている。

地下牢への階段。
暗く、冷たい。
松明の光だけが、壁を照らしている。
エリアナは、護衛に導かれて降りていく。
心臓が、早鐘を打つ。
恐怖。
初めて感じる、深い恐怖。
地下牢に到着した。
鉄格子の牢。
冷たい石の床。
窓はなく、光もない。
護衛が、牢の扉を開けた。
「入れ」
エリアナは、牢の中に入った。
扉が、閉まる。
鍵がかかる音。
護衛たちの足音が、遠ざかっていく。
静寂。
暗闇。
エリアナは、床に座り込んだ。
冷たい。
湿っている。
壁に背を預け、膝を抱える。
「こんな終わり方は……嫌だ」
エリアナの声が、暗闇に消える。
涙が、頬を伝った。
初めて、本当に、絶望を感じた。
継母に勝てないのか。
このまま、終わるのか。
エリアナは、目を閉じた。
時間が、ゆっくりと過ぎていく。
どれくらい経ったのか、わからない。
暗闇の中で、時間の感覚が失われていく。
その時、小さな音が聞こえた。
カリカリという音。
エリアナが、目を開ける。
牢の格子の隙間。
そこから、何かが入ってくる。
銀色の毛。
銀狼だった。
「銀狼……!」
エリアナが、駆け寄る。
銀狼が、格子の隙間から這い入ってくる。
体を小さくして、どうにか入り込む。
エリアナは、銀狼を抱きしめた。
「どうやって……」
銀狼が、何かを咥えている。
古い革張りの本。
エリアナが、それを受け取る。
「これは……」
日記帳。
父の日記帳。
だが、エリアナが知っているものとは違う。
もっと古く、隠されていたような。
「どこから持ってきたの?」
銀狼が、小さく鳴いた。
そして、床に何かを書くような仕草。
森。
隠し場所。
エリアナは、理解した。
父が、生前隠していた日記。
銀狼が、それを見つけてきたのだ。
エリアナは、日記を開いた。
松明の微かな光で、文字を読む。
父の几帳面な筆跡。
日付は、父が亡くなる数ヶ月前。
「マルグリットが、怪しい動きをしている」
エリアナの息が、止まった。
「彼女は、黒いローブの男と何度も会っている。毒を購入しているようだ」
ページをめくる。
「私は、彼女に狙われているかもしれない。この日記を、森の古い木の根元に隠す。もし何かあれば、エリアナが見つけてくれるだろう」
エリアナの目から、涙が溢れた。
「証拠は、この日記だ。医師も買収されている。診断書は偽造だろう」
「エリアナ、もし私が突然死んだら、これを信じてほしい。マルグリットが、私を殺したのだ」
エリアナは、日記を胸に抱きしめた。
「お父様……」
涙が、止まらない。
「ありがとう。ありがとうございます」
銀狼が、エリアナの隣に座った。
エリアナは、銀狼を抱きしめた。
「ありがとう。本当に」
銀狼が、小さく鳴いた。
エリアナは、日記を見つめた。
これが、証拠。
父の死の真相を示す、決定的な証拠。
「もう、逃がさない」
エリアナの目に、強い光が宿った。
「継母、必ず裁く」
夜が、明けた。
地下牢の上では、騒ぎが起きていた。
カイザーが、全軍を率いて王宮に現れたのだ。
「陛下、何を!」
大臣たちが、慌てる。
「法など、知るか」
カイザーの声が、冷たい。
「エリアナを、返せ」
カイザーが、地下牢への階段を降りていく。
護衛たちが、剣を抜く。
「陛下、お止めください!」
だが、カイザーは止まらない。
護衛の一人を蹴散らし、階段を降りる。
カイザーの後ろには、忠実な騎士たちが続いている。
地下牢に到着した。
「エリアナ!」
カイザーの声が、牢に響く。
「カイザー……!」
エリアナの声が、返ってくる。
カイザーが、牢の扉を見た。
鉄の扉。頑丈な鍵。
カイザーは、剣を抜いた。
「下がれ!」
カイザーが、剣を振り下ろす。
扉が、破壊される。
鉄が、砕け散る。
カイザーが、牢の中に入った。
エリアナが、立っている。
カイザーは、エリアナを抱きしめた。
強く。
「もう二度と、離さない」
カイザーの声が、震えている。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「カイザー……」
涙が、止まらない。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「謝るな」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「お前は、何も悪くない」
カイザーが、エリアナの顔を見た。
「お前に手を出した者は、全員許さない」
カイザーの目に、激しい怒り。
「継母を、今すぐ逮捕する」
エリアナは、頷いた。
「証拠があります」
エリアナが、日記を見せた。
「父の日記です。継母の犯行が、全て記されています」
カイザーが、日記を受け取った。
ページをめくる。
その目が、見開かれた。
「これは……」
「父が、隠していたものです」
エリアナが、説明する。
「銀狼が、見つけてきてくれました」
カイザーは、日記を見つめた。
そして、顔を上げた。
「行くぞ」
カイザーが、エリアナの手を取った。
二人は、地下牢を出た。
銀狼が、その後をついてくる。
階段を上り、王宮へ。
大臣たちが、待ち構えている。
「陛下、これは法を無視した行為です!」
だが、カイザーは動じない。
「俺が法だ」
カイザーの声が、冷たく響く。
「今すぐ、マルグリットを逮捕しろ」
大臣たちが、顔を見合わせる。
「しかし……」
「これを見ろ」
カイザーが、日記を掲げた。
「先代侯爵の日記だ。マルグリットの犯行が、全て記されている」
大臣たちが、ざわめく。
「本当ですか」
「ああ」
カイザーが、頷く。
「今すぐ、逮捕しろ。皇帝の命令だ」
大臣たちは、頭を下げた。
「承知しました」
護衛たちが、走っていく。
継母の屋敷へ。
数時間後、継母マルグリットが連行されてきた。
豪華なドレスを着たまま、両腕を護衛に掴まれている。
その顔は、蒼白だった。
「これは、何の冗談ですか!」
継母が、叫ぶ。
「私を逮捕するなど!」
カイザーが、継母の前に立った。
「マルグリット、お前は先代侯爵を毒殺した」
カイザーの声が、冷たい。
「証拠は、これだ」
カイザーが、日記を見せた。
継母の顔が、さらに青ざめた。
「そんな……馬鹿な……」
「お前の犯行は、全て記されている」
カイザーが、日記を読み上げる。
「マルグリットが毒を購入。医師を買収。診断書を偽造」
継母が、後ずさる。
「違う……それは……」
「もう、逃げられない」
エリアナが、前に出た。
「お母様、全て終わりです」
継母が、エリアナを睨んだ。
憎しみに満ちた目。
「お前……お前が……!」
だが、もう遅い。
護衛たちが、継母を連行していく。
「放しなさい! 私は侯爵夫人よ!」
継母の叫び声が、廊下に響く。
だが、誰も耳を貸さない。
そして、イザベラも連行されてきた。
イザベラは、泣いていた。
「私は何もしていません!」
イザベラが、叫ぶ。
「全て、母の指示です!」
カイザーが、冷たく言った。
「共犯の疑いで、拘束する」
イザベラが、エリアナを見た。
「お姉様、助けて!」
だが、エリアナは動かない。
静かに、イザベラを見つめるだけ。
イザベラも、連行されていく。
泣き叫びながら。
王太子アレクが、その場に立っていた。
顔は青ざめ、震えている。
「妻が……逮捕……」
アレクの声が、掠れている。
カイザーが、アレクを見た。
「お前の妻は、エリアナを毒殺しようとした」
カイザーの声が、冷たい。
「継母との共犯だ」
アレクは、何も言えなかった。
ただ、その場に立ち尽くすだけ。
エリアナは、全てを見ていた。
継母の逮捕。
イザベラの拘束。
アレクの絶望。
全てが、終わった。
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「よく頑張った」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、カイザーの腕の中で泣いた。
安堵の涙。
長い戦いが、終わった。
「お父様……」
エリアナは、呟いた。
「やっと、真実を明らかにできました」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「お前は、強い」
カイザーの声が、誇らしげだった。
「誰よりも、強い」
エリアナは、頷いた。
銀狼が、二人の隣に座っている。
まるで、全てを見守っているかのように。

窓の外には、朝日が昇っている。
新しい一日。
新しい人生。
エリアナは、空を見上げた。
「ありがとう、お父様」
エリアナの声が、静かに響いた。
「これから、私は自分の人生を生きます」
カイザーが、エリアナの手を握った。
「俺も、一緒だ」
二人は、手を繋いだまま、窓の外を見つめた。
戦いは、終わった。
そして、本当の人生が、始まろうとしていた。
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