毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される

第19章 癒えぬ傷

継母が逮捕されてから、数日が過ぎた。
エリアナは、王宮の自室で過ごしていた。
豪華な部屋。柔らかいベッド。温かい暖炉。
全てが揃っている。
だが、エリアナの心は休まらなかった。
夜、エリアナはベッドで眠ろうとした。
目を閉じる。
だが、すぐに悪夢が襲ってくる。
暗い地下牢。
冷たい床。
鉄格子の音。
「こんな終わり方は嫌だ」
自分の声が、暗闇に響く。
エリアナは、目を覚ました。
汗が、額を覆っている。
呼吸が、荒い。
「……夢」
エリアナは、呟いた。
ただの夢。
だが、心臓が激しく鼓動している。
恐怖が、まだ残っている。
エリアナは、ベッドから起き上がった。
窓の外を見る。
月明かりが、王都を照らしている。
静かな夜。
だが、エリアナの心は騒がしかった。
扉が、開いた。
カイザーが、入ってくる。
「エリアナ、また悪夢か」
カイザーの声が、心配そうだった。
エリアナは、頷いた。
「はい……」
カイザーが、エリアナの隣に座った。
エリアナを、抱きしめる。
「もう大丈夫だ」
カイザーの声が、優しい。
「継母は逮捕された。お前を傷つける者は、もういない」
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「でも……怖いのです」
エリアナの声が、震える。
「あの暗闇が、まだ頭から離れません」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「時間が、癒してくれる」
だが、エリアナは首を横に振った。
「私は……呪われているのではないでしょうか」
エリアナの声が、小さくなる。
カイザーが、エリアナの顔を見た。
「呪われている?」
「はい」
エリアナが、涙を流す。
「父も、私も、不幸になりました」
エリアナの声が、震える。
「父は毒殺され、私は虐げられ、追放され、地下牢に入れられました」
エリアナが、カイザーを見上げる。
「もしかしたら、私が悪いのかもしれません」
「違う」
カイザーが、きっぱりと言った。
「お前は、何も悪くない」
カイザーが、エリアナの涙を拭う。
「お前は、ただ運が悪かっただけだ」
だが、エリアナは首を横に振った。
「でも……」
「いいか、エリアナ」
カイザーが、エリアナの肩を掴んだ。
「お前は、強い。誰よりも強い」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
「だから、生き延びた。だから、戦えた」
エリアナは、カイザーを見つめた。
その目には、涙。
「本当に……そうでしょうか」
「ああ」
カイザーが、頷く。
「俺が、保証する」
カイザーが、エリアナを再び抱きしめた。
「お前は、呪われていない。祝福されているんだ」
エリアナは、カイザーの温もりに身を委ねた。
少しだけ心が、落ち着いていく。
だが、完全には癒えない。
傷は、まだ深かった。

翌朝、エリアナは薬草園を訪れた。
一人で。
カイザーにも、誰にも告げず。
薬草園は、静かだった。
朝日が、薬草を照らしている。
エリアナは、薬草の間を歩いた。
カモミール、ラベンダー、セージ。
一つ一つの葉が、風に揺れている。
エリアナは、膝をついた。
薬草に触れる。
柔らかい葉。
優しい香り。
「私は……何のために戦っているの」
エリアナは、呟いた。
復讐のため?
父の無念を晴らすため?
それだけ?
エリアナは、薬草を見つめた。
風が、吹く。
薬草が、静かに揺れる。
その瞬間、エリアナの頭の中に映像が流れた。
白い研究室。
顕微鏡。
試験管。
そして、患者の笑顔。
「ありがとう、先生」
「この薬で、治りました」
「助けてくれて、ありがとう」
前世の記憶。
エリアナは、薬学者だった。
人を救うために、薬を作っていた。
「そうだ……」
エリアナは、呟いた。
「私は、人を救うために薬学を学んだ」
エリアナの目に、光が戻ってきた。
少しずつ目的を、思い出していく。
復讐だけではない。
人を救うこと。
それが、エリアナの本当の目的。
銀狼が、エリアナの隣に座った。
いつの間にか、そこにいた。
エリアナは、銀狼を撫でた。
「ありがとう」
エリアナの声が、優しい。
銀狼が、小さく鳴いた。
エリアナは、立ち上がった。
薬草園を見回す。
美しい薬草たち。
これを使って、人を救う。
それが、エリアナの使命。
少しだけ心が、軽くなった。

夜、カイザーがエリアナの部屋を訪れた。
エリアナは、ベッドに座っていた。
カイザーが、隣に座る。
「今日は、どうだった」
カイザーが、尋ねる。
「少し、良くなりました」
エリアナが、微笑む。
「薬草園で、少し考えました」
カイザーが、頷く。
「そうか」
しばらくの沈黙。
カイザーが、口を開いた。
「エリアナ、俺も……お前に話したいことがある」
エリアナが、カイザーを見た。
カイザーの顔が、いつもと違う。
どこか弱々しい。
初めて見る表情。
「俺も……先帝を救えなかった」
カイザーの声が、低く響く。
「戦場で、父上が倒れた。だが、俺は別の戦線にいた」
カイザーの拳が、握りしめられる。
「急報を受けて駆けつけたが……間に合わなかった」
カイザーの目が、遠くを見つめている。
「父上は、既に息を引き取っていた」
エリアナは、カイザーの手を握った。
「カイザー……」
「俺は、自分を責め続けた」
カイザーの声が、震える。
「なぜ、もっと早く気づかなかったのか」
「なぜ、父上を救えなかったのか」
カイザーが、エリアナを見た。
その目には、涙。
「だが、お前が俺を救った」
カイザーの声が、優しくなる。
「お前がいなければ、俺も死んでいた」
カイザーが、エリアナの額に自分の額を合わせた。
「お前は、俺の光だ」
カイザーの声が、囁く。
「絶対に、手放さない」
エリアナの目から、涙が溢れた。
「カイザー……」
二人は、額を合わせたまま、しばらく動かなかった。
お互いの温もりを、感じながら。
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「お前が笑うなら、俺は何でもする」
カイザーの声が、誓いのように響く。
「お前の幸せのために、この国さえ捨てる」
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「私も……」
エリアナの声が、震える。
「私も、貴方のために強くなります」
エリアナが、顔を上げた。
カイザーを、見つめる。
「貴方が私を救ってくれたように、私も貴方を支えます」
カイザーが、微笑んだ。
「ありがとう」
カイザーが、エリアナの頬に手を当てた。
そして、キスをした。
優しく。
エリアナは、目を閉じた。
カイザーの温もりが、全身を包む。
恐怖が、少しずつ消えていく。
代わりに、温かさが満ちていく。
二人は、長い間キスをしていた。
お互いの愛を、確かめ合うように。
キスが終わると、カイザーがエリアナを抱きしめた。
「一緒に、前を向こう」
カイザーの声が、優しい。
「過去は、もう終わった」
エリアナは、頷いた。
「はい」
エリアナの心に、決意が芽生えた。
もう一度、戦おう。
過去のためではない。
未来のために。
人を救うために。
カイザーと共に、歩むために。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「ありがとう、カイザー」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「いつでも、俺はお前の隣にいる」
二人は、抱き合ったまま、静かな時を過ごした。
窓の外には、月が輝いている。
静かな夜。
だが、二人の心には温かさがあった。
恐怖は、まだ完全には消えていない。
だが、少しずつ癒えていく。
カイザーがいれば。
二人で一緒なら。
どんな傷も、癒せる。
エリアナは、そう信じた。
翌朝、エリアナは目を覚ました。
カイザーが、隣で眠っている。
穏やかな寝顔。
エリアナは、カイザーの頬に触れた。
温かい。
生きている。
エリアナは、微笑んだ。
もう、悪夢は見なかった。
代わりに、穏やかな夢を見た。
薬草園で、カイザーと共に歩く夢。
村の子供たちが、笑っている夢。
銀狼が、走り回っている夢。
幸福な夢。
エリアナは、ベッドから起き上がった。
窓を開ける。
朝日が、部屋に差し込む。
新しい一日。
エリアナは、深く息を吸った。
「もう一度、始めよう」
エリアナは、呟いた。
「私の人生を、生きよう」
カイザーが、目を覚ました。
「おはよう、エリアナ」
カイザーの声が、優しい。
エリアナが、振り返った。
「おはようございます、カイザー」
エリアナの笑顔。
カイザーは、それを見て微笑んだ。
「いい笑顔だ」
カイザーが、立ち上がる。
エリアナの隣に立つ。
二人で、窓の外を見る。
王都の街並み。
人々が、動き始めている。
新しい一日が、始まる。
「これから、何をする?」
カイザーが、尋ねる。
エリアナは、少し考えた。
そして、答えた。
「孤児院に、行きます」
エリアナの声が、明るい。
「子供たちに、薬草を教えたいのです」
カイザーが、微笑んだ。
「いいな。俺も一緒に行こう」
エリアナは、頷いた。
「はい。一緒に」
二人は、手を繋いだ。
新しい一日が、始まった。
過去の傷は、まだ癒えていない。
だが、少しずつ前に進んでいる。
カイザーと共に。
人を救うために。
エリアナの心に、希望が芽生えていた。
小さな希望。
だが、確かな希望。
それが、エリアナを前に進ませる。
窓の外、空には雲が流れている。
風が、吹いている。
新しい未来が、そこにある。
エリアナは、それを信じた。
そして、カイザーの手を握りしめた。
「一緒に、歩きましょう」
エリアナの声が、優しく響いた。
カイザーが、頷く。
「ああ。どこまでも」
二人は、部屋を出た。
新しい人生へ。
希望に満ちた未来へ。
手を繋ぎながら。
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