毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される
第21章 公開裁判
数日後、王都の大法廷で継母マルグリットの公開裁判が開かれた。
法廷は、王宮から離れた場所にある古い建物。高い天井、円形の傍聴席、中央に裁判長の席と被告席。
朝から、貴族たちが次々と詰めかけていた。
豪華な衣装を纏った公爵、侯爵、伯爵。宝石を身につけた令嬢たち。
そして、市民たちも傍聴席の後方に集まっている。
法廷は、満員だった。
エリアナとカイザーは、証人席の近くに座っていた。
エリアナは、深い青のドレスを着ている。シンプルだが、品がある。髪は結い上げられ、顔には緊張の色。
カイザーは、黒い礼服。皇帝としての威厳に満ちている。
エリアナの手を、カイザーが握った。
「大丈夫だ」
カイザーの声が、小さく囁く。
「お前は、強い」
エリアナは、頷いた。
鐘が鳴り、裁判長が入廷した。
年配の男性。白い髪、深い皺。長い法服を纏っている。
全員が、立ち上がった。
裁判長が席に着くと、皆も座った。
「これより、マルグリット・ド・ヴァランセ侯爵夫人の裁判を開廷する」
裁判長の声が、法廷に響く。
「被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
護衛に両腕を掴まれて、継母マルグリットが入ってきた。
かつての豪華なドレスではない。質素な灰色の服。宝石もない。髪も乱れている。
だが、その目には、まだ冷たい光があった。
傍聴席が、ざわめく。
「あれが、侯爵夫人……」
「随分と、やつれたわね」
継母は、被告席に座らされた。
裁判長が、書類を開いた。
「マルグリット・ド・ヴァランセ、お前は先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
継母が、顔を上げた。
継母の声が、低く響く。
「私は、何もしていません」
裁判長が、頷いた。
「では、証人を呼ぶ」
裁判長が、エリアナを見た。
「エリアナ皇妃、証言台へ」
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「頑張れ」
エリアナは、頷いた。
証言台へ向かう。
傍聴席の視線が、エリアナに集まる。
エリアナは、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「エリアナ皇妃、証拠を提出してください」
エリアナは、懐から父の日記を取り出した。
古い革張りの日記帳。
「これが、父の遺言です」
エリアナの声が、法廷に響く。
エリアナは、日記を開いた。
ページをめくり、該当箇所を見つける。
「これを、朗読します」
エリアナが、深く息を吸った。
そして、読み始めた。
「マルグリットが、怪しい動きをしている。彼女は、黒いローブの男と何度も会っている。毒を購入しているようだ」
傍聴席が、ざわめく。
エリアナは、続ける。
「私は、彼女に狙われているかもしれない。この日記を、森の古い木の根元に隠す。もし何かあれば、エリアナが見つけてくれるだろう」
エリアナの声が、震える。
だが、止まらない。
「証拠は、この日記だ。医師も買収されている。診断書は偽造だろう」
ページをめくる。
「エリアナ、もし私が突然死んだら、これを信じてほしい。マルグリットが、私を殺したのだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
だが、声は続ける。
「そして、私の財産。全てを、エリアナに遺す。マルグリットには、一銭も与えるな」
エリアナは、日記を閉じた。
「これが、父の遺言です」
法廷が、静まり返った。
しばらくの沈黙。
そして、傍聴席が騒然となった。
「本当に、毒殺だったのか」
「侯爵夫人が、夫を殺した」
「信じられない」
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
法廷が、静かになる。
裁判長が、エリアナに尋ねた。
「この日記の真偽は、確認できるか」
「はい」
エリアナが、頷く。
「父の筆跡です。間違いありません」
裁判長が、日記を受け取った。
丁寧にページをめくり、確認する。
そして、頷いた。
「確かに、先代侯爵の筆跡だ」
裁判長が、継母を見た。
「マルグリット、これについて何か言うことは」
継母は、黙っていた。
顔色は、蒼白。
だが、まだ諦めていない目。
エリアナは、証言台を降りた。
席に戻ろうとする。
その時、継母が叫んだ。
「それは、偽造です!」
継母の声が、法廷に響く。
「あの娘が、捏造したのです!」
エリアナが、振り返った。
「私を陥れるために、父の日記を偽造したのです!」
継母の声が、必死だった。
裁判長が、継母を見た。
「証拠は」
「証拠など、ありません。ですが、あの娘は嘘つきです!」
継母が、エリアナを指差す。
「私を憎んで、こんな嘘を!」
傍聴席が、再びざわめく。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
そして、エリアナに尋ねた。
「エリアナ皇妃、他に証人はいるか」
エリアナは、頷いた。
「はい」
裁判長が、頷く。
「証人を、呼びなさい」
扉が開いた。
老メイド、マリアが入ってきた。
年老いた体を、ゆっくりと動かす。
証言台へ向かう。
傍聴席が、注目する。
マリアが、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「名前を」
「マリアと申します。元侯爵家の使用人です」
マリアの声が、震えている。
「証言をお願いします」
マリアは、深く息を吸った。
そして、口を開いた。
「夫人は、本当に毒を購入していました」
マリアの声が、法廷に響く。
「私は、見ました。夫人が、黒いローブの男と密談しているのを」
マリアが、継母を見た。
「夫人が、医師に大金を渡しているのを」
「夫人が、『診断書を偽造しろ』と命じているのを」
傍聴席が、ざわめく。
継母の顔が、さらに青ざめた。
マリアは、続ける。
「そして、エリアナお嬢様を虐待していました」
マリアの目から、涙が溢れる。
「食事を抜き、殴り、罵倒し、部屋に閉じ込めました。お嬢様は、毎日泣いていました。ですが、誰も助けられませんでした。夫人が、怖かったのです」
マリアが、頭を下げた。
「ごめんなさい、お嬢様。私は、何もできませんでした」
エリアナは、立ち上がった。
「いいえ、マリア。貴女は、何も悪くありません」
エリアナの声が、優しい。
「貴女が、勇気を出して証言してくれました。それだけで、十分です」
マリアが、顔を上げた。
涙が、止まらない。
裁判長が、マリアに尋ねた。
「他に、証言はあるか」
「はい」
マリアが、頷く。
「他の使用人たちも、同じことを見ています。皆、証言する準備ができています」
裁判長が、頷いた。
「では、順に呼びなさい」
次々と、元使用人たちが証言台に立った。
若い男。中年の女。老人。
皆、同じことを証言した。
「夫人が、侯爵様を毒殺しました」
「夫人が、エリアナ様を虐待しました」
「夫人が、財産を横領しました」
証言が、積み重なっていく。
継母の顔色が、どんどん悪くなっていく。
最後の証人が終わった時、継母は立ち上がった。
「嘘です! 全て嘘です!」
継母の声が、叫ぶ。
「私は、何もしていません!」
裁判長が、冷たく言った。
「マルグリット、これだけの証言がある。もう、逃れられない」
継母が、エリアナを睨んだ。
憎しみに満ちた目。
「お前が……お前が、全てを……」
だが、言葉が続かない。
エリアナは、冷静に継母を見つめた。
「お母様、もう逃げられません」
エリアナの声が、静かに響く。
「真実は、明らかになりました」
継母が、床に座り込んだ。
顔を両手で覆う。
「違う……違う……」
継母の声が、掠れている。
裁判長が、宣言した。
「証人尋問を、終了する」
法廷が、静まり返った。
裁判長が、書類を整理する。
そして、扉の方を見た。
「次の被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
イザベラが、連れてこられた。
イザベラは、泣いていた。
目は赤く腫れ、顔は蒼白。
かつての華やかさは、どこにもない。
イザベラが、被告席に座らされた。
継母の隣。
二人は、顔を見合わせた。
継母が、イザベラに囁こうとする。
だが、護衛が間に入った。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ・ド・ヴァランセ、お前は母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
イザベラは、しばらく黙っていた。
震えている。
そして、口を開いた。
「全て、母の指示です!」
イザベラの声が、叫ぶように響く。
継母が、イザベラを見た。
目が、見開かれる。
「私は、従っただけです!」
イザベラが、泣きながら続ける。
「母が、『姉を陥れろ』と言ったのです! 母が、『毒を混入しろ』と命じたのです! 私は、ただ従っただけです!」
イザベラが、継母を指差す。
「全て、母のせいです!」
傍聴席が、騒然となった。
「娘が、母を売った」
「信じられない」
継母が、立ち上がった。
「この愚か者!」
継母の声が、怒りに満ちている。
「何を言っているの!」
イザベラが、叫び返す。
「本当のことです! 母が、全て指示したのです!」
「黙りなさい!」
継母が、イザベラに詰め寄ろうとする。
だが、護衛が継母を押さえた。
「離しなさい!」
継母が、暴れる。
だが、護衛は動じない。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に!」
法廷が、少し静かになる。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ、お前の証言は真実か」
「はい」
イザベラが、涙を流しながら頷く。
「母が、全て計画しました。父を殺すことも、姉を虐待することも、姉を毒殺することも。私は、ただ従っただけです」
裁判長が、書類に記録する。
傍聴席では、貴族たちが囁き合っている。
エリアナは、イザベラを見つめていた。
その目には、複雑な感情。
憐れみ。
そして、悲しみ。
イザベラは、かつてエリアナを嘲笑していた。
だが今、その姿はあまりにも惨めだった。
王太子アレクが、傍聴席の一角に座っていた。
顔は蒼白。目は虚ろ。
妻の裏切り。
母娘の醜い争い。
全てを、目の当たりにしている。
アレクの隣には、誰もいない。
孤独な王太子。
かつて、エリアナを捨てた男。
今、その報いを受けている。
裁判長が、立ち上がった。
「これより、判決を言い渡す」
法廷が、静まり返った。
全員が、固唾を呑んで見守る。
裁判長が、書類を読み上げた。
「被告マルグリット・ド・ヴァランセ」
継母が、顔を上げた。
「お前は、先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した」
裁判長の声が、法廷に響く。
「証拠は明白であり、証人も多数いる。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、一呼吸置いた。
「侯爵位剥奪、全財産没収、終身投獄」
継母の体が、崩れ落ちた。
「そんな……」
継母の声が、掠れている。
「終身投獄……」
裁判長が、続ける。
「被告イザベラ・ド・ヴァランセ」
イザベラが、震えている。
「お前は、母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした」
裁判長の声が、冷たい。
「証言により、お前の関与は明白である。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、宣言した。
「王太子妃の地位剥奪、10年の投獄」
イザベラが、泣き崩れた。
「嫌だ……嫌だ……」
イザベラの声が、法廷に響く。
裁判長が、杖を叩いた。
「以上をもって、判決とする」
護衛たちが、継母とイザベラを連行し始めた。
継母は、抵抗しようとした。
「放しなさい! 私は侯爵夫人よ!」
だが、護衛は容赦しない。
両腕を掴み、引きずっていく。
イザベラは、泣きながら連行される。
「助けて……誰か……」
だが、誰も助けない。
二人は、法廷から連れ出された。
扉が閉まる。
静寂が、戻る。
エリアナは、席に座ったまま、じっと前を見つめていた。
終わった。
本当に、終わった。
父の仇を、討った。
継母を、裁いた。
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「よく頑張った」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「お父様……」
エリアナの声が、震える。
「やりました……」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「お前は、強かった。誰よりも、強かった」
エリアナは、泣き続けた。
安堵の涙。
悲しみの涙。
そして、達成感の涙。
全てが、混ざり合って溢れてくる。
法廷では、貴族たちが次々と立ち上がっていた。
「皇妃陛下、お見事でした」
一人の公爵が、エリアナに頭を下げた。
他の貴族たちも、次々と頭を下げる。
「正義が、示されました」
「真実が、明らかになりました」
エリアナは、顔を上げた。
涙を拭い、立ち上がる。
そして、貴族たちに頭を下げた。
「ありがとうございます」
エリアナの声が、静かに響く。
「皆様のご支援があって、ここまで来られました」
貴族たちが、微笑む。
市民たちも、拍手し始めた。
最初は小さな拍手。
だが、次第に大きくなっていく。
法廷全体が、拍手に包まれた。
エリアナは、深く頭を下げた。
カイザーが、エリアナの手を取った。
「行くぞ」
二人は、法廷を後にした。
外では、朝日が昇っていた。
新しい一日。
新しい人生。
エリアナは、空を見上げた。
青い空。
流れる雲。
「お父様、見ていてくださいましたか」
エリアナの声が、空に向かう。
「正義を、示しました。真実を、明らかにしました。これで、貴方の無念は晴れたでしょうか」
風が、吹く。
優しい風。
まるで、父が答えているかのように。
エリアナは、微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
エリアナは、カイザーを見た。
「これから、どうしましょう」
カイザーが、微笑んだ。
「これから、俺たちの未来を築く」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前と俺で、新しい人生を」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで歩き始めた。
王宮へ。
新しい未来へ。
戦いは、終わった。
復讐は、果たした。
そして今、本当の人生が始まる。
愛に満ちた人生。
希望に満ちた人生。
エリアナは、前だけを見つめた。
過去は、もう終わった。
これからは、未来だけ。
カイザーと共に。
手を繋いで。
歩いていく。
どこまでも。
法廷は、王宮から離れた場所にある古い建物。高い天井、円形の傍聴席、中央に裁判長の席と被告席。
朝から、貴族たちが次々と詰めかけていた。
豪華な衣装を纏った公爵、侯爵、伯爵。宝石を身につけた令嬢たち。
そして、市民たちも傍聴席の後方に集まっている。
法廷は、満員だった。
エリアナとカイザーは、証人席の近くに座っていた。
エリアナは、深い青のドレスを着ている。シンプルだが、品がある。髪は結い上げられ、顔には緊張の色。
カイザーは、黒い礼服。皇帝としての威厳に満ちている。
エリアナの手を、カイザーが握った。
「大丈夫だ」
カイザーの声が、小さく囁く。
「お前は、強い」
エリアナは、頷いた。
鐘が鳴り、裁判長が入廷した。
年配の男性。白い髪、深い皺。長い法服を纏っている。
全員が、立ち上がった。
裁判長が席に着くと、皆も座った。
「これより、マルグリット・ド・ヴァランセ侯爵夫人の裁判を開廷する」
裁判長の声が、法廷に響く。
「被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
護衛に両腕を掴まれて、継母マルグリットが入ってきた。
かつての豪華なドレスではない。質素な灰色の服。宝石もない。髪も乱れている。
だが、その目には、まだ冷たい光があった。
傍聴席が、ざわめく。
「あれが、侯爵夫人……」
「随分と、やつれたわね」
継母は、被告席に座らされた。
裁判長が、書類を開いた。
「マルグリット・ド・ヴァランセ、お前は先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
継母が、顔を上げた。
継母の声が、低く響く。
「私は、何もしていません」
裁判長が、頷いた。
「では、証人を呼ぶ」
裁判長が、エリアナを見た。
「エリアナ皇妃、証言台へ」
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「頑張れ」
エリアナは、頷いた。
証言台へ向かう。
傍聴席の視線が、エリアナに集まる。
エリアナは、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「エリアナ皇妃、証拠を提出してください」
エリアナは、懐から父の日記を取り出した。
古い革張りの日記帳。
「これが、父の遺言です」
エリアナの声が、法廷に響く。
エリアナは、日記を開いた。
ページをめくり、該当箇所を見つける。
「これを、朗読します」
エリアナが、深く息を吸った。
そして、読み始めた。
「マルグリットが、怪しい動きをしている。彼女は、黒いローブの男と何度も会っている。毒を購入しているようだ」
傍聴席が、ざわめく。
エリアナは、続ける。
「私は、彼女に狙われているかもしれない。この日記を、森の古い木の根元に隠す。もし何かあれば、エリアナが見つけてくれるだろう」
エリアナの声が、震える。
だが、止まらない。
「証拠は、この日記だ。医師も買収されている。診断書は偽造だろう」
ページをめくる。
「エリアナ、もし私が突然死んだら、これを信じてほしい。マルグリットが、私を殺したのだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
だが、声は続ける。
「そして、私の財産。全てを、エリアナに遺す。マルグリットには、一銭も与えるな」
エリアナは、日記を閉じた。
「これが、父の遺言です」
法廷が、静まり返った。
しばらくの沈黙。
そして、傍聴席が騒然となった。
「本当に、毒殺だったのか」
「侯爵夫人が、夫を殺した」
「信じられない」
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
法廷が、静かになる。
裁判長が、エリアナに尋ねた。
「この日記の真偽は、確認できるか」
「はい」
エリアナが、頷く。
「父の筆跡です。間違いありません」
裁判長が、日記を受け取った。
丁寧にページをめくり、確認する。
そして、頷いた。
「確かに、先代侯爵の筆跡だ」
裁判長が、継母を見た。
「マルグリット、これについて何か言うことは」
継母は、黙っていた。
顔色は、蒼白。
だが、まだ諦めていない目。
エリアナは、証言台を降りた。
席に戻ろうとする。
その時、継母が叫んだ。
「それは、偽造です!」
継母の声が、法廷に響く。
「あの娘が、捏造したのです!」
エリアナが、振り返った。
「私を陥れるために、父の日記を偽造したのです!」
継母の声が、必死だった。
裁判長が、継母を見た。
「証拠は」
「証拠など、ありません。ですが、あの娘は嘘つきです!」
継母が、エリアナを指差す。
「私を憎んで、こんな嘘を!」
傍聴席が、再びざわめく。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に」
そして、エリアナに尋ねた。
「エリアナ皇妃、他に証人はいるか」
エリアナは、頷いた。
「はい」
裁判長が、頷く。
「証人を、呼びなさい」
扉が開いた。
老メイド、マリアが入ってきた。
年老いた体を、ゆっくりと動かす。
証言台へ向かう。
傍聴席が、注目する。
マリアが、証言台に立った。
裁判長が、尋ねた。
「名前を」
「マリアと申します。元侯爵家の使用人です」
マリアの声が、震えている。
「証言をお願いします」
マリアは、深く息を吸った。
そして、口を開いた。
「夫人は、本当に毒を購入していました」
マリアの声が、法廷に響く。
「私は、見ました。夫人が、黒いローブの男と密談しているのを」
マリアが、継母を見た。
「夫人が、医師に大金を渡しているのを」
「夫人が、『診断書を偽造しろ』と命じているのを」
傍聴席が、ざわめく。
継母の顔が、さらに青ざめた。
マリアは、続ける。
「そして、エリアナお嬢様を虐待していました」
マリアの目から、涙が溢れる。
「食事を抜き、殴り、罵倒し、部屋に閉じ込めました。お嬢様は、毎日泣いていました。ですが、誰も助けられませんでした。夫人が、怖かったのです」
マリアが、頭を下げた。
「ごめんなさい、お嬢様。私は、何もできませんでした」
エリアナは、立ち上がった。
「いいえ、マリア。貴女は、何も悪くありません」
エリアナの声が、優しい。
「貴女が、勇気を出して証言してくれました。それだけで、十分です」
マリアが、顔を上げた。
涙が、止まらない。
裁判長が、マリアに尋ねた。
「他に、証言はあるか」
「はい」
マリアが、頷く。
「他の使用人たちも、同じことを見ています。皆、証言する準備ができています」
裁判長が、頷いた。
「では、順に呼びなさい」
次々と、元使用人たちが証言台に立った。
若い男。中年の女。老人。
皆、同じことを証言した。
「夫人が、侯爵様を毒殺しました」
「夫人が、エリアナ様を虐待しました」
「夫人が、財産を横領しました」
証言が、積み重なっていく。
継母の顔色が、どんどん悪くなっていく。
最後の証人が終わった時、継母は立ち上がった。
「嘘です! 全て嘘です!」
継母の声が、叫ぶ。
「私は、何もしていません!」
裁判長が、冷たく言った。
「マルグリット、これだけの証言がある。もう、逃れられない」
継母が、エリアナを睨んだ。
憎しみに満ちた目。
「お前が……お前が、全てを……」
だが、言葉が続かない。
エリアナは、冷静に継母を見つめた。
「お母様、もう逃げられません」
エリアナの声が、静かに響く。
「真実は、明らかになりました」
継母が、床に座り込んだ。
顔を両手で覆う。
「違う……違う……」
継母の声が、掠れている。
裁判長が、宣言した。
「証人尋問を、終了する」
法廷が、静まり返った。
裁判長が、書類を整理する。
そして、扉の方を見た。
「次の被告を、入廷させよ」
扉が開いた。
イザベラが、連れてこられた。
イザベラは、泣いていた。
目は赤く腫れ、顔は蒼白。
かつての華やかさは、どこにもない。
イザベラが、被告席に座らされた。
継母の隣。
二人は、顔を見合わせた。
継母が、イザベラに囁こうとする。
だが、護衛が間に入った。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ・ド・ヴァランセ、お前は母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした罪で訴えられている」
裁判長の声が、冷たい。
「弁明はあるか」
イザベラは、しばらく黙っていた。
震えている。
そして、口を開いた。
「全て、母の指示です!」
イザベラの声が、叫ぶように響く。
継母が、イザベラを見た。
目が、見開かれる。
「私は、従っただけです!」
イザベラが、泣きながら続ける。
「母が、『姉を陥れろ』と言ったのです! 母が、『毒を混入しろ』と命じたのです! 私は、ただ従っただけです!」
イザベラが、継母を指差す。
「全て、母のせいです!」
傍聴席が、騒然となった。
「娘が、母を売った」
「信じられない」
継母が、立ち上がった。
「この愚か者!」
継母の声が、怒りに満ちている。
「何を言っているの!」
イザベラが、叫び返す。
「本当のことです! 母が、全て指示したのです!」
「黙りなさい!」
継母が、イザベラに詰め寄ろうとする。
だが、護衛が継母を押さえた。
「離しなさい!」
継母が、暴れる。
だが、護衛は動じない。
裁判長が、杖を叩いた。
「静粛に!」
法廷が、少し静かになる。
裁判長が、イザベラに尋ねた。
「イザベラ、お前の証言は真実か」
「はい」
イザベラが、涙を流しながら頷く。
「母が、全て計画しました。父を殺すことも、姉を虐待することも、姉を毒殺することも。私は、ただ従っただけです」
裁判長が、書類に記録する。
傍聴席では、貴族たちが囁き合っている。
エリアナは、イザベラを見つめていた。
その目には、複雑な感情。
憐れみ。
そして、悲しみ。
イザベラは、かつてエリアナを嘲笑していた。
だが今、その姿はあまりにも惨めだった。
王太子アレクが、傍聴席の一角に座っていた。
顔は蒼白。目は虚ろ。
妻の裏切り。
母娘の醜い争い。
全てを、目の当たりにしている。
アレクの隣には、誰もいない。
孤独な王太子。
かつて、エリアナを捨てた男。
今、その報いを受けている。
裁判長が、立ち上がった。
「これより、判決を言い渡す」
法廷が、静まり返った。
全員が、固唾を呑んで見守る。
裁判長が、書類を読み上げた。
「被告マルグリット・ド・ヴァランセ」
継母が、顔を上げた。
「お前は、先代侯爵を毒殺し、娘エリアナを虐待し、財産を横領した」
裁判長の声が、法廷に響く。
「証拠は明白であり、証人も多数いる。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、一呼吸置いた。
「侯爵位剥奪、全財産没収、終身投獄」
継母の体が、崩れ落ちた。
「そんな……」
継母の声が、掠れている。
「終身投獄……」
裁判長が、続ける。
「被告イザベラ・ド・ヴァランセ」
イザベラが、震えている。
「お前は、母マルグリットと共謀し、エリアナ皇妃を毒殺しようとした」
裁判長の声が、冷たい。
「証言により、お前の関与は明白である。よって、お前に次の刑を言い渡す」
裁判長が、宣言した。
「王太子妃の地位剥奪、10年の投獄」
イザベラが、泣き崩れた。
「嫌だ……嫌だ……」
イザベラの声が、法廷に響く。
裁判長が、杖を叩いた。
「以上をもって、判決とする」
護衛たちが、継母とイザベラを連行し始めた。
継母は、抵抗しようとした。
「放しなさい! 私は侯爵夫人よ!」
だが、護衛は容赦しない。
両腕を掴み、引きずっていく。
イザベラは、泣きながら連行される。
「助けて……誰か……」
だが、誰も助けない。
二人は、法廷から連れ出された。
扉が閉まる。
静寂が、戻る。
エリアナは、席に座ったまま、じっと前を見つめていた。
終わった。
本当に、終わった。
父の仇を、討った。
継母を、裁いた。
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「よく頑張った」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、カイザーの胸に顔を埋めた。
「お父様……」
エリアナの声が、震える。
「やりました……」
カイザーが、エリアナの髪を撫でる。
「お前は、強かった。誰よりも、強かった」
エリアナは、泣き続けた。
安堵の涙。
悲しみの涙。
そして、達成感の涙。
全てが、混ざり合って溢れてくる。
法廷では、貴族たちが次々と立ち上がっていた。
「皇妃陛下、お見事でした」
一人の公爵が、エリアナに頭を下げた。
他の貴族たちも、次々と頭を下げる。
「正義が、示されました」
「真実が、明らかになりました」
エリアナは、顔を上げた。
涙を拭い、立ち上がる。
そして、貴族たちに頭を下げた。
「ありがとうございます」
エリアナの声が、静かに響く。
「皆様のご支援があって、ここまで来られました」
貴族たちが、微笑む。
市民たちも、拍手し始めた。
最初は小さな拍手。
だが、次第に大きくなっていく。
法廷全体が、拍手に包まれた。
エリアナは、深く頭を下げた。
カイザーが、エリアナの手を取った。
「行くぞ」
二人は、法廷を後にした。
外では、朝日が昇っていた。
新しい一日。
新しい人生。
エリアナは、空を見上げた。
青い空。
流れる雲。
「お父様、見ていてくださいましたか」
エリアナの声が、空に向かう。
「正義を、示しました。真実を、明らかにしました。これで、貴方の無念は晴れたでしょうか」
風が、吹く。
優しい風。
まるで、父が答えているかのように。
エリアナは、微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
エリアナは、カイザーを見た。
「これから、どうしましょう」
カイザーが、微笑んだ。
「これから、俺たちの未来を築く」
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前と俺で、新しい人生を」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで歩き始めた。
王宮へ。
新しい未来へ。
戦いは、終わった。
復讐は、果たした。
そして今、本当の人生が始まる。
愛に満ちた人生。
希望に満ちた人生。
エリアナは、前だけを見つめた。
過去は、もう終わった。
これからは、未来だけ。
カイザーと共に。
手を繋いで。
歩いていく。
どこまでも。