毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される

第24章 私たちの未来

月が満ち、季節が巡った。
エリアナの腹は、日に日に大きくなっていった。
村の助産婦たちが、毎日エリアナの様子を見に来る。
「順調ですよ、皇妃様」
年配の助産婦、ヘレナが微笑む。
「赤ちゃんも、元気に動いています」
エリアナは、自分の腹に手を当てた。
中から、小さな動き。
赤ちゃんが、蹴っている。
「カイザー、触ってみてください」
エリアナが、カイザーの手を取る。
カイザーの手が、エリアナの腹に触れた。
その瞬間、赤ちゃんが蹴った。
カイザーの目が、見開かれた。
「今、動いた」
カイザーの声が、興奮している。
「俺の子が、動いた」
エリアナは、微笑んだ。
「元気ですね」
そして、ある冬の朝。
陣痛が始まった。
エリアナは、ベッドで苦しんでいた。
痛みが、波のように押し寄せる。
「カイザー……」
エリアナの声が、震える。
カイザーが、エリアナの手を握った。
「大丈夫だ。俺がいる」
カイザーの声が、力強い。
助産婦たちが、慌ただしく動いている。
湯を沸かし、布を用意し、エリアナを励ます。
「皇妃様、頑張ってください」
「もうすぐです」
エリアナは、歯を食いしばった。
痛い。
とても痛い。
だが、エリアナは耐えた。
カイザーの手を握りしめ、前世の知識を思い出し、呼吸を整える。
「もう少しです、皇妃様」
ヘレナの声が、励ます。
「力を入れて」
エリアナは、渾身の力を込めた。
そして。
赤ちゃんの泣き声が、部屋に響いた。
「生まれました!」
ヘレナが、歓喜の声を上げる。
「男の子です!」
エリアナは、安堵の息をついた。
だが、まだ終わらない。
「皇妃様、もう一人います」
ヘレナの声が、再び真剣になる。
「双子です」
エリアナの目が、見開かれた。
双子。
エリアナは、再び力を込めた。
痛みに耐え、呼吸を整え、押し出す。
そして、再び赤ちゃんの泣き声。
「女の子です!」
ヘレナが、笑顔で告げる。
「双子です、皇妃様」
エリアナは、ベッドに倒れ込んだ。
疲労が、全身を包む。
だが、心は満たされていた。
双子。
男の子と女の子。
助産婦たちが、赤ちゃんを綺麗にしている。
産湯に浸け、布で包む。
そして、エリアナの腕に渡した。
二人の赤ちゃん。
小さな体。
閉じた目。
柔らかい肌。
エリアナは、涙が溢れた。
「私の、子供たち」
エリアナの声が、震える。
カイザーが、エリアナの隣に座った。
赤ちゃんたちを、見つめる。
その目から、涙が溢れていた。
「俺たちの、子供たち」
カイザーの声が、掠れている。
カイザーが、そっと男の子を抱き上げた。
小さな体。
温かい。
生きている。
カイザーは、泣きながら赤ちゃんを抱きしめた。
「ありがとう、エリアナ」
カイザーの声が、囁く。
「お前が、俺に最高の贈り物をくれた」
エリアナは、女の子を抱きしめた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
エリアナの声が、優しい。
「貴方と、この子たちがいれば、何もいりません」
ヘレナが、微笑んだ。
「お二人とも、健康です。立派な赤ちゃんたちですよ」
村人たちが、部屋の外で待っていた。
扉が開くと、ヘレナが告げた。
「双子です! 男の子と女の子!」
村人たちが、歓声を上げた。
「双子だ!」
「おめでとうございます!」
子供たちが、飛び跳ねる。
老村長が、涙を流している。
銀狼が、部屋に入ってきた。
ゆっくりと、ベッドに近づく。
赤ちゃんたちを、見つめる。
そして、その隣に座った。
まるで、守護者のように。
エリアナは、銀狼を見た。
「ありがとう」
エリアナの声が、囁く。
銀狼が、小さく鳴いた。
部屋は、温かい空気に包まれていた。
幸福な家族の誕生。
新しい命。
新しい未来。
全てが、ここにあった。

数年が過ぎた。
双子は、すくすくと育った。
男の子はアレン。女の子はリリア。
二人とも、元気に走り回っている。
辺境の村は、大きく変わっていた。
かつての荒れ果てた土地は、今や緑豊かな薬草園に覆われている。
広大な敷地。無数の薬草。
そして、新しい建物が次々と建てられていた。
薬草を加工する工場。
薬を保管する倉庫。
訪れる人々のための宿屋。
村は、もはや村ではなかった。
小都市になっていた。
「薬草の都」と呼ばれるようになった。
各地から、人々が訪れる。
病気の治療を求める人。
薬草を学びたい人。
商人たち。
街道は、常に人で賑わっている。
エリアナは、薬草園の中を歩いていた。
アレンとリリアが、その後をついてくる。
「お母様、これは何ですか」
アレンが、薬草を指差す。
「これは、カモミールよ。お腹が痛い時に効くの」
エリアナが、優しく説明する。
「へえ」
リリアが、目を輝かせる。
「お母様は、何でも知っているのね」
エリアナは、微笑んだ。
「まだまだ、知らないこともたくさんあるわ」
薬草園の奥に、新しい建物があった。
エリアナ薬学校。
エリアナが設立した、薬学を教える学校。
孤児たちや、貧しい家の子供たちが、無償で学べる場所。
エリアナの夢だった。
前世で、薬学を学んだエリアナ。
その知識を、次の世代に伝えたい。
特に、恵まれない子供たちに。
学校の中に入ると、子供たちが勉強していた。
机に向かい、ノートに書き込んでいる。
教師が、前で薬草の説明をしている。
エリアナが入ると、子供たちが立ち上がった。
「エリアナ先生!」
子供たちが、笑顔で駆け寄る。
エリアナは、子供たちを抱きしめた。
「みんな、勉強は順調?」
「はい!」
子供たちが、元気に答える。
「今日は、解毒剤の作り方を習いました」
一人の少年が、誇らしげに言う。
エリアナは、微笑んだ。
「素晴らしいわ。よく頑張ったわね」
エリアナは、教室を見回した。
かつての自分のような子供たち。
恵まれない環境。
だが、ここで学べば、未来が開ける。
エリアナは、それを信じていた。
学校を出ると、カイザーが待っていた。
アレンとリリアが、カイザーに駆け寄る。
「お父様!」
カイザーが、二人を抱き上げた。
「元気にしていたか」
「はい!」
二人が、笑顔で答える。
カイザーは、エリアナを見た。
「学校は、順調か」
「はい」
エリアナが、頷く。
「子供たちは、熱心に学んでいます」
カイザーが、誇らしげに微笑んだ。
「お前の功績だ」
カイザーの声が、温かい。
「この都市も、学校も、全てお前が築いた」
エリアナは、首を横に振った。
「いいえ。皆が協力してくれたからです」
カイザーが、エリアナの手を取った。
「謙遜するな。お前は、素晴らしい」
二人は、手を繋いで街を歩いた。
子供たちが、その後をついてくる。
街の人々が、エリアナとカイザーに挨拶する。
「皇妃様、こんにちは」
「陛下、お元気ですか」
エリアナとカイザーは、一人一人に笑顔で応える。
街は、活気に満ちていた。
商人たちが、薬草を売り買いしている。
職人たちが、薬を調合している。
子供たちが、笑いながら走り回っている。
平和な光景。
エリアナの心は、満たされていた。

ある日、王宮から使者が訪れた。
エリアナとカイザーは、領主館で使者を迎えた。
使者が、膝をついた。
「皇妃陛下、陛下、ご報告があります」
使者の声が、静かに響く。
「継母マルグリット様が、牢で病死されました」
エリアナの心臓が、一瞬止まった。
継母が、死んだ。
使者が、続ける。
「数日前のことです。病が悪化し、息を引き取られました」
エリアナは、何も言わなかった。
ただ、窓の外を見つめている。
カイザーが、エリアナの肩に手を置いた。
「大丈夫か」
エリアナは、小さく頷いた。
「はい」
使者が、立ち上がった。
「葬儀は、明日執り行われます。ご列席なさいますか」
エリアナは、首を横に振った。
「いいえ。行きません」
エリアナの声が、静かに響く。
「もう、彼女のことは考えません」
使者は、頭を下げた。
「承知いたしました」
使者が、去った後、エリアナは、窓の外を見続けていた。
継母が、死んだ。
エリアナの心には、何の感情もなかった。
悲しみも、怒りも、安堵も。
ただ、静かな気持ち。
「もう、終わったのね」
エリアナは、呟いた。
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「お前は、強い」
カイザーの声が、優しい。
「過去に、囚われていない」
エリアナは、カイザーを見上げた。
「はい。もう、過去は関係ありません」
数日後、別の知らせが届いた。
イザベラが、出所後にどこかへ消えた。
行方不明。
誰も、彼女を見ていない。
エリアナは、その知らせを聞いても動じなかった。
「それぞれの人生」
エリアナは、静かに言った。
「イザベラも、自分の道を歩むのでしょう」
カイザーが、頷いた。
「そうだな」
エリアナは、窓の外を見た。
青い空。
流れる雲。
「もう、誰のことも憎みません」
エリアナの声が、穏やかに響く。
「過去に、囚われません。前だけを、見ます」
カイザーが、エリアナの手を握った。
「それでいい」
エリアナは、微笑んだ。
過去に囚われない強さ。
それが、エリアナが手に入れたもの。
夕暮れ時、エリアナとカイザーは薬草園にいた。
アレンとリリアが、薬草の間で遊んでいる。
「お父様、見て!」
アレンが、花を摘んで見せる。
「綺麗でしょう」
カイザーが、微笑んだ。
「ああ、綺麗だな」
リリアが、蝶を追いかけている。
「待って、蝶々さん!」
笑い声が、薬草園に響く。
銀狼が、子供たちの周りを駆け回っている。
まるで、遊び相手のように。
エリアナは、その光景を見つめていた。
幸福。
これが、幸福。
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
「お前と出会えて、俺の人生は変わった」
カイザーの声が、囁く。
「お前がいなければ、俺は死んでいた。お前が、俺に生きる意味をくれた」
エリアナは、カイザーを見上げた。
「私もです」
エリアナの声が、優しい。
「貴方と、子供たちが全てです。貴方がいなければ、私も生きていなかったでしょう」
カイザーが、エリアナにキスをした。
優しく。
エリアナは、目を閉じた。
カイザーの温もりに、身を委ねる。
キスが終わると、二人は子供たちを見つめた。
アレンとリリアが、笑いながら走り回っている。
銀狼が、その後を追いかける。
夕日が、薬草園を照らしている。
オレンジ色の光。
温かい光。
全てが、美しかった。
エリアナは、深く息を吸った。
「私は、私の人生を生きる」
エリアナの声が、静かに響く。
「もう、誰にも支配されない。これが、私の自由」
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「ああ。お前は、自由だ」
カイザーの声が、力強い。
「そして、俺たちは、幸せだ」
エリアナは、頷いた。
二人は、手を繋いだまま、子供たちに近づいた。
「アレン、リリア、そろそろ帰りましょう」
エリアナの声が、優しく呼びかける。
「はーい」
子供たちが、駆け寄ってくる。
銀狼も、ついてくる。
家族四人と、銀狼。
夕日を背に、領主館へ向かう。
シルエットが、美しく浮かび上がる。
小さな子供たち。
エリアナとカイザー。
そして、銀狼。
全員が、手を繋いでいる。
温かい家族。
幸福な家族。
村人たちが、その光景を見ていた。
皆、微笑んでいる。
「良かった」
「本当に、良かった」
「皇妃様は、幸せになられた」
村人たちの囁きが、風に乗る。
エリアナは、それを聞いた。
振り返り、村人たちに手を振った。
村人たちも、手を振り返す。
温かい光景。
エリアナは、前を向いた。
領主館が、見える。
小さいが、温かい建物。
そこが、エリアナの家。
本当の家。
家族と共に過ごす、幸福な場所。
夕日が、沈んでいく。
空が、オレンジ色から紫色へ変わっていく。
星が、一つ、また一つと輝き始める。
エリアナは、空を見上げた。
「お父様、見ていてくださいますか」
エリアナの心の中で、囁く。
「私は、幸せです。本当に、幸せです。貴方の娘は、強く生きています。自由に、生きています」
星が、一つ輝いた。
まるで、父が答えているかのように。
エリアナは、微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
カイザーが、エリアナの肩を抱いた。
「何を見ているんだ」
「星です」
エリアナが、答える。
「父が、見守ってくれている気がします」
カイザーが、空を見上げた。
「そうか」
カイザーの声が、優しい。
「お前の父上も、喜んでいるだろう。お前が、こんなに幸せになったことを」
エリアナは、頷いた。
「はい」
家族は、領主館に入った。
温かい部屋。
暖炉の火。
柔らかい光。
エリアナは、暖炉の前に座った。
アレンとリリアが、その隣に。
カイザーが、皆を抱きしめる。
銀狼が、足元で丸くなる。
「お話、聞かせて」
リリアが、エリアナにねだる。
「どんなお話がいい?」
エリアナが、優しく尋ねる。
「お母様の、昔のお話」
アレンが、答える。
エリアナは、少し考えた。
そして、語り始めた。
「昔々、ある所に一人の娘がいました」
エリアナの声が、静かに響く。
「娘は、とても辛い思いをしていました。でも、諦めませんでした。そして、素晴らしい人々と出会いました。優しい村人たち、強い皇帝様、賢い銀狼、そして、可愛い双子の子供たち」
アレンとリリアが、目を輝かせている。
「娘は、幸せになりました」
エリアナが、微笑む。
「そして、ずっとずっと、幸せに暮らしました。おしまい」
リリアが、拍手した。
「素敵なお話」
アレンが、頷く。
「お母様のお話は、いつも素敵」
カイザーが、エリアナを見た。
その目には、愛情。
「お前の人生が、一番素敵な物語だ」
エリアナは、カイザーを見つめた。
「ありがとうございます」
家族は、暖炉の前で抱き合った。
温かい。
幸福。
全てが、ここにある。
外では、星が輝いている。
無数の星。
それぞれが、エリアナたちを見守っている。
風が、吹く。
優しい風。
草の香り。
薬草の香り。
幸福の香り。
全てが、穏やかだった。
エリアナの人生は、ここにある。
虐げられた過去。
毒を盛られた夜。
地下牢の暗闇。
全てを乗り越えて今、エリアナは幸せだった。
本当に、幸せだった。
誰にも支配されない。
自由に生きる。
愛する人と共に。
子供たちと共に。
これが、エリアナの人生。
これが、エリアナの自由。
エリアナは、深く息を吸った。
そして、微笑んだ。
「これが、私の幸福」
エリアナの声が、静かに響く。
カイザーが、エリアナにキスをした。
子供たちが、笑う。
銀狼が、小さく鳴く。
全員が、幸せだった。
夜が、更けていく。
だが、家族の温もりは、消えない。
ずっと、続く。
永遠に。
これが、エリアナの物語。
辛い過去から、幸福な未来へ。
虐げられた令嬢から、愛される皇妃へ。
そして、自由な女性へ。
エリアナは、自分の人生を手に入れた。
誰にも奪われない、本当の人生を。
それが、エリアナの勝利。
本当の、勝利。
幸福な、大団円。
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