塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

お飾りの妻として生きていく

「分かりました。お受けします」

「ラシェル」

 父親が慌てたように声をあげるが、ラシェルは笑みを浮かべたままレナルドを見つめた。

「私がレナルド様と結婚すれば、我が家に金銭的な援助をしてくださるのでしょう?」

「えぇ、もちろん。一度限りのものではなく、継続的な支援をお約束しましょう」

「ね、お父様。とてもありがたいお話じゃないですか」

「だがラシェル、おまえを差し出すようなことはできないよ」

「このままでは借金の返済が立ち行かないのは事実でしょう。今まで育てていただいた恩を返すことができますし、お金の問題も解決するのですから」

 まだ納得していなさそうな様子の父親を強い口調で説得し続けると、ラシェルの決意が固いことを理解してくれたらしい。そもそも、侯爵家からの結婚の申し込みを、男爵家が断れるはずがないのだ。

 やがて父親は、渋々といった様子でうなずいた。それを見て、レナルドも笑みを浮かべる。

「結婚にあたっては、持参金も不要です。ラシェル嬢に必要な物は、全てこちらで用意させていただきますから」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」

 ラシェルが頭を下げると、レナルドはすぐに結婚の届出を出すための書類を差し出してきた。

 あまりの用意のよさに驚くが、彼もはなから断られるとは思っていなかったのだろう。

 書類を確認するために父親が席を外して二人きりになったところで、ラシェルはあらためてレナルドの顔を見つめた。

 先程までは常に笑顔を浮かべていたが、今は冷たく見えるほどの無表情だ。目的を達したら、作り笑顔すら必要ないということだろうか。

 目が合った瞬間、眉間に微かに皺が寄るのを見て、失礼だったかと慌てて視線を逸らしてうつむく。

「……この結婚は」
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