塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

花の栞(レナルド視点)

 逃げるように寝室を飛び出したレナルドは、自室に戻ることなく庭に出た。先日ラシェルとお茶を飲んだ四阿を通り過ぎ、更に奥へと向かう。

 庭の隅にぽつんと佇む小さな古びた温室の扉を開けると、中に入って鍵を締めた。一人で考えごとをしたい時に、レナルドはこの温室にこもる。使用人たちはそれを知っているから、ここには誰も近づかない。

 扉に背中を預けると、レナルドはそのままずるずるとしゃがみこむ。そして、頭を抱えて深いため息をついた。

「俺は……なんてことを」

 未だに頭の中はぐつぐつと煮えたっているようだが、落ち着けと必死に自分へ言い聞かせる。

 ラシェルがあの伯爵令息と一緒にいるところを見て、冷静さを失ってしまったのだ。

 幼馴染の二人はいつも一緒で、社交界でもいずれ結婚するのだろうと思われていた。そこに割って入ったのがレナルドで、まるで金で買うようにしてラシェルを奪い去った。そんな行いをしたレナルドを、ラシェルはきっと嫌悪するだろうと思ったが、それでも構わなかった。誰か他の人のものになるくらいなら、たとえ嫌われようともそばにいてほしかったから。

 だが強引な手口で結婚して自分のそばに置いたところで、彼女の心までは縛れない。言葉を交わす二人を見ているだけで、レナルドの頭の中は嫉妬で真っ赤に染まってしまった。

 必死にラシェルを腕の中に囲い、彼女はもう自分のものだとあの男に見せつけてやるつもりだったが、そんな醜いレナルドの心の内がきっと漏れていたのだろう。ラシェルはレナルドを拒絶するようなそぶりを見せた。その瞬間、もう何も考えられなくなってしまった。
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