塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

愛しあう、ふり(レナルド視点)

 病院で目覚めたレナルドは、医師の診察を受けた結果、ここ数年の記憶を失っていることを伝えられた。自分としては何の問題もないと思っていたのだが、確かに直近の記憶が曖昧だ。

 まさか自分にそんなことが起きるなんてと困惑していると、医師が部屋の外から誰かを連れて戻ってきた。

「レナルド様」

 可愛らしい声が自分の名を呼ぶ。その瞬間、レナルドは思わず身体を震わせた。数えきれないほど頭の中で反芻したその声の主を、間違えるはずがない。

「……ラシェル・ブラン男爵令嬢……。どうしてきみが、ここに」

 もう一度会いたい、会って言葉を交わしたいと心から望んでいた相手が、レナルドの目の前にいる。だが孤児院で彼女と出会って以来、接点はなかったはずだ。

 戸惑うレナルドの肩を、同僚騎士のユーグが笑いながら叩く。長いつきあいの彼のことは、記憶にある。

「彼女はきみの奥さんだ。つい先月、結婚したばかりじゃないか」

 告げられた衝撃の事実に、レナルドは大きく目を見開いた。信じられない気持ちで確認するが、ラシェルもそれを認めてうなずいた。
 全く思い出せないものの、ずっと想いを寄せていた人が自分の妻であるという事実に心が震えるほどの喜びを感じる。

 しかも同僚に惚気るほど仲睦まじかったのだと聞かされて、この結婚がお互い愛しあってのものであるとレナルドは理解した。政略結婚で惚気るはずがないし、ラシェルも気恥ずかしそうにしながらもそれを認めているのだ。
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