塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

危機

 鈍い頭の痛みを感じながら、ラシェルはゆっくりと目を開けた。

 まず目に入ったのは、見知らぬ天井。よく見るとそれは、ベッドの天蓋であることが分かった。少し古びているが、それなりに豪華なベッドだ。

 一瞬状況が分からなくて混乱しかけたが、すぐにセヴランに馬車の中へ押し込まれたことを思い出す。

 薬で眠らされている間に、どこかへ連れてこられたらしい。

 とにかく状況を確認しようと起き上がろうとしたが、身体が動かない。その時ラシェルは、自分が両腕をベッドの柱にくくりつけられていることに気づいた。

「……っ」

 引きつった声をあげたラシェルの耳に、近づいてくる足音が聞こえる。恐怖に震えながら動かない身体を少しでも縮めようとしていると、視界に明るい茶色の髪が入ってきた。

「ようやく起きたか。ちょっと薬の量が多すぎたかな」

 覆いかぶさってきたセヴランは、にやにやと笑いながらラシェルを見下ろす。名前を呼ぶことすら嫌で、ラシェルは唇を引き結んでセヴランをにらみつける。

「そんな怖い顔すんなって。おれは優しいからな、おまえが素直に言うことを聞けば、酷いことはしない」

 そう言って頰を撫でられるが、触れる手が気持ち悪くてたまらない。思わずラシェルは、強く顔を背けた。

「触らないで」

 拒絶の言葉を口にした瞬間、セヴランの顔から笑みが消える。感情のない真っ黒な瞳が恐ろしくて息をのむと、痛いほどの力で顎を掴まれた。

 無理に上を向かせたラシェルの顔をセヴランがのぞき込んでくる。彼の荒い息が頬を掠め、嫌悪感に身体が震えた。

「まだ自分の立場が分かってないようだな。おまえは、おれのものになったんだ。逆らうことは許さない」

「あなたのものになったつもりなんて、ない……痛っ」
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