塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

嘘なのに

 レナルドがラシェルを妻として受け入れたのを見て、医師もどこか安心した表情を浮かべた。

 日常生活に支障が出るような状態ではないとのことで、しばらく自宅療養をして様子を見ることになった。記憶が戻るのかどうかは、現時点では分からないらしく、慣れた環境で以前と変わりない生活を送ることが一番だと言われた。

 ユーグは騎士団へ報告するために戻ると出て行き、病室内でレナルドと二人きりになる。無言が気まずくて、何か話さねばと口を開いた時、レナルドがラシェルを見つめた。

「ラシェル……と、呼んでも構わないのだろうか」

「え、あ……もちろんです」

 慌ててうなずくと、レナルドは嬉しそうに微笑んで再びラシェルの名を呼んだ。まるで響きを確かめるかのようにそっと囁かれて、鼓動が速くなる。

 きっと彼はユーグの言ったことを信じて、ラシェルとは仲睦まじい夫婦だったと思い込んでいるのだろう。

 本当はそんなことなかったのだと伝えなければと思うのに、声は喉の奥に貼りついたように出てこない。

 だって、レナルドがこんなにも優しい表情を向けてくれたことなんて初めてなのだ。本当に愛されていると錯覚しそうなほど、彼の視線は甘い。ずっと好きだった人に想いが通じたようなこの幸せを、あと少しだけ味わっていたい。

 だめだと分かっていながら、ラシェルはそんなことを考えてしまった。

 何も言えず黙っていると、レナルドは小さく笑った。

「自分がまさか結婚をしていたなんて、まだ信じられないくらいなんだが、相手がラシェルだったなんて。俺たちが夫婦になったきっかけを全然思い出せないのがすごく悔しいな……」

「あの、それは」
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