塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

初めてのキス

 記憶を失う前が嘘のように、レナルドは常にラシェルにそばにいてほしがった。そのことに戸惑う気持ちはあるが、きっと彼も不安なのだろうと考えるようにしている。ラシェルとしても、好きな人のそばにいられるのだから、密かに嬉しく思っているのだ。

 レナルドはいつもラシェルに笑いかけてくれるし、向けられる表情も言葉も甘い。本当に愛されていると勘違いしてしまいそうなほどだが、これは束の間の幻のようなものだと言い聞かせている。この甘さに溺れてしまったら、レナルドの記憶が戻った時に立ち直れなくなってしまうから。

 夜も、レナルドは当然一緒に眠るのだろうといった様子で待っている。ラシェルがいつものように離れた場所へ横になったら、途端に不満そうな顔になった。

「ラシェル、なんだか遠くないか」

「えっ……、あの、えぇと、私、寝相が悪いんです。レナルド様を蹴ったりしたら困るので、私はここで寝ます……っ」

「ははっ、そうなのか。新たな一面を知れて嬉しいな。寝相が悪いラシェルも可愛い。そうだ、俺がしっかりと抱きしめて眠ろうか。それなら大丈夫だろう?」

「ひゃ……っ!?」

 楽しそうに笑いながら、レナルドはうしろからラシェルを抱きしめた。すっぽりと包み込まれて、背中に彼のぬくもりを感じる。心臓がどくどくとうるさいほどの音をたてていて、それに気づかれてはならないとラシェルは思わず身をよじった。

「は、離してください……」

「こうするのは嫌? 俺たちは夫婦だろう、きみを抱きしめて眠ったこともあると思うんだが」

「それは……」

 抱かれたのは初夜の一度きりで、それ以降レナルドはラシェルに触れようとしなかった。それを伝えるべきだと思うのに、どう言えばいいか分からない。
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