塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

もう少しだけ、このままで

 朝、目覚めたラシェルの身体は、しっかりとレナルドに抱きしめられていた。まるで抱き枕になったような気持ちだが、触れあう部分から伝わるぬくもりが心地いい。

 ちらりと時計を確認すれば、普段ならレナルドは鍛錬をしている時間だった。怪我のこともあるし、今朝はゆっくり眠るつもりなのだろうと考えて、ラシェルは彼を起こさないようじっとしていることにした。

 すぐそばにあるレナルドの顔は、目を閉じていても整っている。睫毛が長いなとか、微かに開いた唇がどこか可愛らしいなどと思いながら観察していると、不意に彼が小さく呻いた。

「ん……おはよう、ラシェル」

 目を開けた瞬間、ラシェルの姿を捉えたレナルドは、嬉しそうに笑う。同時に抱きしめる腕の力も強くなり、更に密着することになった。

「おはようございます」

「朝一番にラシェルの顔を見られるというのは幸せだな。本当に結婚しているんだなって実感する」

 しみじみとそう言ったレナルドは、やはりまだ記憶が戻っていないようだ。そのことにどこかホッとする自分に罪悪感を抱きながら、ラシェルは起きましょうと声をかけた。

 二人で食堂で朝食をとっていると、執事のクレマンがやってきた。手には何通かの手紙を持っている。

「レナルド様宛に、いくつか夜会の招待状が届いております」

 手紙を受け取ったレナルドは、差出人を確認すると少し渋い顔になった。

「夜会か……。正直なところ、あまり気が進まないんだ。今の俺はここ数年の記憶を失っているし、知らない相手に話しかけられてもうまく対応できる気がしない」
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