塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

きっと気のせい

 レナルドの記憶が戻っているかもしれないことが気になって、ラシェルは眠れない夜を過ごした。明け方になってほんの少しまどろんだが、レナルドが目覚めた気配でラシェルも起きてしまう。

「おはよう、ラシェル。身体は辛くない?」

「おはようございます、レナルド様。えぇ、問題ありません」

「そうか、よかった。愛するきみをこの手で抱ける幸せに、つい夢中になってしまったから、無理をさせていなかったかと心配だったんだ」

 そう言って甘く微笑むレナルドは、本当に心からラシェルを愛しているように見える。記憶が戻っているような気がしたのはやはり勘違いだったのだろうかと思いつつも、レナルドの顔を見ることができなくて、ラシェルはうつむいた。

「疲れているだろうから、今日はゆっくり過ごそうか。俺は少し身体を動かしてくるけど、ラシェルはもう少し寝ていていいよ」

「いえ、私も……」

 起き上がろうとしたら、レナルドの手がそれを優しく押しとどめた。そして、指先で目元をそっと撫でられる。

「まだ眠そうな顔をしてる。戻ってきたら起こしてあげるから」

「分かりました」

「うん。おやすみ、ラシェル。またあとで」

 そう言ってラシェルの額に優しく口づけると、レナルドは部屋を出て行った。

――やっぱり、気のせいだったのかもしれない。

 足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ラシェルは心の中でつぶやく。

 記憶が戻ったレナルドが、こんなにもラシェルに甘く接するはずがないのだから。

 まだ少しもやもやとした気持ちは残っているものの、彼に記憶が戻ったかどうか確認するわけにもいかない。

――記憶が戻っていないことを祈ってしまうなんて、身勝手な自分が本当に嫌になってしまうわ……。

 大きなため息をついて、ラシェルは目を閉じた。
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