塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

過去のこと

 何度思い返しても、間違いない。あのハンカチは五年前、ラシェルがレナルドの手に結んだものだ。

 その時のことを、ラシェルは思い返す。

 ブラン男爵家は裕福ではなかったが、それでも貴族の末端に籍を置く身として、慈善活動にも力を入れていた。

 幼い頃から両親と共に孤児院や養老院へ訪問していたし、大きくなってからは一人で訪問することもよくあった。

 王都のはずれにある孤児院には、特にラシェルが頻繁に訪問していた。領地から一番近い場所にあったこともあるし、何より子供たちがラシェルに懐いてくれていたのだ。幼い子供に「また会いに来てね」と言われれば、それを無視することなんてできなかった。

 当時ラシェルは十五歳で、一人で孤児院へ訪問することが増えてきた頃だった。

 近々行われる予定のバザーの準備を手伝うため、ラシェルは時間を見つけては通っていた。

 子供たちとバザーに出すためのクッキーを作り、焼き上がりを待つ間は庭で遊んできてもいいと声をかけると、子供たちは歓声をあげた。

「追いかけっこしよう!」
「ボールで遊びたい!」
「ラシェルさまも遊ぼう!」

 子供たちに手を引かれて庭に出ると、背後で大きなため息が聞こえた。

「なぁ、まだ帰らないの?」

 うんざりといった様子のその声の主は、隣の領地の伯爵令息、セヴランだ。ラシェルが出かけようとしたところで出会ったのだが、何故か孤児院までついてきたのだ。

「退屈でしたら、セヴラン様はどうぞ先にお帰りください。私はこのあと、クッキーの袋詰め作業もあるんです」

「はぁ? ついてきてやったのに、先に帰れって言うのか? 待っててやるから、さっさと終わらせろよ」
< 90 / 167 >

この作品をシェア

pagetop