塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

彼のためだけのドレス

 ハンカチのことやレナルドの記憶が戻っている可能性など、気になることは多少あるものの、ラシェルの毎日は穏やかに過ぎていく。

 レナルドはいつもあふれるほどの愛の言葉を囁いてくれるし、言葉だけでなく行動でもラシェルのことを好きなのだと示してくれる。

 甘いキスを交わすことはもはや日常の一部だし、一緒に過ごしている時は腰を抱かれたり、手を繋いだり、指先や髪に口づけをもらったりと、レナルドが常にラシェルの身体のどこかに触れている。
 
 レナルドの記憶が戻り、以前のように『形だけの妻』に戻る日がいつか来る。その時に備えて、ラシェルは心の準備をしておかなければならない。

 甘く愛されるこの幸せな日々は、夢を見ているようなものだと心の中で言い聞かせながら、ラシェルはいつもレナルドの口づけや抱擁を受け止めている。


 
「じゃあ、行ってくる。なるべく早く戻るから」

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」

 玄関ホールで、ラシェルはレナルドと向かい合った。先週から、彼は仕事に復帰している。数年分の記憶を失った状態で大丈夫なのだろうかと心配していたが、ここ数年大きな人事異動はないし、騎士としての任務は身体が覚えているので特に問題はないらしい。

 黒い騎士服を身に纏った彼は、普段より精悍さが増して見える。恋に落ちた時と同じその姿を目にするたび、ラシェルの鼓動は速くなる。

 ときめく胸を押さえながら微笑んで見送りの言葉をかけると、レナルドは切なげなため息をついた。

「本当は、ずっとラシェルと一緒にいたいんだけどな……。でも、ちゃんと仕事ができるところも見せておかないと。頑張って働いてくるよ」
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