元恋人と、今日から同僚です

第14話 逃げていたのは、私の方だった

 土曜日の昼下がり。
 駅前のカフェで、朝倉と会った。

 昨日の夜、LINEを送った。「話したいことがある」と。
 朝倉は、すぐに返事をくれた。そして、今に至る。

 窓際の席。外の景色が見える。五月の陽射しが眩しい。
 でも、私の心は晴れていなかった。緊張で、胃が締め付けられる。

「……何から、話せばいいかな」

 私が言うと、朝倉は静かに答えた。

「ゆっくりでいいですよ」

 待つと言った、あの言葉通り。
 朝倉は、私のペースに合わせてくれる。

 深呼吸して、話し始めた。

「昨日、美咲さんに会った」
「……姉さんに?」

 朝倉が、少し驚いた顔をした。

「うん。昨日の帰りに連絡が来て。五年前のこと、色々聞いた」
「……そうですか」

 朝倉の表情が、少し曇った。

「朝倉が、ずっと自分を責めてたって聞いた。私を追い詰めたって」
「……」
「私、知らなかった。朝倉がそんなふうに思ってたなんて」

 朝倉が、視線を落とした。

「俺は、本当にそう思ってたんです。真帆が頑張ってる時に、邪魔をした。
 俺のせいで、真帆が苦しんだ」
「違う」

 私は、はっきり言った。

「朝倉は悪くない。私を心配してくれてただけでしょ。それを、私が勝手に否定されたと思い込んだ」

 朝倉が、顔を上げる。
 その目が、少し潤んでいるように見えた。

「美咲さんに言われて、気づいた。お互いに言葉が足りなかったって。すれ違ったって」
「……」
「私、朝倉の気持ちをわかろうとしなかった。
 自分のことで精一杯で、それ以外、考えられなかった」

 言葉にすると、自分の愚かさが改めて浮き彫りになる。
 当時の私は、どれだけ自己中心的だったんだろう。

「だから、謝りたい。五年前、ちゃんと話し合わなかったこと。
 朝倉の気持ちを聞かなかったこと。ごめんなさい」

 頭を下げた。
 テーブルに額が付きそうなくらい、深く。

「……顔を上げてください」

 朝倉の声。
 顔を上げると、朝倉は少しだけ笑っていた。

「俺も、同じです。真帆の気持ちを聞かなかった。
 自分の気持ちを押し付けてしまった。お互い様ですよ」
「でも」
「お互い様」

 朝倉が、繰り返した。

「五年前は、二人とも若かった。言葉が足りなかった。それだけのことです」

 その言葉に、少しだけ救われた気がした。
< 78 / 112 >

この作品をシェア

pagetop