元恋人と、今日から同僚です

第16話 仕事と感情のはざまで

 朝倉と話し合ってから、数日が経った。
 私たちの関係は、少しずつ変わってきている。

 仕事中、目が合うと、お互いに笑うようになった。
 昼休み、一緒に食事をすることも増えた。
 話す内容も、仕事の話だけじゃなくなった。

 趣味のこと、週末の予定、昔の思い出話。
 周囲から見たら、普通に仲のいい同僚に見えるだろう。
 でも、私の中では、もっと複雑な感情が渦巻いていた。

 好きだと伝えた。朝倉も、好きだと言ってくれた。
 それなのに、踏み切れない。



 水曜日。
 次の号の企画会議があった。

 今回、私は新しい特集の企画を提案する予定だった。
 美容特集に続く、新しい挑戦。
 ファッションとライフスタイルを組み合わせた、大人の女性向けの企画。

「じゃあ、結城さんから」

 藤堂さんに促されて、企画書を配る。

「三十代女性のための『スマートカジュアル特集』です。
 オフィスでもプライベートでも着回せる、シンプルで上質なアイテムを——」

 説明を始めた途端、頭が真っ白になった。
 朝倉の視線を感じる。彼が、私を見ている。
 それだけで、集中が途切れた。

「——を、提案します」

 なんとか説明を終えたけど、自分でも何を言ったかよく覚えていない。
 しどろもどろだった。

「結城さん、大丈夫?」

 藤堂さんが、心配そうに聞いてきた。

「はい、すみません。ちょっと体調が」
「無理しないでね。今日は早めに帰っていいよ」

 恥ずかしかった。
 会議中に集中できないなんて……

 会議が終わって、席に戻る。
 朝倉が、さりげなく近づいてきた。

「大丈夫ですか?」
「……うん」
「顔色、悪いですよ?」
「うん。大丈夫だから」

 突き放すように言ってしまった。
 朝倉が、少し傷ついた顔をした。

「……ごめんなさい。余計なことを」
「違う、私が——」

 言いかけて、止めた。
 周囲の目がある。ここで話すのは、まずい。

「後で、話すね」
「……わかりました」

 朝倉が、自分の席に戻っていく。

 何をやっているんだろう、私は。
 自分が集中できないことを。それを朝倉に当たって。
 
 「最悪……」

 誰にも聞こえない声で、呟いた。
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