たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
重くなったもの
枝葉や小石がそこら中に落ちている、土の上り坂を、かれこれ数十分歩き続けている。

普段は、舗装された平らな道ばかり歩いているからか、ただ歩いてるだけなのにすごく疲れる。

息がたちまちハアハアと上がり、真っ直ぐ立っているのも辛くなって、もう膝に手をつき、地面を見ながら、歩くしかない。

でも、外の風が冷たいから、こんなに動いているはずなのに、不思議と汗を流すことはない。

私は、ついに、止まった。
肩を上下させながら、吸って吐いて。

ふと、顔を上げてみた。
そこにあるのは、四方八方に枝葉を広げる、大木たち。葉と葉の隙間から、辛うじて、曇った空の色が見える。

そして、そんな私の横を、大荷物を持ったスタッフさんが一人、しっかりとした足取りで、通り過ぎていく。

歩こう。

また、地面に視線を移したとき……

「ねえさん、大丈夫?」

後ろから、湊の声がした。
でも、拓真におぶられて、私はすぐ追い抜かされる。

もう、湊の振り向き顔は、ずっと前にいる。

「う、うん……なんとかね」

息絶え絶えになりながら、口角だけはまだ上がった。

すると、拓真が止まった。

こちらに顔だけ見せて、気にかけてくれた。

「もう、すぐそこだ。ゆっくり来い」
「う、うん。ありがとう」

また、二人の背中しか見えなくなる。
どんどん遠くなっていく。

だから、私も歩く。

そして、本当に、そこから少し歩くと、水の流れる音が聞こえてきた。

だから、私は、また止まった。
ハアハア言いながら、顔を上げた。

穏やかな浅瀬の川があった。

流れはほんとに緩やか。
でも、冷たいそよ風が川を揺らす。

空に光なんてないと思っていたけど、水面はキラキラと輝いている。
見える石ころは、うんと大きい。

もっと上を向いた。
やっと、空が見えた。
白い雲がかかっていて、太陽の光なんてないのに、やけに明るく見えた。

今日の撮影は、ここが舞台だ。

与助は、河原にしゃがみ込んでいる。
その子の前にはゆったりと川が流れてる。

真っ赤な手で、川の水を汲み上げ、ズルズルと音を立てながら、啜ってみせた。

すると、大きな石ころが、なぜかザクザクと音を出し始める。

与助は、振り返る。
すでに、数人の大人たちに囲まれていた。

大人たちを見上げ、ぐるりと見渡した。
そして、真ん中の大人一人を、じっと見た。
ギロリと、睨みつけた。

でも、彼らはたちまち襲いかかってきた。
大きな声を出しながら。

「何じゃ、その目は?」
「はよう出さんか!」
「大人しくせえ!」

与助は、手を出されても、膝を抱え、俯いたまま。じっと、耐えている。

身体中、泥まみれ。
着物だって、もうぐちゃぐちゃだ。

でも、最後まで、絶対にやり返そうとはしなかった。

すると、遠くから、またザクザクと、石を踏む音が聞こえてくる。

与助は、その音に気づいて、顔を上げた。
ゆがんでいた表情が、パッと明るくなった。

「何をしている」

ぞくっとする、凄みのある声。

盗賊たちの動きもぴたりと止まった。
一斉に振り返る。

平次は、もう、左腰の柄に手をかけていた。
それはもう、今にも、人を殺めそうな恐ろしい目つきで。

全員が怯えた顔になった。
走って、逃げて行った。
ザクザクと音を立てながら。

音が消えた。

平次は、まだ彼らが消えた先に、刺すような目つきを向けている。

柄から手を離した。
両手を袂に入れた。
そして、目から殺気が消えた。

もう一度、与助を見た。

ずっとニコニコと見つめられている。

息を吸って、吐いた。
ザクザクと音を立てて、真っ直ぐ歩き出した。

与助の前で止まった。
しゃがみこんだ。

袂から両手を出した。
その手で身体中の汚れを乱暴に払ってみせた。

「お前も、いつかは一人で戦わなければならん」

いつもはスーッと通り過ぎていくセリフたちだけど、今日はなんだかその言葉がやけに引っかかった。

(一人で……か)

そう、ぼんやりと考えていた。
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