たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
大告白SP
部屋にいる。
窓の外はもう真っ暗。

私は、しゃがみ込みながら、パカーンと開いたキャリーケースに、最後の一枚を押し込んだ。

もう、何も入る場所はない。

(なんであんなこと言っちゃったんだろう……あんなこと言わなきゃ良かった……)

でも、やっぱり変わらない。
最初から最後まで、ずっと、同じことを考えていた。

これで、もう、ここからも出ていかなくちゃならないのに。
もう、終わりだ。

パタンと、ケースを畳もうとした。
そのとき。

後ろから、ガサゴソと、何やら騒がしい物音が。
とっさに振り向いた。

さっきまで、湊は座卓の上にリュックを置いて、正座しながら荷物を詰め込んていた。

なのに、今はなぜか膝立ちになって、リュックの中身を一つ一つ、座卓の上に出していた。

しかも、焦っている。

湊をずっと、そばで見てきたから。
私にはその理由がすぐに分かった。

だから、私は焦っていなかった。
飄々と、こう声をかけた。

「湊?なんか落とした?」

湊の手が止まった。 
下を向いたまま。

涙声だった。

「……キーホルダー」

(そっか、そっか……やっぱりね……)

さささっと、膝立ちで進んだ。
リュックの口を、両手でガバッと開き、上から覗き込んだ。

「キーホルダー?どんなやつ?」
「僕のじゃない……」
「んーー?じゃあ、誰の?」

目だけで確認しても、それらしきものもはない。

だから、今度は手を突っ込んで、ごそごそと漁りだした。

でも、私の手はぴたりと止まった。

視界の端っこを見た。

ポトンと、座卓の上に、涙が一粒落ちてくる。
また、一つ。
また、一つ。

湊を見た。

俯いてる。
顔は見えない。

でも、肩を上下に動かしながら。
涙ながらに、こう言った。

「ねえさんの、宝物……」

何か、頭をガーンと殴られたような。
そんな、衝撃だった。

ストンと、尻を落とした。
意識を飛ばしたように、一点だけを見つめていた。

「どうしよう……どうしよう……」

湊の泣き声も、繰り返されるその言葉も。
遠くに、聞こえる。

でも、だんだん、大きくなってくる。

私は、ハッとした。
視線が、ぶれた。

もう一度、湊を見た。
湊も、ぺたんと尻を落とし、天井を仰いで、大泣きしていた。

慌てて、湊を持ち上げた。
膝の上に、向かい合って、座らせた。
抱きしめた。

小さな背中を、両手で摩った。
とにかく思いつく言葉をたくさんかけた。

「ごめん、ごめん。大丈夫。絶対見つかるって?ね?心配ない、心配ない」

湊の顔は、私の胸に埋もれている。

私の顔は、ガラス窓に映る。
眉間には皺が寄り。
眉は尻下がり。
私まで、泣きそうな顔だった。

しばらく、そうしていた。
わーんと、制御のない泣き声が、ずっと聞こえていた。

でも、今は、それもない。
短く息を吸い込む音だけだ。

そして、湊はモゾモゾ動いた。
私を、見上げた。

目の周りは、涙でびちゃびちゃだった。
眉は困ったように、下がり切っていた。
皮膚も、真っ赤になっていた。

「ねえさん、ほんとに見つかる?」

湊の言葉も、呼吸も、切れ切れ。
それだけで、心が、ズキっと痛む。

だから、私は、ゆがんだ顔をなくした。
にっこり笑って、うなづいた。

「うん!もちろん!見つかる見つかる!」

自信たっぷりに言った。
は、良いが……
手がかりが、まるでない。

(どうしよっかな……)

だから、そのまま、思いつく限りに、色々と聞いてみた。

「そうだ!湊さ、今日、このリュック持ってたっけ?」
「うーん、と。ジュース買いに行くときだけ」

「そのとき、開けた?」
「うん……」

世界が、ガラッと明るくなった。

口角も、自然と上がった。

声も、うんと弾んだ。

「なんだー!じゃあ、大丈夫じゃん!絶対あるよ!」

前後にゆらゆら揺れた。
湊も揺れた。

でも、私は、大事なことを思い出した。

(あっ、時間……!)

慌てて、湊の背中に回した腕を、顔へと近づけた。今の時間を確かめた。

集合時刻まで、あと10分。

すぐに、湊を抱いたまま、立ち上がる。

「湊。とりあえず、ロビーまで行っちゃおう」
「うん」

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